投稿日:2025年7月10日

設計不具合を未然防止する原因分析と改善プロセス実例集

はじめに:設計不具合ゼロ化は製造業永遠のテーマ

設計不具合は、製造業に携わるすべての人にとって避けて通れない問題です。

一つの小さな見落としが、後工程での大幅な修正や、納期遅延、品質トラブル、顧客クレームといった大きな損失につながることもあります。

昭和から令和へと時代が移り変わっても、「設計の初期段階で筋道だった原因分析を実施し、本質的な改善につなげる」というアプローチへのニーズは衰えることがありません。

特に最近はサプライチェーン全体への影響も大きく、バイヤーやサプライヤー双方が設計起因のトラブル防止策を熟知しておくことは、競争優位のために欠かせないスキルとなっています。

本記事では、設計不具合防止のための原因分析手法と、実際の改善プロセス事例を「現場目線」で徹底解説します。

設計不具合とは?現象と影響

設計不具合の定義と発生箇所

設計不具合とは、製品や部品の設計そのものに起因し、計画通りの性能や機能、安全性が確保できない事象を指します。

発生箇所は大きく分けて次の3つに分類されます。

・仕様段階:要求定義・仕様書への理解不足による齟齬
・図面段階:設計意図や寸法公差の誤り、漏れ
・部材選定・評価段階:部品の強度や材質選定ミスなど

現場・サプライチェーン全体への波及影響

設計不具合は、現場レベルのみならず、サプライチェーン全体、場合によってはユーザー現場にまで大きな波及影響を及ぼします。

・生産現場では不良流出や手戻りによる生産計画の混乱
・バイヤー側では調達コスト・納期への圧迫や信用失墜
・サプライヤー側は品質保証・再発防止体制の構築コスト

特に“量産立ち上がり直後”や“海外サプライヤーとの連携時”では、設計時点での未然防止が大変重要です。

設計不具合の典型的な原因と現場の「見えにくさ」

未然防止が難しくなる理由

設計不具合の厄介な点は、その多くが「設計時点で気づきにくい」ということです。

なぜなら、設計段階では図面や仕様書、シミュレーションばかりが先行し、現物を手にすることなく進行しがちだからです。

その結果、次のような「昭和的アナログ文化の残滓」が根強く影響します。

・経験や勘に頼った設計レビュー
・納期最優先によるレビュー工程の形骸化
・サプライヤーとの十分なコミュニケーション不足
・設計者と生産現場、品質保証部門の壁

よくある設計不具合の典型例

現場で頻繁に発生する設計不具合例と、原因を列挙します。

・図面上で必要な寸法公差が記載されていない(転記ミス、思い込み)
・部材強度の計算漏れ(荷重アップ、法規制変更の見落とし)
・組立てやすさを考慮しない“作りにくい構造”
・部品調達リードタイムやコスト無視の設計
・実際の生産設備・治具適合の未確認

こうした例が、現場で「今さら変えられない」「誰が責任を持つのか不明」となり、大きな手戻りや追加コストを生みます。

設計不具合を防ぐ原因分析手法

原因分析の基本フロー

設計現場での原因追究と再発防止策の考え方は、以下のフローが王道です。

1. 不具合現象の正確な把握(何が、どこで、どのように)
2. 発生要因の多層的抽出(人・モノ・設備・情報・方法・管理)
3. 真因へのアプローチ(なぜを5回繰り返す)
4. 対策案の立案と効果検証
5. 再発防止策として設計ルール・標準化・教育への反映

現場で有効な分析ツール

・FTA(故障の木解析)
・FMEA(故障モード影響分析)
・なぜなぜ分析(5Why分析)
・特性要因図(フィッシュボーンダイアグラム)

