投稿日:2025年9月10日

製造業が取り組むべき生物多様性保全とSDGsの関係性

はじめに:製造業における新たな課題と生物多様性

昨今、持続可能な開発目標(SDGs)への注目が高まる中で、製造業も例外ではなく、「生物多様性保全」という新しい課題に向き合う必要が出てきました。

これまで製造業といえば、コスト削減や生産性向上、品質の確保といった経済的・効率的な側面がクローズアップされてきましたが、今や社会的責任も大きなファクターになっています。

昭和時代から続く「作れば売れる」「効率が第一」といった価値観も大切ですが、その中に「自然環境との共生」「社会からの信頼」の要素を組み込む時代が到来しているのです。

本記事では、製造業の現場で20年以上培った経験をもとに、生物多様性保全とSDGsの関係性について、現場の目線と思考の横展開(ラテラルシンキング)を交えて、深掘りしていきます。

生物多様性とは何か?そして製造業との意外なつながり

生物多様性の基本とその価値

生物多様性とは、「地球上のさまざまな生物(動植物など)の多様性」と、その生態系・遺伝子の豊かさのことです。

この多様性は、食料や資源の供給、気候の調整、水質浄化、レクリエーションなど、私たちの生活を土台から支えています。

経済活動の基盤とも言えるこの価値に、気付かずに資源の乱獲や森林伐採、環境汚染を進めてしまえば、一時的な利益は出ても、持続的な成長や企業の存続は不可能になります。

製造業の活動が生物多様性に与える影響

製造業は、鉱物や森林、農作物といった天然資源を調達し、工場で加工・生産することで成り立っています。

サプライチェーンのどこかで、必ず「自然」に接点があります。

特に日本の製造業では、大量生産・大量消費のスタイルが根強く、資源採取やエネルギー利用が生物多様性へ大きな影響を与えてきました。

さらに、廃棄物や排水、排ガスによる土壌・水質・大気の汚染も無視できません。

つまり、意識的な対策を講じない限り、知らず知らずのうちに環境破壊の加担者となってしまうのです。

SDGsの登場と製造業のパラダイムシフト

SDGsの要点と関連目標

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、2015年に国連加盟国で合意された全17目標から成ります。

その中でも、製造業が特に関わる生物多様性関連の目標には以下があります。

– 目標12:つくる責任つかう責任
– 目標13:気候変動に具体的な対策を
– 目標14:海の豊かさを守ろう
– 目標15:陸の豊かさを守ろう

これらの目標で、資源の効率利用や廃棄削減、自然環境の保全、汚染防止などが謳われています。

サプライチェーン全体への波及効果

SDGsの議論が盛んになるなか、グローバル市場や大手メーカーは、サプライチェーン全体での責任を問うようになっています。

例えば、自動車や電機業界では、「グリーン購買」「トレーサビリティ管理」「ゼロエミッション」などの言葉が日常的に飛び交っています。

サプライヤーにも環境配慮の証明が求められる事例が増え、調達基準のハードルが高まっています。

今後は、一次請け・二次請けの中小企業も「SDGs対応なしでは取引縮小」という現実が進むでしょう。

昭和的マインドからの脱却と新たな取り組み

なぜ今、生物多様性対応が不可欠なのか

昭和から続く「効率と利益の最大化」のみを追求する価値観では、SDGs時代には通用しなくなっています。

すでに欧米市場では、生物多様性やサステナビリティ基準に違反した企業には、取引停止・社会的非難という「ペナルティ」が科されています。

国内でも、ESG投資(環境・社会・企業統治を重視する投資家)の拡大、環境省によるガイドライン策定など、ディスクロージャーや環境対応が厳格になりつつあります。

各分野における具体的アプローチ

  1. 調達購買:エコマテリアル、FSC認証木材、リサイクル材の積極的利用。サプライヤーに対しても生産地の環境証明や認証取得を求めます。
  2. 生産管理:廃棄物・副産物の削減。生産プロセスの見直しによるエネルギーロスの削減や工場内緑化活動など。
  3. 品質管理:有害化学物質の削減、グリーン調達物質の管理。ISO14001/グリーン調達基準の厳格運用。環境配慮型商品の導入推進。
  4. 工場自動化:最新の省エネ設備やAIによる生産最適化、排ガス浄化装置と連動した管理など、「スマートファクトリー」の実現によるエネルギー・環境負荷の低減。

