投稿日:2025年6月17日

MIM技術の基礎と製品設計時のポイントおよびトラブル防止技術

MIM技術とは何か?製造業現場での基礎知識

MIM(Metal Injection Molding:金属粉末射出成形)は、金属の微細な粉末と樹脂バインダーを混合し、射出成形機によって複雑形状の金属部品を製造する技術です。
1980年代から普及が始まり、スマートフォン・自動車・医療機器・時計部品など多様な分野で採用されています。

この技術の特徴は、「デザイン自由度の高さ」と「量産時のコスト競争力」、そして「後加工の省略による工程短縮」にあります。
かつてはマシニングやプレスなどアナログな加工工程が中心であった現場も、少品種大量生産から多品種小ロットの時代になり、MIM技術の価値が大きく高まっています。

金属の複雑形状=コスト高 の常識を覆す

従来、金属の複雑形状部品は一つ一つ切削で作り込むため、人手もコストも膨大にかかりました。
MIMはこれをプラスチック成形の感覚で量産できるため、設計段階から「成形できるかどうか」を議論する新しい流れが生まれています。
自動化困難と思われていた細かな医療器具や自動車の精密ギア類も、近年ではMIMの主戦場となっています。

材料コスト・歩留まり・納期短縮効果

また、材料ロス(歩留まり)は従来加工の1/10未満に抑えられます。
材料の歩留まりが向上すれば総コストが低減し、加工工程の省力化によりリードタイムが短縮されます。
これが現場目線で見た最大のメリットです。

設計時に押さえるべきMIM特有のポイント

MIMはどうしても「設計=金型製作=量産」という流れが密接に絡みます。
従来加工と異なり、設計段階で成形性や収縮率、バインダー除去工程など、MIM特有の制約を見逃すと、製品化後のトラブルやコスト増に直結します。

1. 組成・材料選定:MIMグレードの理解

MIMで使える材料は粉末合金にバインダーを混ぜた「MIMグレード」であり、従来の鋼材やステンレスの材料特性とは異なります。
必ずベンダーやサプライヤーと相談しながら、要求にマッチする材料グレードを選定しましょう。
特に耐食性や耐摩耗性など、材料の微細なスペックも品質に大きく影響します。

2. 複雑形状ほど設計・金型の工夫が命

MIMでは金型からの離型性や、焼結時の変形・収縮を見越した設計が不可欠です。
設計時に留意すべきポイントは次の通りです。

・アンダーカットや肉厚変化がある場合は、金型構造と成形工程の打ち合わせが必須
・貫通穴やリブ構造はバインダー残存、ガス抜き設計にも注意
・成形後の焼結縮小(15~20%程度)を考慮した寸法設計
・焼結方向と変形傾向の予測、介在ガス・気泡による内部欠陥への注意

現場の感覚では、「とにかく複雑なものは性急に金型にせず、試作や3Dモック等でシュミレーションを重ねる」ことが、長期的なトラブル防止への近道だと経験上断言できます。

3. 公差と精度:射出と焼結で2段階の変化

MIMはプラスチックの射出成形と同じ成形精度をイメージしがちですが、成形後の脱脂・焼結工程で大きく寸法変化します。
一般的な仕上がり寸法公差は±0.3%程度と言われますが、設計段階で焼結収縮率のバラつきや、金型起因の変形を十分考慮しましょう。

また、精度や表面粗さが厳しい機能部品の場合、二次加工(切削・研磨等)を前提に設計することも大切です。

MIM現場で頻発するトラブルと、その防止技術

昭和の時代からアナログ工程に慣れた現場にとって、MIM導入時の最初の壁は「工程変動への対応力」です。
ここでは、実際に現場で体験することの多い主なトラブル事例と、その防止・改善策を解説します。

1. 成形品の内部クラック・気泡

バインダー含有量や射出温度の不安定さ、脱脂工程の管理不備などで、内部にクラックや気泡が発生することがあります。

【予防策】
・成形条件(射出圧力・温度・速度)の見える化・統計管理
・金型内ガス抜き設計の徹底
・バインダーと金属粉末の混練管理(混ぜムラ防止)

