投稿日:2025年11月2日

製造業で活躍するための材料力学と応力・ひずみの基礎

はじめに:製造業における材料力学の重要性

製造業は、ものづくりの根幹を担う日本経済の基盤です。

その中でも、現場で実際に使われる製品や部品の品質や安全性、コスト管理は、ますます厳しさを増しています。

これらを実現する上で、避けて通れないのが「材料力学」の知識です。

材料力学は、製品や部品の形状・材料の選定・加工方法の決定、さらには設計や品質保証の現場まで、多くの工程で活用される基礎学問です。

とくに、調達購買やバイヤーを目指す方、サプライヤーの現場担当の方にとっては、材料そのものの「強さ」や「変形」の特性を理解しておくことが大きな武器となります。

本記事では、製造業の現場で20年以上培った経験をもとに、材料力学の基礎と「応力」「ひずみ」について、現場目線で実践的に解説していきます。

また、昭和のアナログ業界に根付いている現場感や、最近の業界動向も交え、ラテラルに学びを深められるように展開します。

なぜ今、材料力学があらためて注目されるのか

デジタル化時代でも「モノの強度」は現場の判断材料

近年、IoTやAIなどのデジタル技術が製造業にもどんどん導入されています。

しかし、どれだけデータ分析やシミュレーション技術が進化しても、現場の設備や製品に「どれだけの力・重さ」が加わると「どの程度、壊れる・曲がる」のかという知識は、今もなお人的な勘所が重要です。

なぜなら、設計段階では十分な強度を持たせたつもりでも、現場での組立てミスや、長期使用による材料劣化、微細な加工誤差などはデータだけでは読み切れません。

こうした「現場のリアル」を踏まえて、具体的な材料選びや工程改善を行う際、材料力学の基礎を理解していれば、大きなロスやミスも減らすことができます。

脱・昭和のアナログ管理から「根拠ある現場提案」へ

昭和から続くベテラン職人の感覚や魂は、間違いなく製造現場の宝です。

ただし、これだけでは「なぜこうするべきなのか」を言葉で説明しきれない時代になっています。

海外のサプライヤー増加、国際規格適合、製品責任の明確化など、「根拠ある現場提案」がより求められる時代となりました。

このとき、材料力学――特に「応力」「ひずみ」への理解が、自信をもって伝えるための科学的根拠となります。

社内提案・社外交渉・サプライチェーン強化を進める上で、材料力学の知識は欠かせない教養です。

材料力学の基礎:材料に生じる応力とひずみとは?

応力とは?材料が受ける「力の内部反応」

「応力(おうりょく:Stress)」とは、材料内で発生する単位面積あたりの内部の力のことです。

端的にいえば、「部品・材料が外から引っ張られたり、押されたり、曲げられたりしたとき、内側でどれくらい耐えているか」を示す値です。

応力は、力の種類によって「引張応力」「圧縮応力」「せん断応力」「曲げ応力」などに分類されます。

現場あるある:
たとえば、機械部品のボルトの締め付けトルクは「引張応力」、工場の床に置く台車の脚へは「圧縮応力」、長いシャフトがねじれれば「せん断応力」がかかっています。

