投稿日:2025年12月1日

行政と企業が共創するサステナブルサプライチェーン構築の実務

はじめに:サステナブルサプライチェーンの重要性が高まる現場

2020年代に入り、「サステナビリティ(持続可能性)」は単なる流行語ではなく、製造業の現場においても、調達、購買、生産管理、品質管理などあらゆる業務領域で無視できないテーマになりました。

かつての製造業はコスト削減や短納期対応が至上命題とされていましたが、いま世界では、環境負荷低減、企業倫理、さらには地域社会や行政との連携といった観点を抜きにサプライチェーンは語れません。

この記事では、現場で従事してきた私の実務経験も交えつつ、行政と企業が共創しながらサステナブルサプライチェーンを構築するための実践的な手法や、昭和的なアナログ文化の中でも進化できるヒントをお伝えします。

サステナブルなサプライチェーンとは何か?現場目線からの定義

サステナブル調達の3本柱

サステナブル調達の基準は「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」、いわゆるESGという三本柱に整理できます。

しかし、現場レベルでは「どこから手をつけてよいかわからない」「大手のグローバル企業はSDGsと言うが、うちの地場サプライヤーは無理だろう」といった声も多く聞かれます。

重要なのは、華やかな目標設定だけでなく、調達現場の実務に落とし込んだ“小さなDX(デジタルトランスフォーメーション)”や“アナログ改革”です。

昭和から続く6つのアナログ課題

私が見てきた現場内外のサプライチェーンには、いまだに次のようなアナログ課題が根強く存在します。

1. 取引先とのやりとりはFAX・電話・紙ベース
2. 集計や帳票はExcelによる手入力が主流
3. 資材や商品在庫は目視・勘に頼って管理
4. サプライヤーの環境対応状況の見える化が不十分
5. 行政への報告様式の煩雑さ(環境関連など)
6. 多重下請け構造に潜む見えないリスク

これらは一朝一夕には解決しませんが、行政と企業、さらにサプライヤーが“共創”する姿勢が打開へのカギです。

行政と企業が「共創」するとは?製造現場で求められる新たな役割

行政指導は「規制」から「促進」へ

環境関連の法規制や地域社会への責任は、これまで“義務”として行政→企業へ下りてくるものでした。

しかし近年では、行政も単なる監督官庁ではなく、企業と一緒に新しい仕組みを「共に創る」パートナーの役割を強めています。

例えば、自治体主導の再エネ調達プラットフォーム、地域循環資源活用事業、CO2見える化の実証事業など、企業と行政が協働する例は年々増加しています。

サプライヤー育成は“支援型”へシフト

多くの地区の工業会や産業団体が、自治体と連携しながらサプライヤーのサステナビリティ対応力を強化する「勉強会」「認証取得支援」「カーボン見える化補助」等を実施しています。

特に脱炭素・エネルギー転換・廃棄物削減などでは、サプライヤーの自助努力だけでなく、公的支援の活用が不可欠です。

“敷かれたレールを守る”時代から“現場発の提案”や“社外メンバーとの協働”を推進できる人財が、新たなバイヤー像として求められています。

実践的!サステナブルサプライチェーンを実現する7つのステップ

1. 既存サプライチェーン全体を可視化する

まずは自社とサプライヤー、物流、販売パートナーなどの関係図を「紙でもいいので書き出す」ことから始めてみましょう。

各取引先の省エネ化状況、環境対応状況、帳票やデータ連携方法などを一覧化し、“見える化”するのが最初の一歩です。

これにより、どこにアナログなギャップやリスクが潜在するかを具体的に把握できます。

2. 身近な“脱アナログ”プロジェクトから始める

いきなり大規模なDXや環境投資は現実的ではありません。

現場のエクセル作業や伝票処理の無駄、在庫棚卸のアナログ作業など、日々発生するミクロな課題を洗い出し、RPAや簡便なクラウドツールで“お手軽デジタル化”を進めましょう。