こうした手法は「形式的な儀式」ではなく、各階層の現場経験者、調達バイヤー、サプライヤーとしっかり討議することが重要です。

現場視点での具体的な仮説検証や、初期設計段階でサプライヤーを巻き込むことで、不具合ゼロ化の実現に近づきます。

設計不具合を未然防止した実践的プロセス事例

事例1:組立不良の“勘”から進化したデータ分析

大手自動車部品メーカーでは、「微妙な寸法ずれが組立工程で頻発する」という現象が長年続いていました。

最初は熟練作業者の“勘”で補正していたのですが、本質的な解決策には至らず。

あるときFMEAとFTAを現場サイドも加えて徹底的に実施したところ、「図面上の基準寸法が組立治具の力のかかる方向と合致していない」「公差指示が生産工場の実際のマシン能力にフィットしていない」という真因が発覚したのです。

以降は初回図面段階で必ず現場レビューを実施し、治具設計担当・生産技術担当も参画することをルール化し、現場手直しゼロを実現しました。

事例2:調達バイヤー主導の設計要求明確化

ある精密機器メーカーでは、調達先サプライヤーからの納期遅延や品質不良が度重なっていました。

原因分析の結果、「調達バイヤーが技術者まかせで設計意図を十分に把握せず、安易なコストダウンや短納期要求をしていた」ことが判明。

そこで、調達バイヤーが設計者と仕様打合せ段階から積極的に参加し、「部品選定理由や設計意図」をサプライヤー視点で再確認するプロセスを導入しました。

その結果、お互いの要求やリスクを事前に洗い出すことができ、納期遅延・不良コスト激減を実現しました。

事例3:昭和型“阿吽の呼吸”からの卒業、設計標準化による属人化排除

複数拠点を抱える電子部品メーカーでは、昔ながらの「ベテラン頼み」が横行しており、新人設計者のミスで現場トラブルが頻発していました。

品質保証部門が主導してFMEA、設計DR(デザインレビュー)の標準体系を再構築。

形骸化した定例会議を「実話ベースの不具合例→原因分析→設計標準見直し」という本質的な討議の場へとシフトしました。

誰でも設計・レビューに参加できる体制へと変革し、“三現主義(現場・現物・現実)”に根差した未然防止活動が大きな成果を上げています。

バイヤー・サプライヤー連携強化のポイント

製造業バイヤーが注目すべきポイント

・設計初期段階での要求仕様確定の徹底
・設計者・現場・サプライヤー混成チームによるレビュー
・“調達観点”での設計妥当性評価の実施
・長期的なパートナーシップ構築による情報共有とリスク低減

サプライヤー担当者が知るべきバイヤーの本音

サプライヤーの視点では「設計要求の裏側にある意図」や、「バイヤーが何をリスクととらえているか」への理解が重要です。

・単なるコストダウンよりも“質の高い提案力”が評価される時代
・不具合情報・対策事例の積極的なフィードバック
・自社技術や生産現場の強み・弱みの“見える化”で差別化

こうしたポイントを意識した提案や改善活動は、バイヤーからの信頼獲得、ひいてはビジネス拡大につながります。

設計不具合未然防止のために現場がやるべき5つのアクション

1. 設計初期段階から「現場・現物・現実」にこだわろう
2. 材料・部品調達の観点と現場生産性の観点を両輪で考えよう
3. 組織横断的な設計レビュー体制を常設しよう
4. 教訓化・標準化を継続し、昭和型の属人依存から抜け出そう
5. サプライヤー・バイヤーの枠を超えた現場ベースでの情報共有を進めよう

まとめ:設計不具合ゼロ社会を目指して

設計不具合の未然防止は、すべての製造業に共通する課題です。

現場やサプライチェーンの“声”を設計工程から最大限取り入れることで、これまで見過ごされてきた原因を正しく摘出し、本質的改善につなげられます。

バイヤーやサプライヤー、設計者、品質・生産現場、さらには経営層に至るまで全方位的に「設計不具合ゼロ」に取り組むことが、企業競争力と信頼構築の原動力です。

今こそ昭和型のアナログ文化を乗り越え、製造業全体でイノベーションを加速させていく時代です。

本記事を読まれるみなさまの現場で、ぜひ今日から具体的なアクションを起こしてください。

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