現場目線で見る、生物多様性対応の“リアル”

「やらされ感」ではなく「自分ごと」に

SDGsや生物多様性という言葉は、時に「外からの押し付け」「お役所仕事」として現場に伝わりがちです。

しかし、実際には現場が主体的に課題意識を持ち、「生物多様性への影響=自身の仕事・生活への影響」と考えることで、初めて本質的な推進力が生まれます。

工場長やラインリーダーは、「環境活動は現場の改善活動の一環」として、QCサークルや安全衛生活動になじませる工夫が重要です。

現場でできる!小さな生物多様性アクション

– 敷地内・周辺の緑化プロジェクトやビオトープ造成
– 従業員・地域住民と一体となった植樹・ごみ拾い活動
– 工場排水の浄化槽見直し、油や化学物質排出のゼロ化
– ノンフロン・ノンVOC(揮発性有機化合物)資材への切替
– 社内食堂での地産地消メニュー拡大

効果測定として「どれだけ生物種が増えたか」「周辺への正の影響があったか」を社内で共有することで、モチベーションアップにもつながります。

バイヤー・サプライヤーの双方が知っておくべきポイント

バイヤーは“未来指向型選定”を

今やコスト・品質だけでなく、サプライヤーの環境対応力が企業価値を左右します。

温室効果ガス削減、廃棄ゼロプロジェクト、FSC・MSC認証取得状況の確認、生産現場の実地監査など、購買担当も専門知識のアップデートが欠かせません。

未来志向を持って調達先を選ぶことで、サプライチェーン全体のサステナビリティを推進できます。

サプライヤーは“情報開示と提案型営業”を

「ウチは中小企業だから…」とあきらめるのは早計です。

環境配慮活動の「見える化」や、「自社工場の特色を活かした利点」を、積極的にバイヤーへアピールすることが重要です。

例えば、「地元産間伐材の利用実績」「工場排水の再利用システム」など、現場ならではの工夫が取引拡大の武器となります。

業界全体で進むべき道:ラテラルシンキングのすすめ

常識にとらわれない発想で生まれる価値

これからの製造業は、単なる合理化ではなく、「生物多様性価値の共創」を目指すべきです。

例えば、廃棄する樹皮を地元アート作家に提供したり、工場の排熱を温室栽培に利用するなど、業種の壁を越えたコラボレーションが持続的価値を生み出します。

また、生産ノウハウを自然保護活動(人工魚礁・バイオトープ造成等)に応用できないか、地域社会や異業種とともに知恵を出し合うことが重要です。

「ものづくり」の本質は“持続・共生・進化”

昭和型の「作って売る」製造業から、「つなげて育む」製造業へ。

生物多様性保全はSDGs対応だけでなく、企業の未来価値を高め、社員・地域・社会との新しい絆をつくるきっかけになります。

変化の激しい時代だからこそ、本質を問い直し、一歩踏み出す勇気が求められています。

まとめ:現場から、未来を変える

製造業が生物多様性保全に本気で取り組むことは、世界全体のサステナビリティ推進に直結します。

大企業も中小企業も、新しい時代の潮流に合わせて、持続可能なものづくりを「現場力」で実現しましょう。

現場目線での挑戦の積み重ねが、SDGs達成はもちろん、企業としての信頼や競争力向上にもつながります。

自分の仕事と日常の延長線上に「社会」「自然」「未来」を置き、共に次なる地平線を切り開いていきましょう。

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