投稿日:2025年9月8日

保証範囲外の自然劣化を巡り顧客と争った事例と契約修正ポイント

はじめに

製造業の現場では、「保証範囲外の自然劣化」に関するトラブルが頻繁に発生しています。

機械設備や部品は、必ずしも永遠の寿命を持つわけではありません。

しかし、製品が顧客の期待より早く劣化した場合、保証の範囲内かどうかを巡って顧客とサプライヤーが対立するケースは少なくありません。

この記事では、20年以上の調達・品質・現場管理経験をもとに、実際に現場で起きた「保証範囲外の自然劣化」に関する事例や、そのようなトラブルを未然に防ぐための契約書修正ポイントについて解説します。

製造業に従事する方や、バイヤーを目指す方、またサプライヤーの立場でバイヤーの思考を理解したい方に向けて、実務的な観点から情報をお届けします。

自然劣化と保証範囲―現場でよくある誤解

自然劣化とは何か

「自然劣化」とは、使用頻度や時間の経過による、材料や部品、設備の性能低下を指します。

例えば、プラスチックの黄変や、ゴムの硬化・ひび割れ、金属の摩耗など、通常の使用環境下で避けられない現象です。

これらは「消耗品」とも呼ばれることが多く、ほとんどの製品保証では対象外となるケースが一般的です。

顧客が陥りやすい誤解

ユーザー側のバイヤーやエンジニアの中には、自然劣化による製品の使用停止や性能低下を「製品不良」と混同するケースが散見されます。

「まだ使い始めて数年しか経っていないのに壊れた」、「設計寿命の半分で部品が使えなくなった」などのクレームが発生すると、現場サイドは説明に苦慮することも少なくありません。

この背景には、保証範囲や責任分担が曖昧な契約書や仕様書の存在、あるいは業界全体のアナログな商習慣が影響しているのが実情です。

現場で発生した事例:自然劣化と保証の攻防

事例① ゴムパッキンの早期硬化を巡るトラブル

大手設備メーカーが販売した産業用機械のゴムパッキンが、本来の交換サイクルよりも早く硬化し、漏れが発生した事例です。

顧客は「設計寿命を明示したはず」という主張のもと、全数無償交換と損害賠償を求めてきました。

一方、サプライヤーは「通常の使用条件下の寿命であり、頻繁な高温洗浄や薬品洗浄の影響を加味していない」と反論。

調達サイドの管理責任者としては、設置環境の確認、使用履歴のヒアリング、JISやISO規格などの規定引用も交えて、交渉を重ねました。

結果、双方の歩み寄りにより、「現場環境考慮の新仕様提案」と一定期間の割引供給による和解に至った事例です。

事例② 電子基板のはんだ劣化に関する保証クレーム

生産ライン用制御装置の電子基板について、はんだ接合部が3年で断線。

保証期間は2年と契約書上に明記されていたものの、顧客が「業務影響が甚大」「設計上の配慮不足」と主張して保証延長を要求したケースです。

調査の結果、設備稼働環境の温湿度が想定仕様を大幅に上回っていた点が判明。

当初の設計仕様書に「25~40℃の温度環境」と明記されており、顧客側管理体制にも問題があったことから、追加保証は一部部品のみとする案で着地しました。

事例③ 塗装の色あせを巡る長期保証問題

屋外に設置する大型工作機械のカバー塗装が5年以内で著しく色あせ。

屋外曝露のため「経年変化として認める」とサプライヤーは主張しましたが、顧客では「カタログ仕様では10年耐候」と説明した営業トークが誤解を招いていました。

営業現場と設計、品質部門が連携し、実地検査および塗装メーカーと共同で劣化進行状況を評価。

最終的には、「特定地域における紫外線量の想定外な増加」が要因と特定されました。

この場合は、カタログ・契約書類の曖昧な表現を見直し、次回以降は「設置地域の気象情報」に基づく保証基準を追記することとなりました。

昭和的商習慣がもたらすリスク

現場主義による口約束の横行

長年の取引関係や、現場同士の信頼関係によって「まあ今回は無償でやります」といった口約束が横行することが、製造業界ではいまだに根強く残っています。

しかし、これがさらなるクレームや「うちはこれで通ったのに、あちらでは…」といった横並び要求を誘発します。

また、人事異動などで担当者が変わると、過去経緯が分からなくなり、無用なトラブルに発展することも少なくありません。

契約書&仕様書の曖昧さが争点に

特に中小企業や二次・三次サプライヤーでは、JISやISO規格の明文化よりも、現場で交わされる書類や仕様書の記載内容が不十分なケースも見受けられます。

「標準保証1年」や「通常の使用環境下における」などの抽象表現は、双方の認識違いにつながります。

個別案件ごとに細かい条件を確認し、保証除外項目を明記することの重要性をあらためて認識したいところです。

契約書修正・見直しで絶対に押さえたいポイント

1. 保証範囲と条件の明確化

「故障」「不具合」の定義だけでなく、「自然劣化」「消耗」「経年変化」を具体的に区分して書面化することが大切です。

例)「本保証は、通常使用環境下における材料・製造上の瑕疵に限定され、消耗品(例:パッキン、Oリング、ベルト等)の自然劣化は対象外とする」など。

2. 適用環境・使用条件の明記

温湿度範囲、設置環境、使用頻度、点検やメンテナンス条件を契約・仕様書両方で明記しましょう。

「本製品は常時45℃を越える環境では使用できません」や、「○○時間ごとの定期メンテナンスを前提とする」など、具体的な管理項目例も追記しましょう。

3. 保証期間・寿命との関連付け(設計寿命の分離)

「保証期間」と「設計寿命」は厳密には異なりますが、多くの現場では誤解されています。

保証:製品引渡後Xヶ月(あるいは納入日からXヶ月)
設計寿命:標準仕様・使用条件下で期待される性能維持期間。

この違いを明記し、「設計寿命内であっても自然劣化や消耗による交換が発生する場合がある」ことを組み込むのが望ましいと言えます。

4. 保守・消耗品リストと交換頻度の提示

製品ごとの「消耗品リスト」や、想定される交換サイクルを契約書や仕様書に追記しましょう。

また、事前に「消耗品・劣化部品はお客様管理で交換」の主旨も含めて記載し、所定の交換やメンテナンス不履行が保証外となる一文も欠かせません。

5. クレーム処理手順と責任分担の細分化

トラブル発生時の調査手順や責任範囲を明記することで、現場での迅速な対応や無用な責任転嫁を防ぐことが可能です。

「トラブル発生時は直ちに当社(サプライヤー)への報告義務があること」、「サプライヤーによる現地調査・原因究明の際は顧客の協力が必須」など、実務に即した条項を盛り込みましょう。

まとめ:アナログからデジタルへ、現場発想で勝ち抜くために

製造業は、昭和世代の価値観や現場力に支えられてきた歴史があります。

しかし、保証範囲や自然劣化に関するクレームは、今後ますます複雑化・グローバル化していくことが予想されます。

口約束や「現場の空気」に頼るだけでなく、契約と仕様でしっかり“線引き”する仕組みが重要です。

業界の常識を疑い、現場・調達・営業・品質が一体となって顧客満足とリスク低減の両立を目指すことこそ、現代製造業に求められる新しい地平線です。

この記事が、現場に携わる皆様や、これから調達・バイヤーを目指す方、サプライヤーの提案力強化の一助となれば幸いです。

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