「昭和流の勘と経験」だけでなく、IoTセンサー等によるデータ取得・AI判定を活用することで、不良発生前の予知保全が有効となります。

2. 焼結時の変形・反り

焼結は高温で金属粉末を焼き固める重要工程ですが、装置や温度プロファイルのばらつきで変形が起きやすい工程です。

【予防策】
・焼結治具の最適設計(支持台や押さえ金具の活用)
・温度プロファイルの均一管理・トレーサビリティ
・試作時からの焼結シミュレーションによるリスク評価

また、サプライヤー選定でも「焼結技術」を重視し、QA体制や管理レベルを必ず確認しましょう。

3. 脱脂不良による強度低下・欠品

脱脂工程でバインダー(樹脂成分)の除去が不完全だと、仕上がり部品の強度が低下し、脆くなります。

【予防策】
・脱脂工程の実機条件管理(温度・ガス流量・時間)
・部品形状に応じたバインダー配合比(肉厚変化に要注意)
・検査工程での強度保証試験(サンプル切り出し・破壊試験)

脱脂はMIM最大のブラックボックスともされる工程です。
現場では、脱脂工程での管理記録と抜き取り検査を必ずルーティン化してください。

アナログ現場を変革するためのバイヤー・サプライヤー連携術

現状、MIM技術は多くの工場で「よく分からない、難しそう」と敬遠されがちです。
設計や購買の現場で、高齢者の熟練技術者と若手設計者が意思疎通できないという問題もあります。

これを改革する最大のカギは、バイヤーとサプライヤー双方の「現場目線」共有です。

1. 試作フェーズからのオープン・コミュニケーション

設計担当者・バイヤーは、サプライヤーと早期段階から打ち合わせし、
・材料選定理由
・収縮率のばらつきリスク
・成形性評価データのオープン化
などのテクニカルコミュニケーションを増やすことが重要です。

サプライヤーに丸投げせず、トラブル事例や失敗談も共有することで、現場の改善速度や試作開発の効率が格段に上がります。

2. 現場実習・工場見学での“肌感覚”共有

昭和型アナログ現場では、「技術は現場でしか覚えられない」とよく言われますが、MIMでも同じことが言えます。
設計や購買の若手担当者がサプライヤー工場へ定期的に足を運び、実際の成形・脱脂・焼結工程を目で見て、手で触れて学ぶことで、トラブル防止意識が格段に高まります。

バイヤー視点では「現場に強い購買担当者」こそ、サプライヤーの信頼・コスト交渉力・納期短縮にもつながります。

3. デジタル&アナログ双方の改善活動を推進

デジタル技術(IoT・AI・CAE)は現代の生産管理には必須ですが、一方でアナログ的な「ヒヤリ・ハット」や「現場改善提案」も依然として有効です。
現場オペレーターの経験に基づく“異音・異臭”などの感覚情報と、データロガーや統計ツールを融合させた“ハイブリッド品質管理”を目指しましょう。

さらに、MIM部品の設計~量産までの各段階でPDCAサイクルを高速化し、失敗事例・成功事例を積極的に社内用データベース化しておくことが、業界全体の底上げにも役立ちます。

まとめ:MIM技術で現場力を磨き、業界の革新へ

MIM技術は、今後の製造業における「多品種小ロット化」「複雑形状化」「自動化・省人化」の流れと極めて相性が良い唯一の量産手法です。

ただ、その導入や運用には金型設計・プロセス制御・社内外コミュニケーションなど、従来にはない新しい現場力が不可欠となります。

現場での地道な工夫やデータ活用、バイヤー・サプライヤーの“両面からの目線”を忘れず、一人ひとりの知見や経験が「未来のものづくり」を切り拓くのです。

アナログな既成概念を乗り越え、MIMを武器にした新たな製造業の地平線を、共に切り拓いていきましょう。

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