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遮音・吸音の基礎と遮音性能・吸音性能向上技術およびその事例

目次
はじめに:遮音・吸音への関心が高まる背景
現代の製造業において、遮音・吸音の役割はますます重要になっています。
工場やオフィスで働く人々の労働環境改善、工場周辺地域への配慮、製品価値の向上など、遮音・吸音対策が求められるシーンは多岐にわたります。
昭和時代のアナログ志向が強い業界にあっても、グローバル化や法規制の強化、働き方改革の推進などにより、より高度な遮音・吸音技術への関心が急速に高まっています。
本記事では、遮音・吸音の基礎から最新の性能向上技術、そして現場で役立つ事例までをご紹介します。
バイヤーやサプライヤー、それぞれの立場から役立つ視点を意識し、実践的な内容をお届けします。
遮音と吸音の基礎:それぞれのメカニズムと違い
遮音とは何か〜音を「通さない」ための仕組み
遮音は「音がある空間から外部に漏れること、もしくは外部から内部に入ること」を防ぐ技術です。
イメージしやすい例としては、工場内の騒音が外部に漏れないようにするための防音壁や、防音ドアなどが挙げられます。
遮音構造の基本は「質量則」です。
これは、壁や仕切りの質量(重さ)が大きいほど遮音性能が上がるという物理的法則です。
たとえば、コンクリート壁や2枚の板の間に鉛板を挟むといった多層構造も一般的です。
音は主に固体伝播・空気伝播・振動を通じて伝わりますが、遮音ではこれらの経路を断つことが本質となります。
吸音とは何か〜音を「消す」ための仕組み
吸音は、音が壁や天井などに当たって反射・残響するのを和らげて、「音エネルギーを熱エネルギーに変換して減衰」させる技術です。
吸音材が設置された部屋に入ると、声や機械音が“デッド”(響かない)に感じられるのが典型例です。
主な吸音材には、グラスウールやロックウール、ウレタンフォーム、メラミンフォームなどの多孔質材料が使われます。
空気中を伝わる音波が吸音材内の微細な孔(穴)を通ることでエネルギーが減衰します。
吸音は遮音とは別物で、「音を通さず漏らさない遮音」と「内部の反響・残響を抑える吸音」は併用することで、初めて高い音響制御効果を発揮します。
遮音・吸音対策の代表的な技法
遮音技術の最新動向
昭和から続くアナログ現場では、質量則だけに依存した「厚い壁主義」が根強く残っています。
しかし限られたスペースやコスト意識の高まりとともに、近年では次のような遮音技術も登場しています。
- サンドイッチ構造(多層構造壁):2枚以上の板の間に空気層や制振材料を挟み、音の複雑な経路化や減衰を狙います。
- 制振材料の利用:ゴム・樹脂シートなど振動吸収材料を壁材に組み合わせ、固体伝播音をカットします。
- 遮音パネル:薄くて軽量ながら高い遮音性能を持つ特殊発泡樹脂やハニカム構造パネルも開発されています。
従来は設計部門が主体だった遮音設計も、工場現場や保全部門の声を反映した「現場適応型施工」(使いながらの施工調整やモジュールユニット化)も主流になっています。
吸音技術の進化とトレンド
吸音技術は、材料科学の進歩により多様化しています。
- 高効率吸音材:厚みが薄くても幅広い周波数帯で吸音性能を発揮するポリエステル繊維や高機能フォームが台頭。
- 微細構造コントロール:孔径や繊維径をナノレベルでコントロールして初期反射音を重点的に制御する技術。
- レイアウト自動最適化:工場内騒音伝播シミュレーションにより、吸音パネル配置をAIで最適化する動き。
多層配置、部分分散、移動式吸音ユニットなど、柔軟な配置ができる点も現代の現場ニーズに合致しています。
遮音・吸音性能を評価する重要な指標
遮音等級とその測定方法
遮音性能は「遮音等級(D値、TLD、R値など)」で評価されます。
代表的な指標としては、建築物ではJIS規格に基づく「TLD(透過損失値)」、または「D値(デシベル単位)」がよく使われます。
測定には、基準音(ホワイトノイズなど)を送った状態で仕切りの両側で音圧レベルを測り、その差から遮音性能を数値化します。
現場施工後の「実測値」と、設計段階の「試験値」とで乖離が出やすい点が、現場での苦労にもつながっています。
吸音率・残響時間と評価基準
吸音性能は「吸音率α(0〜1)、残響時間(T)」で評価されます。
α=1は完全吸収、0は全反射を意味します。
吸音材は単独で見るほか、部屋全体にどの程度使われているかにより「室全体吸音率」が決まります。