例えば、帳票電子化による環境負荷低減とペーパーレス化は初期投資が少なく、行政から補助金も狙える施策です。

3. サプライヤーと開く「本音対話」の重要性

優れたサステナビリティ推進は、自社単独だけでなく取引先、サプライヤーとの“本音対話”から生まれます。

机上の理念ではなく、「なぜこの対応が必要か」「何が困難か」「小さな工夫で変えられることは?」を率直に話す機会を設けることが、現場改善の最大の近道です。

行政職員を交えたラウンドテーブルや意見交換会も一案です。

4. 行政や業界団体の支援制度を最大限活用

グリーン調達やカーボンニュートラル、省エネ投資には、国や自治体の様々な補助金・助成金・認証制度が用意されています。

自社で使えそうな制度をリストアップし、経営層や現場責任者に積極的に情報発信しましょう。

業界団体や地域商工会議所と連携し、正確な最新情報を入手することも肝要です。

5. 小さな実績を社内外で「見える化」する

ペーパーレス化、物流効率化、再エネ利用、廃棄物リサイクル率の向上など、取り組みの進捗や成果は社内外に「見える化」することで、社員のモチベーション向上とともにサプライヤーへの好影響を生み出します。

定期的な社内報告、行政やメディアへの発信も検討しましょう。

6. サステナビリティを評価軸に調達基準を見直す

価格・納期・品質と並び、「環境貢献」や「地域社会との連携実績」を調達基準に盛り込む企業が増えています。

現行契約の見直しや調達先選定基準に“脱炭素”“公平な取引”などの観点を盛り込み、多重下請けリスクやサプライチェーン先の環境負荷を低減する“選び方”を再設計しましょう。

7. 長期視点で次世代育成と働き方改革を進める

サステナブルなサプライチェーンには、次世代人財の育成と現場の働き方改革も不可欠です。

「昭和的なやり方」から脱却し、データ活用や共創推進、ワークライフバランスを意識した職場環境をつくりましょう。

業務の標準化・マニュアル化、多能工化などもサステナブル経営の基盤となります。

サステナブルサプライチェーン構築で生じる3つの壁と突破のヒント

1. コストとのバランス

“サステナブルでいこう”という掛け声はあっても、「結局コストが増すのでは?」というジレンマは根強いものです。

この壁を乗り越えるには、短期的コスト増ではなく長期的なリスク低減(法改正対応、商談力向上、取引解消リスク回避)という視点を上層部に浸透させる地道な情報発信が求められます。

補助金活用や価格転嫁交渉も現場バイヤーの腕の見せどころです。

2. 部門間の壁

サステナブルな取組は、調達だけでなく生産管理、物流、総務、技術など多部門の協働が前提です。

歴史ある会社ほど「縦割り」の文化が根強いものですが、部門横断のプロジェクトチームや、現場参加型のワークショップなどで風通しを良くし、ボトムアップ型の“気づき”を増やしましょう。

3. サプライヤーの多様性・地域性

大手資本傘下の先進企業と、地場の中小零細サプライヤーでは、サステナビリティへの対応力に大きな差があります。

一律な対応を押し付けるのではなく、それぞれの事情に応じた“小さな一歩”を支援し、行政も含めた「地域発サステナビリティモデル」を模索することが近道です。

まとめ:共創によるサステナブル経営の真価

製造業の現場におけるサステナブルサプライチェーン構築は、単なる「流行追随」や「お題目」ではなく、本質的かつ地道なマネジメント改革です。

行政は“監督官庁”から“共創パートナー”へ。
企業は“守りの現場力”から“提案・発信型バイヤー”へ。
サプライヤーも“受身”から“協働提案”の担い手へ。

昭和から続く文化やアナログな慣習も大事にしつつ、小さな一歩からサステナブル化へと進化していく製造現場こそが、日本ものづくり復権の原動力となります。

一人ひとりが当事者意識を持ち、仲間―取引先―行政を巻き込んで「共創」する未来を、今ここから築いていきましょう。

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