投稿日:2025年6月10日

モータ制御の基礎とアプリケーションへの応用

はじめに:モータ制御への関心の高まり

近年、製造業における自動化・省力化の流れはますます加速しています。

その中心的な役割を果たしているのが「モータ制御」です。

生産ラインのロボット、搬送装置、工作機械、さらには各種生産設備の自動化にもモータ制御技術は不可欠となっています。

一方で、日本の製造業は昭和時代のアナログ思考や慣習が根強く残る現場も少なくありません。

このような背景を踏まえながら、この記事ではモータ制御の基礎から、現場での応用、さらにはバイヤーやサプライヤーとしての視点も交え、実践的に解説していきます。

モータ制御の基礎知識

モータの種類と特徴

モータには大きく分けて「直流モータ(DCモータ)」と「交流モータ(ACモータ)」があります。

それぞれの特徴を抑えることは、用途に応じた選定やトラブルシューティングの際に大変重要です。

たとえば、直流モータは速度制御が容易なため、可変速用途に適しています。

一方、交流モータは構造がシンプルで安価、耐久性が高く、産業機械で多用されています。

さらに近年はインバータと組み合わせた「インバータ制御モータ」、精密な位置決めが可能な「サーボモータ」や「ステッピングモータ」など、制御対象や目的に応じたバリエーションが広がっています。

