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*2025年5月31日現在のGoogle Analyticsのデータより

機械構造物における金属疲労のメカニズムとCAEによる疲労強度設計法のポイント

目次
はじめに:金属疲労が製造業にもたらす課題
製造業の現場において、金属構造物の「疲労」は避けて通れない重要課題です。
自動車、産業機械、各種産業プラント、家電製品に至るまで、「部品がある限り疲労破壊のリスクあり」と言えます。
累積使用による突然の破損は、安全性はもちろん、信頼性や生産性、さらには企業ブランドに多大な影響を及ぼしてしまいます。
そして金属疲労の「見えにくさ」こそがメーカー現場の頭痛の種でもあります。
なぜ破壊が発生するのか?
母材強度とは別の世界が広がる「疲労現象」。
課題を解決する糸口は、根本の科学現象、設計・調達現場でのCAE(Computer Aided Engineering)活用をきちんと理解することにあります。
本稿では、現場で累積運用されている昭和から続く設計思想や、最新の解析技術を交差させながら、金属疲労のメカニズムとCAE活用による実践的な疲労強度設計法のポイントを分かりやすく解説します。
金属疲労とは:繰り返し荷重による隠れたリスク
金属疲労の定義
「金属疲労」とは、構造物に繰り返し外力(荷重)がかかることで、強度値よりもはるかに低い応力で割れや破断が進行する現象を指します。
たとえば、曲げ、ねじり、引張り圧縮——このような荷重が日常的に何度も与えられる構造物に多発します。
独得なのは、破壊直前まで外観の変化や警告サインが乏しいことです。
致命的な異常が累積損傷の「閾値」を超えたときに一気に破断するため、突然の事故や設備停止に直結します。
疲労破壊のメカニズム
金属疲労のメカニズムは大きく三段階に分類できます。
1. 初期亀裂発生
繰り返し応力により、材料表面や内部の欠陥部位で微細な亀裂が発生します。
2. 亀裂進展
その亀裂が、毎回の荷重で着実に内部へ進展します。
3. 最終破断
亀裂が臨界長さに達したとき、残存断面で材料が耐え切れず、瞬時に破断が発生します。
この進行は、「き裂成長曲線」としても管理され、毎回の応力範囲や回数で進展速度が決まります。
実際の現場では、き裂の発生部位は多くが「応力集中部」や「溶接部」「加工傷」など初期欠陥が集中する領域です。
昭和から続く「アナログな疲労設計」と限界
安全率設計の強さと弱み
製造業は長年、「安全率設計」という考えに立脚してきました。
つまり、静的強度(破断応力)の1/2や1/3など、かなりマージンを見込んだ設計値を用いていました。
ここには「実使用条件のばらつき」「加工傷や溶接欠陥を考慮」「信頼性重視」など、日本的現場感覚が色濃く反映されています。
近年まで、このやり方で大事故を回避してきたという実績もありますが、「過剰設計」に伴うコスト増や、製品軽量化要求との葛藤も顕著になっています。
社会的には「サステナビリティ」「脱炭素」「原価低減」など、あらゆる最適化のためには、より知的な「根拠ある設計=計算科学に基いた設計」が必須となりました。
材料試験と実機組み合わせ試験の現実
アナログ時代の現場では、金属サンプルの曲げ・ねじり疲労試験や、大型構造の台上連続試験などが定番でした。
「試験することでしか分からない」こと、「最終的には現場の経験」が設計現場の決まり文句でした。
高度経済成長期——多くのライン設備や大量生産部品は、「試験と勘と経験」でリスクを抑え込んできました。
しかし、部品点数増加、納期短縮、コストプレッシャーが加速する今、こうした手法の限界も明らかになっています。
現代では、「どこで」「どのくらい」「なぜ」「どんな条件で」破壊が発生するか——より詳細に定量解析することが不可欠となっています。
CAE疲労解析で現場知を深化させる
CAEとは何か?
