投稿日:2025年6月16日

製品開発における品質・信頼性の作り込みと品質保証への活かし方

はじめに:製品開発と品質の連関性を見つめ直す

製造業に従事している読者の多くが強く意識しているものが「品質」です。
昭和の高度経済成長期から現代に至るまで、製品開発と品質は切り離せないテーマとなっています。

現在も現場にはアナログな文化が根強く残るものの、品質の作り込みと信頼性の確保は、世界と戦う大手メーカーのみならず、サプライヤー企業や中小規模の工場でも絶対条件になりつつあります。
本記事では、調達購買や生産管理、品質管理に携わってきた現場視点から、「品質・信頼性の作り込み」と「品質保証」への活かし方について、多角的かつ実践的に解説します。

なぜ「品質」が製造業の根幹を担うのか?

品質を巡る世界の潮流と歴史的背景

かつて日本の製品は「安価だが品質は二流」とみなされていた時代がありました。
その後、徹底した現場主義やカイゼン運動、QC活動により、「品質大国ニッポン」の地位を築いてきました。
今や世界中どこでも“Made in Japan”は信頼の印です。

ですが、グローバル化が進展する現代では、コスト・納期・スピードがより重視されます。
それでも、「品質」は最後の競争力であり、ブランドバリューを守る盾です。
品質を高めることが、結果的に「現場への誇り」「企業存続の安定」「顧客満足度の最大化」につながるのです。

信頼性という永続的な保証力

品質と並んで、もう一つ重視すべきキーワードが「信頼性」。
単に検査で合格した、スペックを満たしているというだけでなく、「長い期間、環境の変化にも耐えうる」、トラブル・故障への強さ、すなわち“安心”を設計段階から組み込むことが求められています。

現場発想で考える「品質・信頼性」の作り込みポイント

設計段階からのFMEA/DR(設計審査)の徹底

品質は検査で作るものと思いがちですが、実際は設計や開発の時点でほぼ決まっています。
製品開発ではFMEA(故障モード影響分析)、DR(デザインレビュー)を徹底的に実施すべきです。

失敗例やクレーム事例、過去のヒヤリ・ハットも徹底的に棚卸し、設計時に「なぜ失敗が起きたのか」「どの工程で信頼性が損なわれたのか」を議論します。
サプライヤーの視点から見ると、自社で把握しているノウハウを早い段階から共有できることが理想です。
現場では「今まで通り・慣例だから」で流しがちな設計審査ですが、「見逃し」や「思い込み」を排除し、部門横断チームで磨き上げていくことが不可欠です。

工程内品質保証:検査頼みからの脱却

多くの現場では、「最終検査で不良を見つけてハネる=品質保証」だと思いがちです。
しかし、検査で取り除ける不良は氷山の一角です。
究極は“不良を作らない”生産工場づくりです。

例えば自動化工程では、初期流動管理・品質計測のIoT化を推進しましょう。
人の勘や経験に頼ってきた微妙な工程でも、データロガーやAI認識技術を利用し、「いつ・どこで・なぜ」不具合が発生するのかの見える化が可能です。
また、現場従業員が「自分の作業がどんな不良・リスク要因を抱えているか」を理解し、改善提案できる文化醸成も重要です。

サプライヤー管理と共同品質保証の重要性

構成部品・調達品に分業化が進む日本の製造業において、サプライヤー(外注先)の品質レベルが製品の品質に直結します。
「バイヤー任せにせず、現場の目線でサプライヤーと定期的に現場巡回やQCD(品質・コスト・納期)レビューを行う」ことが不可欠です。

さらに、サプライヤーとの情報共有ツールをデジタル化することで、品質トラブル発生時もリアルタイムで即座に連携できる体制を整えます。
“狭義の自工程のみ”でなく、川上から川下までの連携プレーで品質保証を実現します。

品質保証部門が担うべき役割と実効的施策

品質異常発生時の「真因究明」と「水平展開」

品質異常が発生した際、「ヒューマンエラーだった」と片づけてしまう現場を多く見てきました。
ですが、本当の意味での品質保証とは、「なぜ、そのエラーが起こり得る工程だったのか?」を深掘りし、構造的な要因を究明し対策することです。

