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古い体質の上司を陰で「昭和博物館」と呼ぶ社員の本音

目次
古い体質の上司をなぜ「昭和博物館」と呼ぶのか
製造業の現場では「昭和博物館」という言葉が、影で語られることがあります。
多くの場合、これは新しい価値観や技術に消極的で、昔ながらのやり方に固執する管理職や上司を揶揄する言葉です。
では、なぜ今も「昭和的」なマインドが残り続け、社員はどんな本音を抱いているのでしょうか。
筆者は20年以上にわたり大手製造業で調達購買、生産管理、品質管理、工場の自動化に携わり、工場長としての現場責任も担ってきました。
その体験をもとに、現実的なエピソードとともに、昭和体質の上司の特徴や、その背景、そしてこれから現場で必要とされる意識について考察します。
現場で働く方、バイヤーを目指す方、さらにサプライヤーとしてバイヤーの内心を理解したい方へ――少し先の未来を見据えるヒントになれば幸いです。
「昭和博物館」に象徴される古い体質の特徴
なぜ変わらない? 昔ながらの仕事観
昭和の時代、製造業の多くが「根性論」「長時間労働」「現場主義」を美徳としてきました。
具体的には、徹底した上下関係、メールやデジタルよりも紙と電話、業務も現場経験重視で属人的、標準化・自動化への関心が薄い傾向です。
「昔はこれでうまくいった」という自負や成功体験が、価値観の変化や技術革新にブレーキをかけている現実があります。
特に地方工場や中小企業では、経営者層や工場長クラスにこの傾向が根強いです。
この「変わりたくない」心理は、若手社員や外部パートナーから見ると、まるで昭和時代の仕事観をそのまま保存した「博物館」に見えてしまうのです。
デジタル移行の壁――紙資料・FAXは健在
多くの製造業の現場では、未だに紙とFAXが主役です。
生産管理の日報、購買依頼書、検査記録など「紙で残す」文化が色濃く残り、電子化やデジタル共有が徹底できていない会社も珍しくありません。
「システム導入にコストがかかる」「慣れたやり方が一番効率が良い」といった思い込みが現場の抵抗要因となっています。
その結果、若手がせっかく自動化やIT化を提案しても、「前例がない」「トラブル対応が難しい」「うちのやり方とは違う」と却下されることが多く、変革は一向に進みません。
「人事評価は見て覚えろ」「背中で語る」指導法
「昔は失敗して怒られて一人前になった」「現場は言われなくても動くもの」といった精神論も、昭和体質の上司に根強い傾向です。
マニュアルよりも「先輩の背中」で学ぶ文化は、経験豊富な職人集団を生み出してきましたが、昭和・平成を経て人口減少が進む今、自発的なナレッジ継承や、標準化・見える化を伴った教育手法に移行できていないのが実態です。
これが若手社員のモチベーション低下や、終身雇用崩壊後の人材流動化時代に大きな足かせとなっています。
なぜ昭和体質は今も残るのか? その根深い理由
失敗への過度な恐れと「現状維持バイアス」
日本の製造業は、長年「減点方式」の評価体系が根付いてきました。
どれだけ前向きな提案でも、少しの失敗で責任を問われやすい組織文化となっており、「変えること」自体が大きなリスクと見なされがちです。
このため、特に昇進した管理職や長く現場をまとめてきた上司ほど「変えたくない」「失敗すると叩かれる」と感じ、古いやり方に固執しやすくなります。
また、「これまでうまくいった」という過去の成功体験が、無意識のうちに現状維持を最優先するバイアスに転じています。
属人的コミュニケーションの限界
昭和体質の大きな特徴が「顔と顔」「飲みニケーション」の重視です。
サプライヤーとの取引においても「挨拶まわり」「根回し」など、非公式なやりとりが意思決定に直結することが多く、大手バイヤーでさえこの文化が根強く残っています。
しかしグローバル化・多拠点化が進み、海外サプライヤーとのやりとりや、リモートワークが求められる現代においては、こうした属人的・アナログなコミュニケーションは非効率です。
一方、昭和体質の上司は「人と人の信頼関係こそが商売」と信じているため、新しいツールやプロトコルへの切り替えが進みません。
「職人技」の美学は資産か負債か
多様な試作や短納期案件でも「熟練の勘とコツ」で乗り切った昭和世代。
現場の「神の手」とも呼ばれる職人の存在は、特注品や品質危機対応で数多くの難局を救ってきました。
しかし逆に、工程の標準化・部門ごとの情報共有・QC活動など「見える化」への抵抗も大きいのが現実です。
結果として「この仕事はあの〇〇さんしかできない」と属人化が進み、後継者不足やミス発生リスクにつながってしまいます。
現場の暗黙知を形式知に変えて残すことの価値――これをいかに現場文化として根付かせられるかが、令和時代の製造業には問われています。
昭和体質の上司に対する社員のホンネ
若手社員の感じる「壁」と「違和感」
