投稿日:2025年6月16日

センサおよび信号処理技術の基礎と性能を引き出すための実装のポイント

はじめに:センサと信号処理技術の重要性

製造業が目まぐるしく進化する今、工場の自動化や品質管理、そして生産効率化の中心にあるのが「センサ」と「信号処理技術」です。

これらは、単なる部品や技術ではなく、現場の生産性や品質そのものを支える根幹とも言える存在です。

なぜここまで重要性が高まったのか。

そして、基礎理論や最新動向に加え、どうやって現場で真価を発揮させるのかについて、現場視点で深堀りしていきます。

バイヤーやサプライヤーだけでなく、製造現場で働く全ての方の気づきや参考となる視点をお伝えします。

センサ技術の基礎:種類と用途を正しく理解する

主要なセンサの分類

センサといっても、その種類は非常に多岐にわたります。

製造現場でよく使用される主なセンサは、以下の4つに分類できます。

1. 物理量センサ(温度、圧力、湿度、ひずみ、加速度、等)
2. 化学センサ(ガス濃度、pH、溶存酸素濃度、等)
3. 光センサ(近接、フォトセンサ、レーザー距離計、等)
4. 位置・変位センサ(エンコーダ、LVDT、超音波、等)

例えば、ロボットの動作位置管理にはエンコーダやレーザー距離センサが用いられます。

金属加工現場なら、ひずみゲージや温度センサが品質安定に欠かせません。

実際の現場では、これらを適切に「使い分ける」ことが最初のポイントです。

アナログ vs デジタル:出力形式に着目

従来(昭和型)の製造現場では、電圧や電流で表される「アナログ出力センサ」が主流でした。

近年は、生産設備のデジタル化やIoT化が進み、直接デジタル信号を出すセンサの比率が伸びています。

アナログ型は取り扱いやすい反面、ノイズの影響を受けやすいです。

一方、デジタル型は誤差や劣化に強いですが、通信プロトコルに応じたインターフェース設計が必要です。

導入検討時には、現場環境や既存設備との親和性、自動化レベルを見極めましょう。

信号処理技術の基礎:なぜ必要なのか

センサ出力の「まま」では使えない理由

センサから出力される情報は、そのまま使うには「雑味」や「バラツキ」が多く残ります。

たとえば、ライン上にある温度センサで計測した温度データ。

機械の温度変動、回りの空調の影響、配線からのノイズ。

そのままでは正確なプロセス制御や品質管理には使えません。

こうした現場特有の「ゆらぎ」や「ノイズ」を適切に処理し、「役立つ信号」に変換するのが信号処理技術です。

信号処理の代表的な手法

1. フィルタリング(ノイズ除去、平滑化)
2. 増幅(微小信号の増大・最適化)
3. 補正(温度ドリフトやスパンの補正)
4. A/D変換(アナログ信号→デジタル信号)
5. キャリブレーション(校正)

現場レベルで重要なのは、「どの信号処理を、なぜ行うのか」を理解すること。

例えば、数ミリ秒単位の急激な温度変動データはノイズが混じっている場合が多いです。

そこで、ローパスフィルタ(低周波通過フィルタ)を使い、なめらかな信号へと整形します。

この選択ミスが原因で、不良品の見逃しや誤警報が起こることもよくあります。

ハードウェア設計:現場で性能を引き出すコツ

センサ実装の落とし穴

センサ部品の性能カタログ数値をそのまま信じて投入しても、現場では思ったほどの精度が得られないことも多々あります。

これは、「実装方法」や「取り付け場所」に原因が潜んでいます。

例えば、温度センサを機械に取り付ける際、熱を拾いやすいよう密着させますが、サーマルグリース(熱伝導グリス)を使うか否かで応答性が大幅に違います。

ひずみゲージなら、取り付け角度や下地処理が計測精度を大きく左右します。

つまり、現場での「据え付けノウハウ」が最終性能を決めるのです。

配線・シールドの肝

アナログ信号配線はとくに「外来ノイズ」に弱いです。

たとえば、200V動力線とセンサ配線が並行していると、誘導ノイズの影響で計測値がゆらぎます。

現場では、ツイストペアケーブルやシールド線の使用、電源と信号配線の分離ルート設計が必須です。

これは、設計図の段階では見逃されがちなポイントですが、現場で「設置時に確認する」チェックリストを作っておくと良いでしょう。

ソフトウェアとアルゴリズム:賢い信号処理がデジタル化の鍵

フィルタリングの最適化

近年の工場自動化では、後段のPLC(シーケンサ)やSCADA、エッジコンピュータ等で信号処理が進化しています。

時系列データの移動平均、カルマンフィルタ、FFT(高速フーリエ変換)など、計算資源を活かした高度な手法が使えます。

現場レベルでありがちなのが、「省略可能な処理を毎回やってレスポンス遅延を招く」ミスや、「本来はハードウェア側でノイズ除去すべきなのに無理やりソフトで補正して、却って精度が落ちる」問題です。

どの信号処理を、どの段階で行うか。

場合によっては、設備導入時に「配線まで考えた発注仕様の明確化」「サプライヤーとの調整」が必要となります。

AI・機械学習との連携

近年注目されているのが、取得した信号を機械学習やAIと組み合わせるアプローチです。

たとえば、不良状態の微妙な変化(音・振動・温度パターンなど)を予知検知するシステムでは、「信号処理×AI」が不可欠です。

こうした仕組みを生かすために、「最初のデータ取得段階」でのノイズ除去や、正確なタイムスタンプの付与が品質を左右します。

現場主導型のAI導入では、単にデータを収集するのではなく、「判別しやすいきれいなデータを準備する」ことが成功の秘訣です。

導入現場の課題:昭和からの脱却とアナログ文化

部材調達から設置現場への情報連携

従来のものづくり現場では、部品調達と現場が分断されがちでした。

バイヤーはカタログや価格重視、現場は「実際の据付性・作業性」重視。

昭和から根深いこのギャップを埋めるには、部材仕様書に「現場側の設計要件」や「過去のトラブル履歴」など、詳細な情報共有を進めることが不可欠です。

定例会での現場ヒアリングや、サプライヤーも巻き込んだ共同仕様検討会などが、「思わぬ失敗の芽」を減らします。

サプライヤーの視点:要求「外」の思考

サプライヤー側は、よく「仕様書にないことはやらない・知らない」という姿勢になりがちです。

しかし、現場の困りごとや失敗事例を吸い上げて、カタログ外の「現場ナレッジ」を得ることが差別化につながります。

「過去にこの環境では誤動作が出やすかった」「こういうノイズ源がある場合はこの工夫が効果的」といった、現場目線のアドバイスが実は最も喜ばれます。

バイヤーの方や製造業で働く皆様も、サプライヤーには「現場で使う上で懸念点や他社事例」をどんどん質問しましょう。

まとめ:新たな地平線を切り拓くために

センサおよび信号処理技術は、単なるパーツではなく、現場の効率・品質を左右する戦略的な投資領域です。

真の性能を引き出すには、「設計・調達・実装・運用すべての段階」で、現場目線と現場知識が不可欠です。

昭和型の慣習や分業の垣根を乗り越え、エンジニア、バイヤー、サプライヤーそれぞれが、隣の立場の視点に立つことこそが、新しいものづくりの突破口になります。

製造業に携わる皆様が、これらの知識を活かし、自社の現場革新や他社との差別化、バイヤーとしての付加価値アップにつなげていただければ幸いです。

今後も進化し続けるセンサ・信号処理技術と共に、製造現場の更なる高度化・効率化を実現していきましょう。

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