残響時間T(音が聞こえなくなるまでの時間)が短いほど、吸音対策が効いていると判断できます。
吸音率や残響時間はシミュレーションや音場計測機器で測定されます。
遮音・吸音技術の最新トレンドと課題
SDGs時代の材料選定
地球環境意識が高まる中、再生材、自然素材(バガスウール、リサイクルポリエステル)を使った吸音材・遮音材に注目が集まっています。
一方で、耐久性や価格のバランス確保が課題となっており、「脱・鉛系」「低VOC型」など環境負荷軽減設計が推進されています。
デジタル化・工場IoT化への対応
機械の小型化・高出力化による新たな騒音源の出現、ロボット導入による空間設計の見直しなど、工場の自動化が進むほど高度な遮音・吸音最適化が重要になります。
センサー連動型の可変遮音パネルや、現場データ・シミュレーションを組み合わせた予兆保全が各社で試みられています。
昭和的な「現場合わせ主義」から「データ駆動の適所適材」へと移行しつつあります。
昭和から脱却できない現場のボトルネック
一方で、中小製造業では永らく「これまで通りの施工」「型の決まった壁材だけで安易に済ませる」傾向が根強く残っています。
現場が遮音・吸音の本質を理解せず、単に厚い壁・安い吸音材を貼るだけでは、高価な投資が空回りになりかねません。
バイヤーや購買担当者には、「施工しやすさ」「入手容易性」だけでなく、「音響理論と現場観察のバランス」を学び直すことが求められています。
現場で役立つ!遮音・吸音対策の実践事例
事例1:工場作業空間の隔離による生産性と安全性向上
プレス加工や金属切断といった高騒音工程で、作業スペースを耐火・高遮音パネル(サンドイッチ構造)で囲い、天井部に吸音ボードを設置。
さらに入口に防音カーテンと二重ドアを採用し、作業者の耳栓・ヘッドセット着用を義務化。
結果、隣接ラインからの苦情や応対工数が減り、生産リードタイムの短縮も実現。
労働安全衛生法の規定を大幅にクリアし、計測検査時の正確性も向上しました。
事例2:小型モーター工場のスマート遮音
通信指令室を含む工場の一角をスマート遮音スペース化。
従来は石膏ボード+一般吸音材のみで済ませていましたが、作動周波数・共鳴周波数をシミュレーションし、ピンポイント遮音材(制振材+遮音シート)と反響防止の可動吸音パネルを併用。
工事コストは抑えつつ、特定の「気になる音」を狙い撃ちで可視化・低減しました。
計器や通信機器への音響影響が消失し、失敗コスト(ノイズ誤信号・誤作動)も大幅に低減しました。
事例3:サプライヤーからの提案型受注へ
単に「図面通りに防音壁を納める」だけでは飽和する市場で、サプライヤーが音響測定・現場ヒアリングを自主提案。
適切な壁厚、吸音材の種類・配置方法まで含めたパッケージ提案を行い、「目に見える効果(音圧測定のビフォー・アフター)」を数値で提示。
バイヤーからの信頼度が向上し、リピート受注率が上がったという成功事例もあります。
バイヤー・サプライヤーが目指すべき「これからの遮音・吸音」
「音響品質」=新しい価値基準
製造業で求められる「品質」には、形状や精度、表面仕上げといった物理的な側面だけでなく、周囲環境や働く人に与える「音響品質」も含まれる時代です。
働き手確保やブランド力強化には、「静かな工場」「安心して働ける現場」の実現が不可欠です。
現場発想×専門知識の融合が成否を分ける
遮音・吸音の向上には単なる材料知識だけでなく、ラインレイアウト、設備配置、周波数分析といった「現場起点」の全体最適化が求められます。
調達担当者も音響測定や計算基準を理解し、現場との対話・フィードバック・プラスαの提案を惜しまない姿勢が重要です。
まとめ:遮音・吸音の技術革新を活かし、製造現場の未来へ
遮音・吸音は、製造業の現場を底支えし、製品価値の向上、働く人の安全・安心を守る切り札です。
従来のアナログ的な施工から、デジタル活用、自主提案、工程横断の視点にシフトすることで、さらなる競争優位を築くことができます。
バイヤーはコスト・納期だけでなく現場ニーズに即した「ソリューション型の調達」を心がけ、サプライヤーは「音響品質向上での差別化提案」を強みにしましょう。
遮音・吸音の本質を理解し、積極的に現場へ展開することで、昭和から令和への飛躍が現実となります。
工場、働く人、地域社会の未来に向けて、皆さまのさらなる挑戦に期待します。
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