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海上輸送の環境指標CIIを踏まえたキャリア選定で環境配慮とコストを両立

目次
はじめに:製造業のグローバルサプライチェーンと環境指標CII
製造業を取り巻くサプライチェーンは今、かつてない変化の渦中にあります。
激しい国際競争とサステナビリティへの社会的要請。
その両方に応えることが、調達購買担当者や工場担当者に課された新たな使命となっています。
特にグローバルな材料・部品調達において欠かせないのが海上輸送ですが、近年注目されているのが、温室効果ガス(GHG)排出量を基準とした「CII(Carbon Intensity Indicator)」です。
従来はコストや納期が船会社(オーシャンキャリア)選定の主な指標でしたが、今や環境指標のCIIも欠かせない要素となりました。
本記事では、キャリア選定におけるCII活用の実践的な視点と、いかにして環境配慮とコストバランスを両立させるのかを、現場経験に裏打ちされた知見とともにご紹介します。
CII(Carbon Intensity Indicator)とは何か?
CIIは、IMO(国際海事機関)が定めた船舶ごとのGHG排出強度指数です。
具体的には、船舶が輸送する貨物量1トンを1海里輸送するのに排出するCO2等ガスの量(gCO2/トン・海里)の基準値です。
2023年から導入され、すべての国際船舶がその検証・レポートの義務を負っています。
この値は年ごとに報告され、AからEまでの等級が割り振られます。
Aが最も環境性能の高いキャリア(優秀)、Eが最低ランクです。
これによって各船会社の環境パフォーマンスが「可視化」されるようになり、環境負荷への事業責任が強く問われる時代に突入しました。
なぜ製造業はCIIを重視すべきか
かつて製造業の調達・購買部門は「いかに安く・確実に・早く」物を仕入れるかを最優先事項としてきました。
しかし近年、ESG経営の潮流が国内外で加速し、取引先の温室効果ガス排出量を上流から追跡・管理することが取引要件として求められるケースが増えています。
例えば自動車メーカーや電子部品メーカーが発行するサプライヤー行動規範にも、「スコープ3(調達~物流含む)でのCO2削減努力」が明記されています。
つまり、バイヤー側の選定基準にキャリアのCII等級や環境対策の有無が組み込まれ、購買先・物流経路の“見直し”が進んでいるのです。
また、サプライヤーの立場でも環境配慮型の物流提案を競争力強化の切り札とできるため、CII情報は「売り手」にとっても大きな武器です。
海上キャリア選定の現場:「昭和的発想」からの転換ポイント
今も多くの現場では、海上キャリア選定が「馴染みの会社」「価格交渉力」「過去の納期データ」といった経験則に頼りすぎていることが否めません。
特に昭和から続くアナログな調達現場ほど、「環境指標なんて付加価値に過ぎない」との声が強いです。
しかし、環境基準の順守やCII高評価キャリアへのシフトが遅れると、サプライチェーン全体の脱炭素対応で競合に後れを取る危険性があります。
また、国際取引のコスト体系にも変化があり、CIIランクの低い船会社や老朽船は今後追加的な環境規制コスト(燃料課徴金や通航制限)を課せられる可能性が高まっています。
現場目線での気づき:
「いつものキャリア」がこの先も最適とは限りませんし、“安かろう悪かろう”キャリアから切り替える準備を早めに始めておくことが、新時代へのアドバンテージとなります。
環境配慮とコストを両立させるキャリア選定の実務ポイント
1. 複数キャリアのCII等級を定量比較する
まず、取引候補となる海運会社のCII等級・排出量データは一度一覧表で“見える化”しましょう。
これは環境調達での最初の一歩で、各キャリアの環境ポジションを客観視できます。
インターネット上でも主要キャリアのCII情報やサステナビリティレポートが公開されています。
ワンポイント:
単年度のCIIだけでなく、3年~5年の推移や改善計画の有無も確認しましょう。
恒常的にAやB評価を維持しているキャリアは信頼度が高い傾向です。
2. 輸送コストと環境コストのトータルコスト考慮
購買現場では「環境配慮キャリア=割高」という固定観念が根強いです。
しかし、近年はキャリア各社が燃費効率の高い新造船投入やGHG排出量削減技術の導入に本気で取り組んでおり、必ずしも環境対応キャリアが一番割高とは限りません。
むしろ、規制強化による将来コスト、リスク分散(例:低等級キャリアの運休リスクや制裁金)まで含めると、環境対応度の高いキャリア選定は中長期的にコスト競争力の源泉となります。
3. 取引先へ環境対応方針を明示&交渉
一方で、顧客や他の購買担当部門が「コスト一辺倒」で進めている場合は、バイヤー自身がCII等級重視の方針を社内外に明示し、交渉の材料とすべきです。
顧客型サプライヤーの立場においても、「弊社の調達方針はCII等級B以上キャリアの採用を基本とします」と公式文書に明記、取引先にも同様の配慮を求める姿勢を見せることで、全体最適のサプライチェーン改革が実現しやすくなります。
4. 輸送スケジュールや混乗、燃料種の選択まで柔軟に検討
「早さ」や「定期便」重視でキャリアを選ぶ時代から、用途や製品特性によって「環境等級や燃料種(LNG船、バイオ燃料船)」を優先する戦略への転換も有効です。
また、複数荷主との混載・シェアリング利用などで、単位あたりCO2排出量を下げられるパターンもあります。
納期とのバランスを見ながら、最適解を探ることが大切です。
バイヤー・サプライヤー双方に求められる“ラテラルシンキング”
環境対応を単なる「追加コスト対策」や「義務」と捉えず、サプライチェーン全体の新たな価値創出と考えることが重要です。
この観点が、今後製造業の調達バイヤーや現場管理職、サプライヤーにとって本当の競争力となります。
導入例とその効果
例えば、私が過去に関わった特定部品の輸入案件では、従来の船会社からCIIが安定A評価の欧州系キャリアに切り替えました。
その際、輸送コスト単体ではごくわずかな上昇があったものの、大口顧客のESG要求に合致することで受注残高が約2割増加。
「うちは環境対応輸送だ」と営業部門の大きな販促材料にもなり、決して見掛けのコスト増だけで評価を終わらせない配慮が、現場レベルでも好結果につながりました。
まとめ:アクションプランと今後の展望
海上輸送のキャリア選定は、昭和的な「安い・速い」から「環境指標(CII)」も加味したトータル最適化の時代に突入しています。
これからの製造業購買やサプライヤーには、
・CII等級を見える化し“比較”
・目先だけでなく中長期的なコスト・リスクを総合判断
・環境基準への社内外コミットメントを明確化
・物流・輸送スキームそのものの刷新検討
というラテラルシンキング(横断思考)での取り組みが求められています。
“伝統と慣習”にこだわるのではなく、「環境対応ノウハウで競争優位を築くプレイヤー」へ大きく進化するチャンスです。
バイヤーを目指す方、現場のサプライヤー担当者、調達現場のマネジメント層、それぞれが意識改革を持ち、実践に繋げていきましょう。
CIIを活用したキャリア選定は、まさにこれからの製造業イノベーションの入り口です。
この地平線の先に、新たな製造業の価値創造が待っています。
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