基礎式は、次のとおりです。

応力(σ)= 力(F)÷ 面積(A)
単位は [N/mm²] あるいは [MPa] です。

力と面積の両方をしっかり計算しないと、部品破損や事故原因になりますので、現場での数値にも気を配りましょう。

ひずみとは?「変形の割合」を表す指標

「ひずみ(ひずみ:Strain)」は、材料が実際にどのくらい変形したかを表す「変形の割合」のことです。

部品や材料を引っ張った際、実際の伸び量(ΔL)が元の長さ(L)に対してどの程度の比率なのかで表現されます。

ひずみ(ε)= 変形量(ΔL)÷ 元の長さ(L)
単位はなく、%や小数で表記します。

現場あるある:
よくあるのが、プレス加工や曲げ加工の際、材料が「どこまで曲げられて戻るのか」を読み違えてスクラップロスにつながるケースです。

あらかじめ「ひずみ」の限界(材料ごとの破断ひずみ、降伏点ひずみ)を把握しておけば、安全な加工条件や品質基準を現場で判断できます。

応力-ひずみ線図で見る材料の強さと弱点

材料の応力とひずみの関係を表したグラフが「応力-ひずみ線図」です。

グラフの傾き(ヤング率、剛性)が大きいほど「変形しにくい(高剛性)」材料、なだらかに伸びる材料は「ねばり強い(高延性)」ことが見て取れます。

現場で最も重要なのは「どこまでが安全領域か」を判断することです。

応力-ひずみ線図から、弾性範囲(力を除けば元に戻る領域)、降伏点(変形が大きくなりやすい臨界値)、破断点(材料が切れる・壊れるポイント)を見極めます。

この考えは、ボルト締結、板金部品の曲げ、シャフトのたわみ許容など、製造現場のあらゆる判断に直結しています。

実際の製造現場で役立つ材料力学の視点

調達・購買バイヤーにとっての材料力学

バイヤーや調達担当者は、材料や部品を「単価・納期・規格」だけで選ばない時代です。

強度不足によるリコール、過剰品質によるコストアップのリスクは、調達段階から材料特性を正しく見極められるかどうかで決まります。

例えば、サプライヤーから「同じ材料名・寸法でも、引張強度や降伏応力は?どの規格で合格した?」といった技術的な会話ができれば、価格交渉や仕様変更の際も説得力が大きく高まります。

また、一見コストダウンに見える「低価格品」でも、応力限界が低いためにクレームや早期劣化コストが発生する危険も見抜けます。

例えば「このスチールは降伏点が通常より高いですか?」とサプライヤーに尋ねるだけで、適合可否や工程ごとの使い分け判断が格段に実践的になります。

サプライヤー目線:バイヤーの要求の背景を読み解く

逆にサプライヤーの方にとっては、「バイヤーがなぜ強度規格や材質証明にこだわるのか?」を知ることが大切です。

単なる書類主義ではなく、設計開発段階から法規制や顧客クレームを回避し、「不具合発生時の責任範囲」をきちんと説明できる材料特性の提示が、バイヤーが重視している点です。

材料力学の基礎データ――たとえば引張試験結果、耐久性データ、応力-ひずみ線図など――をしっかり提出できれば、ワンランク上の信頼関係を築けます。

これが「値段勝負」ではなく「確かな品質・根拠ある説明」で差別化する武器のひとつになるのです。

現場でありがちな失敗と、ラテラルシンキングによる解決策

アナログな判断で見落としがちなポイント

昔からの現場では、加工機の「感覚」や「経験則」に頼り、「なんとなく大丈夫そう」と判断してしまうことが多々あります。

また、「安全率を大きめに取る」ことで品質トラブルを予防しようとする反面、意図せず材料コストや重量アップ、製造工程の非効率に陥るケースもしばしばです。

無駄なコスト、納期遅延、不良品の発生につながる、非常に現場では根強い課題です。

材料力学×DX:デジタル活用で現場ノウハウを見える化する

材料力学の考え方を活かしつつ、IoT・シミュレーション・デジタルツインなどの手法と組み合わせることで、感覚や経験の裏付けとなる「数値根拠」を一気に現場に浸透させることができます。

たとえば、応力・ひずみ計測センサーを設置してリアルタイムにデータを収集・可視化したり、既存部品のシミュレーション数値と現実の不具合データをつきあわせることで、現場の加工条件や材料選定基準をアップデートできます。

将来的には、設計—調達—生産—品質—物流まで一貫して「定量的な理解ベースの製造業」が進むでしょう。

異分野の知識と掛け算:ラテラルに現場課題を突破する

また、異分野との掛け算も効果的です。

たとえば「材料力学+人間工学」で安全性と省力化を両立したり、「材料力学+バイオ技術応用」でより機能性の高い部品開発に舵を切るなど、現場の制約を超えた新たな解決策が次々と生まれつつあります。

自分の担当領域にこだわり過ぎず、「別業界や他部門の知恵をどう活かすか」という視点が、これからの製造業人材には求められるでしょう。

まとめ:今こそ基礎から学び直す材料力学のすすめ

製造業の現場では、高度なデジタル化が進む一方で、「材料の強さ・変形・壊れ方」を本質的に理解しているかどうかが、企業の競争力を左右します。

応力やひずみの基礎を身に付ければ、調達交渉、設計品質、市場クレーム対応のすべてに「根拠ある現場力」が養われます。

昭和アナログの良さを活かしつつ、確かな理論と新技術を組み合わせ、サプライヤーともバイヤーとも対等に議論できる「本物の現場力」を身につけましょう。

この機会に、材料力学の基礎、そして応力—ひずみの世界を現場の目線で学び直し、新たな製造業の未来につなげてください。

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