投稿日:2025年5月31日

撹拌技術の基礎と撹拌機の最適選定スケールアップおよび撹拌トラブル対策と事例

はじめに:製造現場での撹拌技術の重要性

製造業における撹拌技術は、化学、食品、医薬品、化粧品、塗料など、幅広い業界で欠かせないプロセスの一つです。

撹拌は単なる「混ぜる」行為ではありません。

原材料の均質化、反応効率の向上、製品品質の安定、スケールアップ時の安全性など、多くの目的と課題を持っています。

最近では、SDGsや働き方改革の観点からも、省エネや自動化、トラブルの未然防止が強く求められています。

この記事では、現場感覚を大切にしつつ、撹拌技術の基礎から最適な撹拌機の選定、スケールアップのポイント、よくある撹拌トラブルとその対策、さらに実際の対応事例まで深掘りし、現場で即活用できる視点をお伝えします。

撹拌の目的と基礎理論

撹拌の主な目的

撹拌作業の最も重要な役割は、原材料を均一に混ぜ合わせることです。

その目的は多岐にわたります。

1. 成分の均質化
2. 反応・溶解の促進と効率化
3. 気体や液体、固形分の分散
4. 温度均一化
5. 粒子の脱泡・沈降防止
6. 粘度調整や増粘物質の分散

現場では、これらを複数同時に達成することも珍しくありません。

また、工場自動化や省人化の観点で撹拌精度と安定運転はますます重要視されています。

撹拌の基礎理論

撹拌は、液体や固体、気体が混在する系に撹拌機械的なエネルギーを与え、物質移動やエネルギー移動を起こす操作です。

撹拌の効果は、「レイノルズ数(Re)」や「パワーナンバー(Np)」といった無次元数で表現されます。

レイノルズ数は流れの状態を示し、800未満で「層流」、1,000以上で「乱流」とされます。

また、撹拌時には「均一混合」なのか「分散・乳化」なのかという目的に応じた理論的把握が不可欠です。

基礎理論を理解せず経験則だけで運用するとトラブルの原因になりやすいため、現場目線で理論も復習しておきましょう。

撹拌機の種類とそれぞれの特徴

代表的な撹拌機の種類

撹拌機と一口に言っても、そのバリエーションは非常に多いです。

現場でよく使用される代表的な撹拌機をいくつか紹介します。

1. プロペラ式撹拌機
低〜中粘度かつ大容量の液体に。主に循環流を発生させて液体を効率的に混合します。

2. タービン式撹拌機(ラジアル型・アキシャル型)
汎用性が高く、泡立ちやすい系、固体の懸濁、気液混合などにも適応します。

3. パドル式撹拌機
粘度の高い流体や、擬塑性流体(チョコレート、ペースト系)に最適です。

4. アンカー式撹拌機
タンク壁に沿って回転し、タンク内の隅々まで流れを作るため、粘度高めの液体向けです。

5. ホモミキサー・ディスパーサー
せん断力が強く、微細化・乳化・分散に重点を置く場合に最適です。

この他、オービタル撹拌や超音波式、小型磁気撹拌など特定用途に特化したものもあります。

撹拌機選定時のポイント

撹拌機選定で最も重要なのは、「現場の目的」と「原材料の性状」をきちんと把握することです。

以下の観点で調査・ヒアリングし、総合的に判断しましょう。

– 材料の物性(粘度、密度、粒径、化学的安定性)
– 処理量・バッチサイズ
– 必要な混合精度
– 撹拌タンク形状(容積、内径、高さ、バッフルの有無)
– 発熱や冷却の必要性
– 清掃やメンテナンス性、作業者の安全性
– 動力コスト(省エネ・消費電力削減)

選定ミスは、混合不良、沈降・凝集・分離、過剰泡立ち、撹拌機故障、品質トラブルの直接原因につながります。

「今までこれでやってきたから」「ベテランが選んだから」という昭和的な慣例に陥らず、データに基づく選定が必須です。

撹拌のスケールアップで注意すべき点

ラボ・パイロットから量産スケール

新製品の開発・導入時には、ラボスケールからパイロット、量産スケールへと段階的なスケールアップが不可欠です。

撹拌プロセスでは、単純なサイズアップでは性能を保証できません。

エネルギー供給量、攪拌パワー、流動形態、せん断力などが、スケールアップで非線形に変化するためです。

例として、タンク容量が10倍になっても、撹拌機出力や羽根径は10倍にはなりません。

最もよく使われる方法は「一定のレイノルズ数」「一定の周波数/周速」「一定の混合時間」にあわせて各種パラメータを決定することです。

ここで生じるのが、「量産設備にした途端に品質がばらつく」「混ざらない・沈殿する」といった現場特有のスケールアップトラブルです。

スケールアップ時の落とし穴

– 撹拌動力の不足または過剰
– 羽根形状・回転数のスケール誤差
– タンク形状とのマッチング不良
– 部分混合・デッドスペースによる品質不良
– 泡立ちや、材料損失(飛散、粘着、不完全分散)

