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回転機械における振動の基礎と解析診断事例および故障トラブル防止への応用

目次
はじめに
回転機械は、製造業の現場において不可欠な設備です。
ポンプ、ファン、コンプレッサー、モーター、タービンといった回転機械は、産業インフラの要として、たとえ昭和のアナログ現場であっても、現在に至るまで根強く活用されています。
その回転機械の健全性の維持には「振動」の管理が避けて通れません。
一方で、「振動解析」は言葉こそ知っていても、現場では後回しにされがちで、診断のノウハウ不足やコスト意識、そもそもどう活用してよいのかわからないという声が多くあります。
こうした状況を変えるべく、現場目線から回転機械における振動の基礎と、解析診断事例、さらにトラブル防止・生産性向上への応用までを、実践的に解説します。
回転機械に発生する振動の基礎知識
振動とは何か?
振動は、物体がその平衡点を中心に周期的に揺れ動く運動を指します。
回転機械の場合、回転軸に加わる力が理想的なバランスから逸脱すると、軸が振れるような現象が発生します。
この振動が許容範囲を超えると、機械の損傷や予期せぬ停止につながるため、「振動」を常に監視し、適切にコントロールすることが極めて重要なのです。
なぜ振動が発生するのか?
「均一な回転」を想定して設計された機械であっても、運用中は様々な要因でバランスが崩れます。
主な原因として以下が挙げられます。
– ローターのアンバランス
– ベアリングや歯車の摩耗・欠陥
– ミスアライメント(軸心ずれ)
– 共振現象
– 基礎や支持構造の問題
– カップリングの劣化
これらの変化や劣化をいち早く捉え、未然に重大トラブルを防ぐことが現場には求められます。
振動の「大きさ」と「周波数」の意味
振動を評価する際は「振動の大きさ(振幅)」と「その動きの速さ(周波数)」を読み解く必要があります。
– 振動の大きさ(加速度・速度・変位):どの程度ブレているか
– 周波数(Hz):1秒間に何回揺れ動いているか
多くの現場トラブルは、この「どの周波数帯域で」、「どの程度の大きさ」の振動が発生したかに着目すると、根本原因の推定がしやすくなります。
現場で役立つ振動解析の基本手順
1.適切な測定ポイントの選定
回転機械の振動測定は、主にベアリング部や軸受近傍にて行います。
設計図やメーカーガイドラインを参考に、水平・鉛直・軸方向の3軸で測定することが望ましいですが、現場事情にあわせて優先度を決めましょう。
2.データ取得と基準値の活用
機械停止前後や保全時に手持ちの加速度センサーや振動計を用い、「初期値(正常時)」を把握しておきます。
そのデータは「設備カルテ」として資産管理にも役立ちます。
また、JIS B 0906などの国際・国内基準値や、機器メーカーの指標値も参考に、「異常兆候」を早期に判別できる体制が理想的です。
3.波形解析とスペクトル解析
トラブルの傾向を見極めるには、単なる「数値」だけでなく「波形」や「スペクトル(周波数分析)」も重視します。
たとえば、1×回転周波数(アンバランス)や、2×回転周波数(ミスアライメントや軸のたわみ)、軸受固有の周波数成分など、特徴的なピークからトラブルの部位や性状を突きとめることが可能です。
振動診断の典型的な事例
アンバランスによる振動トラブル
ローターに付着物や摩耗、製造時の加工ミス等がある場合、回転数と同じ周波数で大きなピークが出ます。
現場では「高速化時に急激に振動が増える」場合は、まずアンバランスを疑いましょう。
調整ウェイトによるバランシングや、清掃・部品交換で対処できます。
ミスアライメントと軸のたわみ
カップリングずれや据付不良が原因で、回転2×または3×周波数で強い振動が生じる場合は、ミスアライメントを疑うべきです。
熱膨張や土台の不整もチェックし、「精密芯出し」が重要な対応策となります。
ベアリング不良の兆候
初めは一定の周波数で小さなピークが発生し、進行するにつれて広い帯域でノイズが増加します。
グリース切れや転動体のスパリング損傷があると、異音や高温も伴うことが多いです。
ベアリング点検と定期交換サイクルの見直しが必要です。
共振・基礎剛性不足の場合
回転数の二次高調波付近で異常振幅が見られ、運転条件により極端に振動が増減する場合があります。
据付基盤やフレームの補強、運転条件(回転数)の見直しで対応しましょう。
振動監視・診断の現場導入で得られるメリット
予知保全・ダウンタイム削減
従来の「故障してから修理する」事後保全では、高額な修理費や長期停止に直結します。
振動監視により「異常の兆し」を的確に把握すれば、計画的に停止修理を組み込むことができ、ダウンタイムや突発コストを大幅に抑制できます。
品質安定・生産効率向上
振動トラブルは最終製品の品質低下にも直結します。
振動源を早期に排除することで、安定した生産が維持でき、歩留まり向上や無駄なエネルギー損失の低減にも寄与します。
現場の属人化解消と人材育成
経験や勘・職人技に頼りがちだった昭和型現場でも、振動データの見える化や可視化、具体的な管理指標の共有によって定量的な保守へと進化できます。
若手や異動者にも、蓄積データ・分析ノウハウを教育でき、現場力・設備信頼性の底上げにつながります。
最新トレンド:デジタル化とAIによる振動管理
IoT活用と遠隔監視
近年、安価なワイヤレス振動センサー、IoTデバイスが普及し、大規模工場でも既設の設備に後付けして振動監視を始められる時代になりました。
現場の担当者が定期的に測定データを収集したり、遠隔地からも状態をリアルタイムで監視できるようになっています。
AI・ラーニングによる異常検知の精度向上
AIによる「いつもと違う振動パターン」の自動検知や、ビッグデータ解析により、従来のルールベースを超えた異常予知も現実のものとなっています。
異常検知までの時間短縮や、人手不足対策としても有効です。
バイヤー・サプライヤーとして知るべきポイント
バイヤー視点での振動対策投資の評価
設計・設備投資の際には「振動管理体制の有無」をサプライヤーから提案させることで、将来のメンテナンスコスト低減や、全体コスト削減に繋げられます。
また、バイヤー側も振動データの取得・管理を生産委託時の品質保証の条件として活用すると、メーカー間の信頼構築につながります。
サプライヤーが意識したいバイヤーのニーズとは
サプライヤーは、単に製品を供給するだけでなく、「振動解析による状態診断」「異常時の対応フロー」などの付加価値サービスを提示することで、バイヤーのパートナーとして選ばれやすくなります。
また、トラブル履歴の開示や、設備保全に向けた共同改善活動も重視されます。
まとめ
回転機械の振動管理は、故障トラブル防止だけでなく、現場力向上、生産性・品質の安定、設備コスト低減など多くのメリットがあります。
昭和型のアナログ現場にも、デジタル・データ活用の波が確実に押し寄せています。
初心者の方にも、「現場のカルテづくり」や「簡易ツールでの見える化」から始めてみることをおすすめします。
今後も振動解析の重要性はより一層高まりますので、先進事例・ノウハウの継続的なキャッチアップを意識しましょう。
現場に根付いた実践的な振動管理は、製造業の次代を担う大きな武器となります。
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