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トライボロジーの基礎と摩擦摩耗低減技術

目次
トライボロジーとは何か?製造業の現場での基礎を理解しよう
トライボロジーとは、摩擦、摩耗、潤滑といった現象を科学的に解明し、効率のよい機械の運用や部品の長寿命化を目指す学問分野です。
もともとギリシャ語の「Tribos(こする)」に由来し、20世紀後半から多くの工学分野で注目されてきました。
製造業においては、設備の停止や故障の多くが摩擦や摩耗に起因することから、現場目線でのトライボロジーの知識は極めて重要です。
また、近年ではSDGsの流れのなか、省エネや環境負荷低減の観点からも摩擦損失の低減や潤滑の最適化が社会的要請となっています。
この背景から、単なる生産現場のノウハウにとどまらず、設計・調達・品質管理など、製造業バリューチェーンのさまざまな部門でトライボロジーの理解が必要とされています。
摩擦と摩耗の基本:なぜ製造現場で大問題なのか
摩擦とは何か?
摩擦とは、機械部品同士が接触し、相対運動する際に生じる抵抗力です。
たとえば、軸受とシャフト、ギアの歯車同士など、ほとんどすべての可動部で発生します。
摩擦は大別すると、静止摩擦、動摩擦、転がり摩擦の3つがあります。
摩擦が大きいと動力伝達時にエネルギー損失が増加し、最終的には熱として無駄になります。
また、不要な摩擦は機械の発熱や騒音の原因にもなります。
摩耗とは何か?
摩耗とは、部品同士が繰り返し接触・相対運動した結果、表面から物質が削り取られる現象を指します。
材料や環境条件により、アブレッシブ摩耗(擦り減り)、アディーシブ摩耗(かじり)、ファティーグ摩耗(疲労)などさまざまな摩耗形態があります。
摩耗が進行すると、精度低下による不良品の発生、ラインのストップ、設備寿命の短縮など、製造業の現場では特に大きな損失につながります。
摩擦・摩耗低減のための主要技術
1. 潤滑剤の活用と最適選定
潤滑剤の適切な使用は最も基本かつ効果的な摩擦・摩耗低減策です。
油性潤滑剤は油膜を形成して金属同士の直接接触を防ぎ、グリースは高荷重・高温下でも安定した潤滑効果をもたらします。
合成油、固体潤滑剤(モリブデン、フッ素樹脂など)など最新の材料技術によって用途・環境条件に応じた最適選択がより重要になっています。
潤滑管理が適当でない工場は、設備保守コストが高騰し、故障や停止の原因となりがちです。
最近ではIoTセンサーを活用し、リアルタイムで潤滑状況を監視するスマートメンテナンスの導入も進んでいます。
2. 表面処理・コーティング技術の進化
部品の表面治金技術、コーティング技術は摩耗対策として急速に進化しています。
特にDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)、PVD(物理蒸着)、CVD(化学蒸着)などの最先端コーティングは、摩耗・かじり・カジリなどを飛躍的に低減します。
従来は工具や軸受など一部の高付加価値部品に限られていたこれらの技術は、現在では広範囲な工業部品にも適用されるようになっています。
加工工程やコストとのバランスを考えることが重要ですが、トータルのライフサイクルコストを低減できるケースが増えています。
3. 材料の選定と設計思想
摩耗抑制の要は「材料選択と設計」にもあります。
硬度だけでなく、耐摩耗性、潤滑性、耐荷重性、弾性など複合的な特性が求められるため、部品の置かれる環境(温度、速度、荷重、雰囲気)に合わせた材料選定が不可欠です。
また、部材同士の硬度差を利用する摩耗コントロール設計や、分離・分割構造で摩耗部のみを容易に交換できるモジュール設計など、「壊れるべくして壊れる=犠牲部品化」という設計思想も現場目線では大きなポイントです。
トライボロジーの“昭和”から“令和”への進化
現場主導のトライボロジーからエビデンスベースドへ
かつて製造業の現場では「勘と経験」に基づいてグリースアップやオイル交換が行われていました。
しかし、設備の自動化・高精度化が進む令和の現場では、単なる経験値に頼るのではなく、「どの摩耗メカニズムがどこで発生しているか」「どの潤滑剤がどのくらい効いているか」を可視化し、数値データで管理することが主流になりつつあります。
たとえば、予知保全のツールとして振動、温度、トルク、化学分析データを収集し、AIで異常検知する“潤滑IoT”の導入例も増加。
部品の交換時期の最適化によりコストダウンやライン停止リスク回避が可能となっています。
“アナログ”な課題も、根強く残る現場のリアル
一方、あまりにもアカデミックだったり、最先端の技術だけを追い続けても現場状況にミスマッチが生じる現実もあります。
特に部品のローカライズ化や多品種小ロット生産などが進む昨今、「汎用材料による現場補修」「調達部材の流用」など、アナログな課題と工夫が今なお根強く現場を支えています。
また、購買・サプライヤーサイドから見ると、“カタログ値”の鵜呑みだけで材料選定するのではなく、現場の摩耗試験データ、他社事例、現状原因の分析に基づいた提案ができるバイヤーや営業担当の付加価値化も求められています。
調達・バイヤー視点でのトライボロジーの要点
現場の痛点を理解し“共創提案型”が鍵
調達・バイヤーとして材料や部品を選定する立場の方には、「摩耗テストによる根拠提示」や「なぜその潤滑剤が現場で有効なのか」を技術的エビデンスとセットで語れる能力が強く求められます。
現場ニーズを吸い上げた上で、要求に対する最適なバリエーションを提案できるかどうかが、これからの強いバイヤー像です。
また、取引先(サプライヤー)から信頼されるバイヤーは、単なる価格交渉だけでなく、「摩耗部品の交換容易化」「サステナブルな材料供給」など、中長期のバリューチェーン最適化を提案できる存在でもあります。
サプライヤーが知りたいバイヤーの真意
サプライヤーとしても、従来の「摩耗します→取り替えましょう」から一歩進み、摩耗の原因分析、ライフサイクルコスト提案、摩耗以外の副次的課題(例えば潤滑剤の環境規制対応など)も含めて、現場に寄り添った提案力を高めることが重要です。
バイヤーがなぜ今その部品のコストダウンを狙いたいのか、どんな現場トラブルが頻繁に発生しているのか、相手の真意をくみ取ったソリューション提案は今後のサプライヤーの成長に不可欠です。
まとめ:トライボロジー実践力で新たな製造価値を創造しよう
トライボロジーの基礎知識は、現場の日常改善から、設計・調達・品質の戦略的意思決定にまで直結しています。
潤滑剤やコーティング材料の進化、現場作業のデータ化・デジタル化、サステナブルな部品選定や予知保全システムの導入など、摩擦・摩耗管理の現場は大きな転換期を迎えています。
けれども、現場主義、アナログ対応の“泥臭さ”と、論理的・データドリブンな“スマート化”の両輪をうまく回すことこそが、令和時代の強い製造業現場づくりの鍵です。
バイヤーやサプライヤー、そして現場作業者と設計者……
それぞれの立場でトライボロジー発想を持ち寄り、新しい競争力を現場から作り上げていきましょう。
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