今の20代・30代社員は、デジタルネイティブ世代です。
「なんで未だに同じ仕事を紙とエクセルで二重入力するの?」「新しいツールに挑戦したいのに、なぜ上司が怖がるの?」――いま、多くの若手がこう感じています。
一方で、「現場では声が大きい人の意見が正しい」「意見を言うと”生意気”と言われる」など、古いピラミッド型組織の中で自己表現しづらさを訴える声も少なくありません。
長年勤め上げた上司へのリスペクトと、現状への違和感が入り混じり、「いつか自分が上の立場になったときには変えたい」「けど、今は逆らえない」といったジレンマが現場に溜まり続けています。
中堅層の苦悩――「現場と経営の板挟み」
40代前後のベテラン世代は、上層部から「デジタル化の旗振り役」を任されることが増えました。
一方で、現場からは「上司たちは結局古いやり方を変えようとしない」「自分たちだけ負担が増えている」との本音も漏れます。
「改革派」と「保守派」の間で、中堅層が孤立しやすいのが多くの現場の実態です。
この世代が「昭和的」な上司の間に入って調整することこそ、組織変革には不可欠ですが、その苦しみはあまり理解されていません。
サプライヤーはバイヤーの何を見ているか
サプライヤーの立場でバイヤーと接すると、こうした内情が透けて見える場面があります。
「発注の要望はデジタルだけど、いざトラブルになると電話頼み」「フォーマットは一元化されたのに、現場対応は相変わらず」「お世話になっている〇〇課長の判断が結局最優先」。
つまり、表向きはDXや標準化をうたいながら、肝心な意思決定のプロセスや現場対応は古い慣習のまま、というケースが多いのです。
取引の現場では、この「二重構造」を敏感に察知し、本音と建前を読み解くことが必須です。
なぜ今こそ「昭和博物館」から脱却する必要があるのか
製造業に求められる「ラテラルシンキング」とは
競争が国際レベルで激しくなる中、「これまでのやり方」だけでは新しい価値は生まれません。
ラテラルシンキング(水平思考)とは、既存の枠組みを飛び越え、他業界のベストプラクティスやテクノロジーを柔軟に導入してみることです。
例えば、IT企業のアジャイル手法を設計・生産スケジューリングに応用したり、サプライチェーン領域でAIやIoTを積極活用したりする考え方が求められます。
この意識変革こそ「昭和博物館」を出て新たな製造業の未来を切り拓く武器となります。
現場発のイノベーションが日本の強さを取り戻す
現場に根付いた改善や「カイゼン」活動は日本の製造業の代名詞ですが、工場長や管理職自らが「変化の推進者」にならなければ、せっかくのアイデアも現場に届けられません。
「上司自身が変わる」「若手の提案に耳を傾ける」「失敗しても挑戦を評価する」――こうした現場発のイノベーション文化があれば、日本のものづくりは再び強さを取り戻せます。
すべての現場人・バイヤー・サプライヤーへ向けての提言
批判を恐れず、価値観の対話を始めよう
「上司が昭和的で困る」と嘆くだけでなく、なぜそういった考え方になるのか、歴史や背景も理解しましょう。
本当に大切なのは、過去の経験ややり方から「自分たちが何を学び、何を捨てていくべきか」を主体的に考える視点です。
上下関係の枠を越えて率直に議論し、組織の本当の課題を見える化することが今こそ必要です。
個人の「違和感」を起点にDXの第一歩を
従来のやり方に「なぜ?」と感じるその直感こそ、現場改革・デジタル化の第一歩です。
「こうしたら業務がもっと楽になる」「サプライヤーともっとスムーズに連携できるのでは」といった思いをどんどん発信し、小さな成功体験を積み重ねてください。
一人のイノベーターが、チームや現場を少しずつ変え、やがて昭和体質だった組織も新しい会社文化を持つようになります。
バイヤー・サプライヤーも「昭和脱却」の旗振り役に
バイヤー・サプライヤー双方が「率直なコミュニケーション」「業界を良くする提案」を意識すれば、サプライチェーン全体のバリューが上がります。
たとえば「なぜFAXなのか?」「見積もり提案をデジタル化できないか」といった議論から始めて、取引のあり方そのものをアップデートしていきましょう。
まとめ―「昭和博物館」は過去の遺産か、それとも未来の種か
昭和体質の上司やアナログな現場文化は、過去の日本の製造業を強く支えた財産でもあります。
一方で、急速な技術革新や人材流動化にどう対応するかで、業界全体の未来が大きく変わります。
「昭和博物館」と自嘲気味に現場を眺めるのではなく、過去の知見を活かして今こそ現場発のイノベーションを起こしてほしい。
バイヤーやサプライヤーも、現場のリアルな課題と向き合うことで、新しい市場や価値を一緒に発見してください。
次世代の製造業は、あなたの「違和感」からきっと始まります。
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