スケールアップ失敗はコストと時間の浪費につながります。

ベンチやパイロット段階で必ず物性データや混合状態を可視化し、シミュレーションや実証試験を怠らないことが重要です。

よくある撹拌トラブルと原因・対策

撹拌トラブルの事例と対策案

1. 溶け残り・ダマ発生
原因:撹拌力不足、原料添加タイミング、溶解促進剤不足
対策:撹拌機のパワーアップ、添加ポイントの見直し、予備混合や温度の最適化

2. 沈降・分離・層状化
原因:タンク底部混合不良、粘度差・比重差による不均一、撹拌機選定ミス
対策:羽根径UPや低回転大羽根タイプ導入、タンク形状改善、バッフル増設

3. 過剰泡立ち・発熱
原因:挿入インペラが液面暴露・空気巻き込み、回転数過剰
対策:羽根位置・回転数最適化、脱泡装置追加、防泡剤利用

4. 撹拌機シャフト折損・機器故障
原因:粘度変動の加味不足、混合物固化、異常動作の見逃し
対策:過負荷検知センサーの導入、周期的なメンテナンス、条件異常時の自動停止設定

5. 生産バッチ間での品質ばらつき
原因:条件管理の甘さ、人手操作の影響、温度・粘度変化の反映漏れ
対策: パラメータの標準化、自動制御・センサー化推進、作業標準・教育徹底

特に「アナログ慣行に頼りきってしまいデータ管理・設備改善が後手になる」というのは日本の製造業現場で根強い問題です。

客観的なデータ記録とPDCAループで根本改善を図りましょう。

新たな潮流:デジタル技術と撹拌現場の進化

省エネ・自動化とIoT活用の重要性

従来の撹拌技術は熟練工による経験と勘(職人技)に依拠してきました。

しかし、省エネや省人化、再現性向上の必要性から、近年は以下のようなデジタル・自動化の取り組みが求められます。

– 撹拌機の電力消費量モニタリングと最適化制御
– タンク内撹拌状況の可視化(センサーデータや画像解析)
– 温度・粘度・圧力のリアルタイムフィードバック制御
– 異常状態の自動検知・アラート連携
– 設備データの一元管理・トレーサビリティ推進
– 予知保全や性能診断のAI活用

これらは「人と設備の協調作業」という視点で捉えるべきです。

現場スタッフが経営層や間接部門と連携し、デジタルデータ活用による価値創造を推進することが、今後の差別化ポイントとなるでしょう。

実践事例:撹拌トラブル解決への現場アプローチ

事例1:沈降トラブルをデータ活用と設備改善で克服

ある化学メーカーで、固形分の沈降による品質不良が度々発生していました。

従来は運転担当者が「撹拌時間を延長する」ことで対応していましたが、解決には至りませんでした。

本質的な原因は、既設撹拌機の羽根径が小さく、タンク底部の攪乱が不十分だったことです。

そこで、現場と技術者が連携して、直径拡大インペラーへのリプレースと、粘度・回転数の連続モニタリングを実施。

運転条件最適化と省エネ制御も同時に進めた結果、沈降トラブルは大幅に減少し、さらに電力コストも年間20%削減。

このような「工程データの定量的分析」と「現場起点の改善サイクル」はどの企業でも参考になる方法です。

事例2:スケールアップ時の乳化不良をシミュレーションで解決

化粧品メーカーで新規乳液製品の量産化に際し、ラボから量産スケールへの移行時に乳化粒径のバラつきが課題となりました。

現場では従来通りの設定条件を適用しようとしましたが、デジタルツイン技術(流体解析シミュレーション)を活用。

製品ごとに最適な羽根径・回転数・撹拌時間の組み合わせを科学的に算出し、実機検証。

結果として、乳化品質の安定化と複数バッチ間の再現性確保に成功しました。

アナログ慣行では見落としがちな「可視化とデータ活用」が成果を後押しした事例です。

まとめ:撹拌技術の最適化で現場価値を最大化する

撹拌技術は、原材料の本来の価値を最大限に引き出し、最終製品の「品質・コスト・安全・環境」全てに大きな影響を与えます。

その本質は、現場で起きる課題に対し、理論と現場知見、データ活用、人の力と設備の力を融合させて最適解を導き出すことです。

今こそ昭和から続くアナログ文化の良さ(現場感覚・柔軟な対応力)を活かしつつ、最新のデジタル技術やデータサイエンスを取り込むことで、日本の製造業現場を進化させていきましょう。

撹拌機の選定やトラブル対策・スケールアップに悩む皆さまが、この記事を通じて現場価値の最大化を達成いただけることを願っています。

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