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金属腐食・ガルバニック腐食の基礎と対策技術および寿命推定法

目次
はじめに:現場目線で理解する金属腐食の本質
製造業に従事する全ての方にとって、金属腐食は避けて通れない課題の一つです。
現場では「またサビか」「どうして対策しても腐食するのか」と悩んでいる声を幾度となく耳にしてきました。
特に昨今、生産コストの削減や納期短縮、グローバルサプライチェーンの複雑化など、外部環境が劇的に変化する中で、従来のアナログ的な対応だけでは金属腐食や異種金属接触によるガルバニック腐食(電蝕)への理解と対策は十分とは言えません。
昭和的な「現場の勘」に頼りきりだった時代から、データ・理論・実践の総合知識が求められる今。
本記事では、金属腐食・ガルバニック腐食の基礎メカニズムと、現場にそのまま生かせる対策技術、さらに近年注目されている寿命推定手法までを、実地体験を交えて解説します。
金属腐食とは:目に見えないサイレントキラー
金属腐食とは、金属が化学反応により元の鉱石状態(酸化物)へ自発的に戻ろうとする現象です。
主に周囲の酸素や水分、化学物質と反応し、サビや孔食、割れなどの劣化を引き起こします。
このプロセスは長期間にわたり静かに進行し、気づいたときには設備に大きなダメージを与えている場合が多いです。
腐食の主な種類は以下の通りです。
・均一腐食:金属表面全体が均一に劣化する
・局部腐食(孔食、すきま腐食):特定の地点だけが集中的に進行する
・応力腐食割れ:荷重や残留応力下で進行する
・ガルバニック腐食(異種金属接触腐食):2種以上の異なる金属が電解質を介して接触した際に発生
なかでもガルバニック腐食は、異材接合が多い現代の組立現場において特に深刻で、一見「対策万全」と思える設計でも思わぬところで問題が発生します。
ガルバニック腐食(異種金属接触腐食)の仕組み
基本メカニズム
ガルバニック腐食とは、金属A(陽極)・金属B(陰極)が電解質(例:水分や湿気を含む空気、塩水)を介して接触すると、電気の流れ(ガルバニック電流)が生じ、陽極側金属が優先的に腐食する現象です。
たとえば、アルミニウム(陽極)とステンレス(陰極)をボルト・ナットで組み合わせ、雨や湿気のある環境で使うと、アルミニウムだけに激しいサビが発生します。
これは両者の標準電位差によるもので、標準電位が低い金属から腐食が始まります。
現場での代表的事例
・塩害地域での屋外設備(鉄骨・アルミ製架台のボルト接合部)
・工場の配管やタンク
・機械構造物、搬送機器参照
現場では「なぜ片方の金属だけ急速に劣化するのか分からない」といった問題が起こりやすいです。
アナログ時代から進化しない現場の腐食対応の現状
現場では今も「錆止め塗っとけ」「とりあえずステンレスが最強だ」といった経験則や属人的な対応が主流です。
しかし、設備寿命やランニングコスト、ダウンタイムの観点で見ると、もっと根本から腐食防止を設計・管理している工場は極めて少数です。
特に日本の中小製造業や、伝統的な業界では昭和のマインドが色濃く残っています。
・異種金属の組み合わせを無視した設計
・観察・点検頻度が経験依存
・「気づいたら取り替えればOK」と消耗品感覚
このままでは製品品質や顧客信頼にも影響しかねません。
DXやスマートファクトリーが叫ばれる昨今、この旧態依然とした意識こそが真正面から変革すべき課題なのです。
腐食対策技術:現場で実践する5つのポイント
現場で即実行できる腐食対策のポイントは以下の5つです。
1. 適切な材料選定
まず最も重要なのは、使用環境に応じた材料選定です。
例えば、海沿いの工場で一般構造用鋼材とアルミを接触させるのはNGです。
設計段階で腐食電位表(ガルバニックシリーズ)を参照し、電位差の小さい金属同士を使うのが原則です。
また、コスト優先で「とりあえず鉄」で妥協せず、用途や寿命・トータルコストを見据えてSUS、チタン、メッキ鋼板、アルマイト等も検討すべきです。
