投稿日:2025年4月24日

電子機器部品における信頼性の基礎と効率的効果的な加速試験の進め方および解析方法

序章:なぜ今、電子機器部品の信頼性が問われるのか

スマートフォンから自動車、社会インフラまで、電子機器は日常生活の隅々に浸透しています。
ひとたび部品が故障すれば、製品のブランド価値は一夜にして失墜します。
サプライヤーは当然として、バイヤーやエンドユーザーまで巻き込んだリスクが連鎖的に発生します。
その損失を最小化するために欠かせない取り組みが「信頼性確保」と「加速試験」です。

信頼性評価の基礎:MTBFとバスタブカーブを正しく読む

MTBFは平均であって保証ではない

MTBF(Mean Time Between Failures)は「平均故障間隔」の指標です。
1,000時間で1台壊れる製品のMTBFは1,000時間になりますが、「必ず1,000時間までは壊れない」わけではありません。
バイヤーが誤解しやすいポイントなので、サプライヤーは説明責任を果たす必要があります。

バスタブカーブで押さえる三つの期間

初期故障期、偶発故障期、摩耗故障期の三段階を図にしたものがバスタブカーブです。
初期故障は製造起因、偶発故障は設計起因、摩耗故障は材料・部品寿命起因の不具合が多いです。
加速試験の設計は「どの故障期を短縮して見極めたいか」を起点に逆算すると無駄がありません。

信頼度R(t)と故障率λ(t)の関係

信頼度R(t)は「t時間後に製品が生き残っている確率」、故障率λ(t)は「今生きている製品が次瞬間に壊れる確率」です。
R(t)=exp(-∫λ(t)dt) という指数関係を押さえておくことで、試験データの統計解析がスムーズになります。

昭和型から脱却する加速試験計画の立て方

“長時間連続通電”はもはや悪手

かつては「とにかく長く回せ」という発想が主流でした。
しかし設備占有時間が長く、データも散漫になりがちで、原因究明が難しくなります。
現代の加速試験は「狙ったストレスを狙ったタイミングで与え、狙ったデータを短期に取得する」ことが定石です。

ストレスマッピングで因子を選別する

温度、湿度、電圧、振動、静電気など、部品が受けるストレスは多岐にわたります。
まずは実使用環境を分解し、ストレスマッピングで要因を並べ、優先度を数値化します。
Pareto図やFMEA(故障モード影響解析)を活用して、実施すべき加速ストレスを3〜5種類に絞り込みます。

加速モデルの代表例:アレニウス則とEyringモデル

温度ストレスにはアレニウス則が広く使われます。
Arrhenius加速係数AF=exp[(Ea/k)×(1/Tu–1/Ta)]で寿命短縮倍率を算出します。
温度と湿度を同時に扱う場合にはEyringモデルが有効です。
モデル選定を誤ると「実使用より楽な試験」になるリスクがあるため要注意です。

効率的かつ効果的な試験実行の勘所

DoEでサンプルサイズと条件を最適化

直交表を利用した実験計画法(DoE)により、サンプル数を3分の1以下に抑えても95%信頼区間を確保できます。
多因子同時試験により交互作用も検証でき、再試験を大幅に削減できます。

モニタリングは「絶対値」より「変化率」

温度上昇や漏れ電流は、閾値を超えた瞬間よりも、その前段階の変化率に着目すると故障予兆を早期検出できます。
IoTセンサーとクラウド解析を組み合わせれば、リアルタイムでアラートを飛ばし、試験を途中停止させて原因解析に入ることも可能です。

ライン試験とラボ試験の連携

工場ラインでのインライン加速検査(例:高温短時間通電)と、ラボでの長期ストレス試験をシームレスに連携させることで、不具合の再現性が飛躍的に高まります。
ライン側で検出した不良を即座にラボ条件へフィードバックするデジタルツイン環境を構築すると、解析リードタイムを50%短縮できます。

試験データの解析とフィードバックループ

ワイブル解析で弱点を定量化する

ワイブルプロットは累積故障率を可視化し、形状パラメータβで故障モードを推定できます。
β<1は初期故障、β≈1は偶発故障、β>1は摩耗故障が優勢であることを示します。
このβの傾き変化を観察するだけで設計・製造・材料いずれの施策が効果的か判断できます。

フィッシュボーン→5Why→FTAの三段ロケット

まずフィッシュボーン図で要因を網羅し、5Whyで根本原因を深掘りし、最後にFTA(Fault Tree Analysis)で論理構造を検証します。
この三段ロケットを守ることで、再発防止策が曖昧なままリリースされる事態を防げます。

サプライチェーン全体で共有すべきKPI

不良率やコストだけでなく、MTTR(平均修復時間)、LTPD(Lot Tolerance Percent Defective)、CpK(工程能力指数)などをKPIに加えます。
バイヤーとサプライヤーが同じダッシュボードを閲覧することで、責任の所在が透明化し、改善スピードが平均30%向上します。

加速試験と品質保証をつなぐ組織マネジメント

試験部門と現場を隔てないガンブン融合

開発部門が作成した評価計画を、製造部門は「別部署の仕事」と捉えがちです。
試験段階から製造Gメンバーを巻き込み、月1回の現場レビューをルール化すると、量産後のクレームが半減します。

購買・調達部門が担う第三者視点

購買部門はコストダウンだけでなく、サプライヤーの試験設計や解析プロセスの監査を行い、「数字が語る信頼性」をチェックします。
仕様書ベースでしか会話できない企業は、ここで差をつけられる時代になりました。

AI・シミュレーションの併用で試験時間を削減

有限要素解析(FEA)や熱流体解析(CFD)で弱点を事前予測し、実機試験はクリティカルシナリオのみに絞り込む手法が普及しています。
試験にAIモデルの不良予測を組み込めば、サンプル数を40%削減しても統計的信頼度を維持できます。

まとめ:信頼性はコストではなく利益を生む投資

電子機器部品の信頼性を高めることは、ブランド価値の向上、保証コストの削減、リードタイム短縮など、複合的な利益を企業にもたらします。
加速試験は「コストセンター」ではなく、「リスク資産を利益資産へ転換する装置」です。
昭和型の長時間放置試験から脱却し、ストレスマッピングと統計解析に基づくスマートな試験設計へ移行しましょう。
バイヤー、サプライヤー、製造現場の三者が同じ指標を掲げて協働すれば、製造業全体の競争力は確実に底上げされます。

最後に、現場目線で忘れてはならないのは「試験は現物に学び、現場で回す」ことです。
理論と統計だけでは見えないヒントが、部品の色、匂い、音の変化に隠れています。
現場を歩き続ける姿勢こそが、真の信頼性向上への最短ルートと言えます。

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