モータ制御の基本理論

モータ制御とは、「回転数」「トルク」「位置」など、モータの動作状態を意図的にコントロールする技術です。

単純なON/OFF制御から高度なPID制御、ベクトル制御まで幅広い手法があります。

たとえば、
– 速度制御:搬送ラインの搬送速度変更
– トルク制御:締付工具の力加減調整
– 位置決め制御:多軸ロボットアームの精密動作

制御方式の選定では、求められる精度・速度・負荷の変動・コストなどを多角的に検討する必要があります。

アナログからデジタルへの転換:現場での変化と課題

昭和型アナログ思考に根ざす「暗黙知」

日本の製造現場では、長年培った「職人技」や現場独自のノウハウが重視されてきました。

また、モータ制御についても長らく経験則に頼った「アナログ制御」が主体でした。

例えば、速度調整を可変抵抗やマグネットスイッチで行っていた現場を今も見かけることがあります。

デジタル化や自動化が叫ばれて久しい中でも、「うちの現場は今のままで十分」と考える現場責任者も少なくありません。

デジタル化のメリットと導入障壁

デジタル制御機器(インバータ、PLC、サーボアンプなど)の導入は、正確なモータ制御を実現し、保守性、トラブル対応力、エネルギー効率の大幅な向上につながります。

しかし、導入初期コストや現場オペレーターの教育、システム更新に対する抵抗感がボトルネックになるケースも多いのが実情です。

実際、古い機械設備のまま、部品のみを置換する「パッチ式の近代化」が多く見られるのもこのためです。

管理者やバイヤー、サプライヤーは、目先のコストだけでなく、中長期的な生産性・品質・安全性の観点からモータ制御の進化を経営戦略の中心に置くべき時代が来ています。

モータ制御の最新トレンド

インバータ化と省エネ化の推進

近年最も顕著なトレンドは、ACモータへの「インバータ導入」による省エネ化です。

定速運転が常識だったポンプやファンにもインバータ化が進み、必要な分だけ出力を自在に調整できる「可変速制御」が当たり前となりつつあります。

経済産業省も産業用モータのさらなる高効率化を強力に推進しており、CO2削減やSDGs経営の観点からも、この流れは今後一層顕著になるでしょう。

IoT・センシング技術との連携

工場自動化(FA)においては、モータとセンサー、IoTデバイスを組み合わせた「スマートファクトリー」化が進行しています。

モータの回転速度や負荷をリアルタイムでモニタリングし、異常検知や予防保全につなげる仕組みが導入されています。

また、これにより「なぜ止まったのか」「どこに負荷がかかっているのか」といった従来の“現場勘”に頼る課題も、数値的かつ透明化されるのです。

ロボット技術とサーボ制御

産業用ロボットではサーボモータを多軸で駆使し、精密な動きや協調制御が求められています。

自動車・半導体・電子機器業界では、ラインの自動化が進むなかで「ロボットの動き=生産技術の心臓部」とも言われるようになりました。

その根幹にあるのが、サーボモータならびにその高精度かつ高速な制御技術であり、今後の自動化技術の主戦場となっていくでしょう。

現場視点でのアプリケーション活用事例

搬送装置:インバータ制御の導入事例

たとえば食品メーカーの搬送ラインでは、季節や製品ごとにラインスピードの最適化が課題でした。

従来の一定速運転では品種切替時のロスやジャム(詰まり)が頻発していました。

しかし、インバータ導入により搬送速度を細かく調整し、少ロット多品種生産にもフレキシブルに対応できるようになりました。

これにより製品品質と生産性が向上し、結果的に省エネ効果も得られるようになった事例は多く見受けられます。

組立工程:サーボモータと位置決め制御

自動車部品メーカーでは、人手による組立と並行してロボット導入が進みました。

サーボモータを使った位置決めシステムの導入により、人手作業では難しかった微細な位置合わせや、高速サイクルでの部品挿入が自動化されました。

「熟練・ベテラン作業者の技」をデジタル化し、標準化できたことで、技能伝承や人手不足対策にも大きな効果がありました。

包装工程:多軸制御による差別化

消費財メーカーでは、柔軟な包装形態への対応を求められ、新たに多軸サーボ制御を導入しました。

従来のカム式タイミング制御とは異なり、個別製品ごとに細やかな動作パターンが組めるようになり、その結果、高付加価値なパッケージ生産が実現しました。

これはまさに、ラテラルシンキングによる現場発のイノベーション事例といえるでしょう。

バイヤー・サプライヤー視点で考えるモータ制御

バイヤーに求められる要件整理と提案力

バイヤーにとって、モータ制御技術の進化をいかに経営の成果につなげるかは極めて重要です。

現場の声や課題を的確に集め、要求仕様を明確に整理する能力が不可欠になります。

また、単なる価格交渉だけでなく、
– ライフサイクルコスト
– 保守性・拡張性
– 省エネ性能
など多面的に評価・提案する「提案型購買」へのシフトも求められています。

サプライヤーに期待されるソリューション提案

一方、サプライヤー側は単なる「部品供給者」から「価値提供者」への変革が進んでいます。

現場課題を掘り起こし、バイヤーの意図を先回りして「この制御機器ならここまで効率化できます」といった成果型のソリューション提案が求められています。

そのためにも、現場で実際に機器を使いこなすためのテクニカルサポートや、トラブル時のQCD(品質・コスト・納期)対応力が信頼構築のカギとなります。

今後の展望と現場への提言

モータ制御技術は「生産性の根幹」であり、「ものづくり日本」の競争力を左右する戦略的分野です。

今後は、「経営視点」と「現場視点」を融合し、中長期的なスキル・ノウハウの蓄積にも注力する必要があります。

特に、バイヤー・サプライヤー間のコミュニケーションを密にし、現場FPS(フィールド・プロブレム・ソルビング)でのリアルな課題共有と、ラテラルシンキングを活かした新たな制御手法・応用開発が重要となるでしょう。

まとめ

モータ制御の基礎を理解し、現場の実情や動向を抑えたうえで「どう応用するか」が、製造業に携わるプロフェッショナルには問われています。

アナログとデジタル、経験と理論、現場ニーズと経営視点のギャップを越え、モータ制御を軸にした新たなものづくり改革を強く推奨します。

最後に、今日の製造現場は技術と人の融合によって進化します。

現場に根付き続ける職人魂と、未来を切り拓く先端制御技術の両輪をバランスよく磨くことこそ、持続的な競争力向上への近道です。

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