2. 異種金属の絶縁
現場では樹脂ワッシャーやシールテープ、コーティング塗料などを組み合わせて異種金属が直接接触しないようにします。
コストも手間も少ない割に現実的で効果的です。
ケーブルラックや制御盤取り付けなど、細部でよく生かされています。
3. 表面処理・防食塗装
亜鉛メッキ、クロムメッキ、カチオン塗装、フッ素樹脂塗装など耐食性に優れた表面処理は、従来から使われる有効な手段です。
しかし「予算がなくて簡易メッキだけ」「誰もチェックしていない」といった、アナログ現場由来の落とし穴には注意が必要です。
防食性能の検証(塩水噴霧試験など)を設計段階で実施しましょう。
4. 構造設計の工夫
水溜まりが出来にくい構造、雨水が流れ落ちやすい勾配設計、点検・清掃しやすい取り付け箇所も腐食防止の重要ポイントです。
現場目線の「作業性」と合わせて設計することが、アナログとデジタルの融合的アプローチとなります。
5. 定期点検と予防的保全
見逃されがちですが、定期的な点検と予防的な部品交換、現場作業員への教育が最終的な武器になります。
浸食部位の早期発見や「兆候管理」を導入することで、突然のライン停止や事故を未然に防げます。
IoTセンサー技術と連携させ「点検の見える化」も今後の主流です。
寿命推定(ライフサイクルアセスメント)最新トピックス
腐食による部品・設備の寿命推定は、今や企業の競争力に直結する重要テーマです。
従来は「経験則」や「カタログ値」に依存してきた現場も多いですが、近年は科学的なアプローチが標準となりつつあります。
加速腐食試験の活用
塩水噴霧試験、サイクル腐食(湿潤・乾燥繰り返し)、電気化学インピーダンス測定など、数週間~数ヶ月で現実環境の何年も先の腐食挙動をシミュレーションする技術が発展しています。
腐食速度/腐食現象の数値モデル
ファラデーの法則や交流インピーダンス法による腐食速度の定量把握。
膨大なフィールドデータとAIを組み合わせた寿命予測サービスも登場しています。
また、LCC(ライフサイクルコスト)と連動した戦略的メンテナンス計画が構築可能です。
デジタルツイン × メンテナンスの新地平
工場全体のデジタルツイン(仮想工場モデル)上で腐食発生、ライフ予測、部品手配を自動反映する仕組みが、既に自動車・重工分野では始まっています。
中小企業でもIoTセンサーやクラウドサービスを応用した組立ラインの検知・通知システムの導入が進んでいます。
バイヤー・サプライヤー視点で考える腐食管理戦略
部品調達やバイヤー業務においても、腐食問題はコスト・品質・ブランド信頼性に直結しています。
調達側の「Q(品質)C(コスト)D(納期)」管理に加え、E(環境)・S(サステナビリティ)の視点が今後さらに重要です。
バイヤーとして実践すべき視点は以下の通りです。
・仕様書/納入仕様に耐食性能・寿命予測・定期交換指標を明記
・現場・物流・出荷・保管を含む全プロセスを監査し、腐食リスクを抽出
・サプライヤーと腐食対策技術の知見を共有し、オープンな対話を推進
・部品設計段階で腐食最小化アプローチ(DfR:Design for Reliability)を組み込む
サプライヤー側も「なぜ必要なのか」背景を理解し、技術的提案や支援ができると、調達側との信頼関係や商談力、差別化に大きく寄与します。
おわりに:製造業の未来と、腐食管理の“新常識”
金属腐食やガルバニック腐食は、決して「技術者だけの問題」でも、「現場任せ」にもできません。
デザイン・材料・現場管理・バイヤー・サプライヤーが一体で智恵を出し合い、新たな腐食管理文化を根付かせることが、日本のものづくり産業がグローバルで戦い抜く鍵です。
昭和時代の“感覚値”から脱却し、データ・理論・現場力を統合した腐食マネジメントが、業界に新たな地平線を開拓します。
みなさんの現場や組織でも、小さな一歩から変革を始めてみてはいかがでしょうか。
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