投稿日:2025年6月16日

材料力学の基礎と強度設計および疲労設計への応用

はじめに:なぜ材料力学が製造業の基礎科目なのか

製造業に携わる方々、またバイヤーを目指す方やサプライヤーとしてバイヤーの視点を学びたい方にとって、材料力学はまさに”現場の礎”と呼ぶにふさわしい学問です。

私は現場で20年以上を過ごす中で、材料力学が単なる机上の理論ではなく、あらゆる製品の信頼性やコスト管理、さらには工程設計に直結する実学であることを痛感してきました。

昭和世代から受け継がれたアナログ思考が根強い中でも、「なぜこの寸法が決まったのか」「なぜこの材料を使うのか」という場面では、必ず材料強度・疲労・破壊の知識が問われ続けています。

この記事では、材料力学の基礎から強度設計、そして実際の製造現場で付きまとう疲労設計への応用を、現場目線で分かりやすく整理し、最新の業界トレンドも交えながら実践的な情報をお伝えします。

材料力学とは何か?現場での重要性

材料力学の定義と役割

材料力学とは、外力が加えられたときの材料や構造物の変形や破壊のメカニズムを解明する力学の一分野です。

単なる「壊れる・壊れない」ではなく、「どの程度の荷重でどのような変形をするか」「疲労やクリープ(変形し続ける現象)はどこで発生するのか」を把握し、最適な材料選定や設計を可能にします。

現場の感覚的な「だいたい大丈夫」という判断から脱却し、科学的根拠に基づいた設計・品質保証のために、材料力学は必要不可欠です。

なぜアナログ思考が根強いのか

いまだに「昔からこの材料を使って問題なかったから」「設計値には余裕を持たせているから大丈夫だろう」といったアナログ的な考え方が製造業界には残っています。

これは、長年の経験則や現場作業者の勘・コツが多くの現象をカバーしてきた背景があります。

しかし、生産工程の複雑化や多様な新素材の登場、グローバル調達の拡大によって、“勘”だけではリスク管理が通用しない時代になりました。

材料力学を現場に根付かせることが、今後のものづくりの競争力向上につながります。

材料力学の基礎:応力・ひずみとその活用

応力とひずみの理解

最も基本となるのは「応力」と「ひずみ」です。

応力(ストレス)は、外力を受けたとき単位面積あたりに働く内力であり、N/mm²(Pa, MPa)で表現されます。

ひずみ(ストレイン)は、元の長さに対する変形量の割合を示します。

現場では「ボルトが引っ張られているとき、材料断面積にどれだけ力がかかっているか」や「加重後にどれだけ伸びているのか」といった極めて実用的な判断に使用します。

フックの法則と弾性限界

材料が「元の形に戻れる範囲=弾性域」では、応力とひずみはフックの法則(比例関係)に従います。

これより小さい荷重なら安全ですが、弾性域を超えた「塑性域」に入ると形が元に戻らなくなります。

設計では弾性限界や降伏点をしっかり意識しましょう。「限界ギリギリ」の設計は、製造バラツキや経年劣化、現場トラブルの温床です。

静的強度と安全率の考え方

構造部品の設計では、静的荷重(一時的にかかる力)に対して強度を見積もり、材料強度÷期待される最大荷重という「安全率」を設定します。

ここで求められるのは、最悪時でも壊れない設計です。

安全率を大きくとりすぎると過剰品質やコスト高の原因になります。

一方で、必要最小限の安全率で構造を成立させてコスト競争力を高めるには、材料力学と現場環境の両方を把握する知識が不可欠となります。

形状・応力集中と現場での設計上の盲点

形状による強度の違い

同じ材料でも、部品形状によって強度は大きく変化します。

代表例は「応力集中」です。

たとえば、部品に穴を空けたり、コーナー部に急激な切り欠きを入れたりすると、その部分に力が集中し、思いがけない破壊が発生しやすくなります。

設計段階では「丸み(R)を持たせる」「穴の位置をずらす」などの配慮が必須です。

新素材や新工法の場合こそ、過去の常識が通用しなくなるので要注意です。

現場でありがちなミスと対策

製造現場では、図面通りの寸法が確保できていない、バリ取り作業が不十分といったごくわずかな形状の乱れが、重大な強度低下を招く場合があります。

特に疲労破壊は、非常に小さな欠陥やキズが起点になるため、工程管理や検査の見落としが致命傷となり得ます。

現場での「良品確保」は、技術者と現場スタッフが材料力学の素養を共有し、どの工程が最も製品強度を左右するかの視点を持つことが重要です。

疲労設計の実際:現場で収益を左右する「目に見えないリスク」

疲労のメカニズムと実被害

金属や樹脂は、一度に大きな力がかかった場合以外にも、「小さな力の繰り返し」—すなわち疲労—によって時間をかけて破壊します。

例えば、航空機部品や自動車、工場の搬送レールなど、反復使用される部品では「疲労限度以下でも長期間で破壊する」ことがあります。

「実際に使い始めて何年も経って初めて破損した」「検査では異常がみつからなかったのに突然壊れた」といった現場のトラブルの多くは、この疲労によるものです。

設計・調達現場における最新動向

近年では顧客要求レベルが上がり、「10年耐久」など長寿命化要請が当たり前になっています。

調達・購買の現場でも、バイヤーは単純なスペック比較だけでなく、サプライヤーがどの程度疲労試験を実施しているか、現場へのフィードバック体制が整っているかを重視する傾向が強まっています。

加えて、デジタルツインやAI解析の導入により、設計段階からシミュレーションで疲労解析を行う事例が増えています。

昭和的な「勘と経験」の域から抜け出し、より科学的で再現性の高い設計、購買戦略が不可欠です。

材料選定・コストダウンのための材料力学活用術

調達・購買への応用

バイヤーや調達担当者は、供給できる代替材の提案や、コストダウンに際して材料力学の知識が極めて重要になります。

例えば同じ強度要求を満たすために、「高強度鋼を薄板で使用する」「アルミ合金を肉厚で使用する」「樹脂の異種材料を組み合わせて複合化する」といった多様なアプローチが可能になります。

このとき、材料力学のデータを基に調達先の選定や、最適な工法選択、価格交渉ができます。

現場のQ(品質)・C(コスト)・D(納期)を最適化

現場での品質不具合は、非効率や再発工事を生むだけでなく、場合によってはリコールや訴訟といった桁違いの損失を引き起こします。

それを防げるのが材料力学の活用です。

また、最適な材料と最適な加工法を組み合わせることで、コストダウンと納期短縮の両立も実現しやすくなります。

まとめ:現場力強化のカギは「材料力学×実践」

製造業の現場では、日進月歩で新素材や新工法が登場し、サプライチェーンもグローバル規模で進化し続けています。

そのなかで、長年の経験やアナログ的な現場力も決して無視できません。

しかし、時代は「なぜこの材料・構造が良いのか」を、理論とデータにより説明する力を求めています。

材料力学の知識を踏まえたうえで、現場の実践値と組み合わせる。

これこそが、バイヤー・開発者・工場管理者・そしてものづくりに携わるすべての人が2024年以降も未来を勝ち抜くための切り札となるはずです。

製造現場で材料力学を活用し、現場とともに進化することで、より安全で高品質、かつ持続可能なものづくりを実現していきましょう。

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