CAE(Computer Aided Engineering)は、物理・材料現象を数値シミュレーション(コンピュータ上の仮想実験)で定量的に再現する技術です。
ローカルな応力状態や疲労損傷の進展を3次元の解析モデルを使って「見える化」できます。
つまり、試作や実験に頼らず、設計初期の段階で「将来的なリスク」まで把握できるメリットがあります。
代表的なCAE疲労解析ソフトには、Nastran、ANSYS、Abaqus、FEMFATなどがあります。
CAE疲労解析の流れ
実際の現場で流用される疲労解析の一般的な流れは下記の通りです。
1. CADモデルの作成
解析対象の3Dモデルを用意します。
2. 材料物性の設定
SN曲線(応力―寿命曲線)、き裂進展速度式など、金属ごとの細かな材料特性をインプットします。
3. 荷重条件・境界条件の付与
実際の運転状況に即した荷重サイクル、温度、拘束など環境を設定します。
4. 応力分布の算出(弾性解析)
どの点にどれくらいの応力集中が生じているかを数値で把握します。
5. 疲労ダメージ解析
SN法、き裂進展法(Paris則など)など、疲労破壊メカニズムに沿った各種手法で構造体のぜい弱部を可視化します。
5. 結果の評価と改善案立案
リスク部位、対策の効果シミュレーション、最適な設計条件を現場で検討します。
CAE疲労解析の実施で得られるメリット
CAE疲労解析の強みは、なんといっても「予測精度の高さ」と「リードタイム短縮」にあります。
1. 部品軽量化
過剰な安全率設計から脱却し、耐疲労に必要な肉厚・構造を持たせつつ、形状最適化・軽量化を図れます。
2. 保守・メンテナンス計画の立案
どの部位がどのくらい持つのか?事前に信頼性評価ができるため、保守要員のリソース配分にも直結します。
3. コスト削減・リソース最適化
不要な追試・過剰材料投入を避け、調達部品や製造ラインのコスト削減が見込めます。
4. リコール・事故リスクの低減
解析精度が高まれば、未然に事故を予防し、社会的信用も得やすくなります。
現場で活かすCAE疲労強度設計法の5つのポイント
1. 疲労起点の是正(デザイン・for・ファティーグ)
CAE解析で分かるのは、部材形状の急激な変化点、ネジ・溶接付近など「応力集中ポイント」です。
可能な限り「連続構造」「スムーズな断面遷移」「大きめのR面取り」など、疲労亀裂が入りにくい形状に設計変更をかけましょう。
現場の溶接・加工精度とのバランスをきっちり取り、「実現可能な最適解」を探ることが重要です。
2. 材料選定と表面処理の最適化
SN曲線の高い材料、もしくは保持力の高い表面処理(ショットピーニング、表面改質、コーティングなど)は、疲労寿命延長にきわめて有効です。
調達購買部門と設計部門が密に連携し、原材料やサプライヤーのスペック検証もCAEモデルへ織り込んでいきましょう。
3. 溶接・加工プロセスの品質マネジメント
現場の加工傷、溶接ビードの内部欠陥など、微細な瑕疵でも、疲労寿命に激しく影響します。
CAE解析は「理想状態」ですが、実製造とのギャップ(人の作業バラツキや現場のクセ)を加味し、「ヒューマンファクター解析」「ばらつきシミュレーション」も忘れてはいけません。
4. 使用環境データの現場フィードバック
サイクル荷重、温度変化、腐食環境…実際の運用環境データを現場から吸い上げることが、CAE解析の信頼性に直結します。
フィールドデータ記録(IoTセンサや設備の運行ログなど)の活用は、設計部門の力量向上にも貢献します。
5. サプライチェーン全体への情報共有
サプライヤーからの購買部品に関しても、CAE解析データや設計方針を「共通言語」として情報共有し、すり合わせを行いましょう。
品質トラブルの未然防止、リスクコミュニケーションが格段に進化します。
バイヤー・サプライヤー双方に必要な「疲労視点」
調達購買担当者は、コストやリードタイムの最適化のみならず、「疲労強度を見据えた要求仕様」を明確化することが重要です。
一方で、サプライヤー側にも「自社部品がどの部位に使われ、どのような疲労環境下にあるのか」を理解し、CAEレポート提出や技術協議に参加できる体制づくりが求められます。
それぞれが「同じ目線」でCAE情報を活用することで、継続的な信頼関係とWin-Winの製品づくりへ進化できるでしょう。
まとめ:デジタルと現場知の融合が未来を開く
金属疲労問題は、昭和のものづくり時代から現代まで連綿と続く永遠の課題といえます。
しかし、CAE疲労解析の導入により、リスクを「見える化」し、コスト・品質・納期の最適化が大きく現場に根付きつつあります。
現場の加工・組立・フィールド実態をデータとして吸い上げ、設計・調達・品質部門で幅広く共有活用することで、「デジタルとアナログの融合」という新たな地平線が開けます。
技術革新の風を現場へ吹き込み、すべての製造業プレイヤーが安全・安心・高信頼そして持続可能なモノづくりへ歩みを進める一助にしていただければ幸いです。
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