また、一度発生した不具合やヒヤリ・ハット事例を、対象工程だけでなく類似製品・他部署・協力工場にも迅速にフィードバック・横展開(水平展開)していくことも重要です。
これが風通しの良い品質文化を育て、「人から設備、組織」へと品質保証の仕組みを定着させます。

アナログ文化からの脱却とデジタルツール活用

製造業の現場には、根強いアナログ文化や“伝統的なやり方”が残っています。
手書きの作業日報や、Excelベースの手動チェックシートでは、「ヒューマンエラーの温床」かつ「見える化・分析」の阻害要因となります。

現場の意識改革とともに、IoTセンサーによるリアルタイムモニタリング、QMS(品質管理システム)のデジタル活用で、「データドリブンな品質保証」へシフトすることが企業存続のカギです。
とりわけ調達・品質管理部門では、サプライヤーと品質情報をオンラインで速やかに共有できるクラウドサービスの導入も進めるとよいでしょう。

従業員教育とモチベーション向上策

品質保証体制の充実には、従業員一人ひとりの意識改革と教育投資も欠かせません。
育成計画を立て、工場全体で品質勉強会や不良解析事例の勉強、QC検定など資格取得への支援策を取り入れます。

さらに、現場提案制度や表彰制度で「現場からの改善案」を積極的に採用し、現場の自律性を育てることで、組織として品質保証文化が底上げされていきます。

サプライヤー・バイヤー双方に求められる行動変革

サプライヤー視点:品質作り込み能力の強化

サプライヤー企業にとって、“一方的に厳しい検査基準を押し付けられる”“クレーム時のみ責任追及される”といった受け身な姿勢では限界があります。

日常的に自社工程で“なぜこの作業が必要なのか”“どこで品質が決まるのか”を自問し、設計面・工程面から予防的品質つくりこみを意識すること、のみならず、顧客企業(バイヤー)に積極的に技術情報や改善提案を出せるパートナーシップがこれからの時代は求められます。

バイヤー視点:調達戦略の高度化とサプライヤー協業

バイヤー(調達購買担当者)は、QCDの最適化と同時に、現場目線でサプライヤーの品質管理体制を見極める目が問われます。
コストや調達リードタイムだけでなく、「工場現場でどんな品質管理・自工程保証がなされているか」「どの程度不良やクレームが未然防止できているか」を自ら現地現物で確認する姿勢が重要です。

加えて、サプライヤー教育(セミナーや監査、品質ワークショップ開催)や継続的な技術コミュニケーションを通じ双方の品質保証力を底上げすることが持続的競争優位につながります。

昭和的アナログ業界における今後の品質保証の展望

IoTやAIを駆使したデータ活用が進む一方で、アナログ文化や属人的ノウハウが残る現場もまだまだ多い製造業。
品質・信頼性の本当の作り込みは、「人の知恵」と「デジタル技術」を融合させていく道にあります。

現場従業員の経験や直感、ヒヤリハット情報を価値あるデジタルデータへと昇華し、工程設計に落とし込む。
バイヤー、サプライヤーが一体となって「自分たちが日本の品質を支える」という誇りを持ちながら、常に学ぶ・改善する文化を持ち続ける。
この地道な積み上げこそが、「品質大国ニッポン」の持続的成長のエンジンとなります。

まとめ:現場発想で“強い品質保証文化”を創る

本記事では、製品開発における品質・信頼性の作り込み方から、品質保証への展開、昭和的アナログ業界が抱える課題とデジタル化への展望を紹介しました。

品質保証は、「検査で不良を排除すること」ではなく、「不良をつくらない仕組み・文化を組織で創りこむこと」です。
一人ひとりが価値ある“現場目線”を持ち、サプライヤーや他部門と壁を越えて連携していくこと。
時代が進んでも、「ものづくりの心」が息づく現場にこそ、世界と競える日本の強みがあります。

今一度、自分の現場で、何ができるか、何を変えられるか。
今日から、小さな一歩を踏み出してみませんか。

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