投稿日:2025年8月29日

輸入通関で規制品と判断され差戻しとなった事例と契約条文の工夫

はじめに:製造業のグローバル化と輸入通関の壁

製造業の現場では、原材料や部品、完成品まで幅広く海外調達が進んでいます。

日本国内だけでは確保できない品質や価格競争力を武器にするためには、世界各国のパートナーとの取引が不可欠です。

しかしグローバルサプライチェーンを築く中で避けて通れないのが「輸入通関」という高いハードルです。

高度化・複雑化する国内外の各種規制により、輸入した製品や部品が「規制品」と判断され、通関時に差戻しや滞留などのトラブルが発生するケースが後を絶ちません。

多くの現場では、昭和から続くアナログな調達・購買業務の慣習や、契約内容の不備、情報共有不足が要因となり、事後に多大なコストや信用低下を招くこともあります。

本記事では、実際に発生した輸入通関時の規制品トラブル事例を取り上げ、製造業バイヤーや調達担当者が「契約条文の工夫」によって、こうした危機を未然に防ぐ実践知を具体的に解説します。

よくある規制品トラブル事例のリアル

ケース1:無意識の「該非判定」漏れによる差戻し

ある日系自動車部品メーカーでは、海外サプライヤーから搭載用の電子部品を輸入した際、「該非判定」(=輸出貿易管理令に基づく規制対象か否かの判断)証明書の同梱を怠っていたため、税関によって貨物がストップされました。

担当バイヤーは、「この部品は特殊用途ではないから大丈夫」と考えていましたが、電子部品の一部のパラメータが軍事転用の恐れありとみなされ、通関手続きが進まなくなりました。

サプライヤーへの追加書類取得や再審査で2週間以上の納期遅延が発生し、生産工程全体に大きな混乱が及びました。

ケース2:規制対象に該当する合金素材の見落とし

加工時の耐久性向上を目的に、新たに海外で開発された合金素材を導入した某重工メーカー。

ところが、その合金の主成分が「戦略物資」として政府のリストに掲載されていたため、厳格な輸入許可が必要だと判明しました。

契約段階で詳細な製品仕様開示や規制有無チェックを双方で怠っていたため、数百万円分の素材が港で何週間も滞留。

調達先との信頼関係にもヒビが入り、国内調達への切替を余儀なくされました。

ケース3:米国の再輸出管理規制の盲点

グローバル企業によくあるのが、米国内で製造された装置や部材を、中国や東南アジアの第三国を経由して日本に輸入するケースです。

一見、相手国の規制だけをチェックすれば良さそうに見えますが、米国は「再輸出管理規制」が極めて厳格です。

意図せず米法のライセンス違反となり、最悪の場合は巨額の罰金やブラックリスト掲載という重大リスクを背負いかねません。

現場レベルでも、「再輸出」の概念や必要な条文、サプライヤーへの確認作業が極めて不十分なまま取引を進めてしまう事例が多く見受けられます。

規制品リスクの本質:なぜアナログ型製造業はハマるのか?

規制品差戻しや通関トラブルは、なぜいまだに繰り返されるのでしょうか。

昭和型、アナログ志向の強い製造業では、以下のような背景が根強く残っています。

属人的・暗黙知の業務継承

通関対応は「担当者Aの経験と勘に依存」「前任者からの口頭伝達」など、本質的なリスク管理が属人化しがちです。

ナレッジの共有や業務標準化が進んでいないため、新任バイヤーは過去のミスを知らずに同じ轍を踏むことになります。

契約書の重要性軽視と流用文化

「ひな型借用」「前回と同じで」のまま取引契約が締結されることも多く、必要なリスクヘッジ条項が抜け落ちることがあります。

グローバル化の加速に契約実務が追い付いておらず、結果として通関で止まるトラブルが発生します。

規制情報の複雑化とサプライヤー連携の弱さ

最新の輸入規制情報や各国の法改正を毎回キャッチアップできていない担当者が多く、サプライヤーへの必要情報伝達や証明書発行を後手に回しています。

また、海外サプライヤー側も「規制に詳しい日本側が指示を出してくれるだろう」と消極的な姿勢となっているパターンも多々あります。

契約条文の工夫で差戻しリスクを最小化するポイント

では、どのようなアプローチで契約条文や業務プロセスに組み込むことで、現場レベルのリスクを低減できるのでしょうか。

経験則と業界トレンドをもとに、具体的な工夫を解説します。

1. 製品仕様・成分の「詳細開示」と記録の残し方

規制品該当性のチェックで最も重要なのは「正確な仕様・成分情報を契約書に明記し、両者合意の記録を残す」ことです。

見積書や仕様書だけでなく、契約書本体の中に次のような条項を設けておくと効果的です。

– 「本契約対象製品の成分および技術仕様は、別紙○○に定める通りであり、規制該当性について両当事者で確認済みとする」
– 「当該仕様に変更・追加がある際は事前に双方書面で協議・承認を経るものとする」

これにより、後日の証明や税関対応時のエビデンスとしても役立ちます。

2. 「該非判定」等、公的証明書提出を明文化

通関で最も多いトラブルが、該非判定書やMSDS(安全データシート)、原産地証明書の提出忘れです。

契約段階で、必要な証明書類を具体的にリストアップし、納入条件に明記しましょう。

– 「該非判定書、化学品安全データシート、原産地証明等、当社が輸入にあたり必要と認める証明書類は、納入日までに必ず提出するものとする」
– 「証明書類の遅延・不備による通関トラブルはサプライヤー責任とし、当社が被る損害を補償するものとする」

こうした一文があることで、双方の緊張感と役割責任が明確になります。

3. 米国再輸出規制・各国規制の遵守義務条項

各国のエクスポートコントロールに対応するため、契約書上でサプライヤーに対し遵守義務を負わせる条文も重要です。

– 「対象製品が米国等の再輸出規制、各国の輸入・輸出規制対象となる場合、サプライヤーは必要な許認可取得と情報開示責任を負うものとする」
– 「規制違反によって生じる損害・損失については、サプライヤーが一切の責任を負う」

これに加え、サプライヤー教育や年次レビューを契約書の“運用面”にも組み入れることで、トータルリスクを下げることができます。

4. 共同レビュー・アップデート義務の取り決め

規制は毎年のように改訂されるため、契約時点で合意していても、次回取引時にはルールが変わっていることも珍しくありません。

– 「通関規制に関連する法令等の変更があった場合、速やかな情報共有と契約内容の見直しを定期的に協議するものとする」

このような条項で「共同管理・定期見直し」の体制を張ることが長期的安定調達を実現します。

アナログ脱却!現場を変えるための実践アドバイス

いくら契約書を整えても、「現場で知識が共有されない」「組織横断的な情報連携が取れない」ままでは本当の改善にはつながりません。

以下に、現実にあった改善事例を交えつつ、アナログ文化からの脱却ポイントをまとめます。

ナレッジ共有のデジタル化と属人化からの脱却

ある化学メーカーでは、失敗事例や通関トラブルの案件集をデータベース化し、誰でも参照できる社内ポータルを構築しました。

定期的な勉強会や「事故対応事例共有会」を実施し、新任担当者が過去の教訓を“自分ごと”として学べる環境を作りました。

サプライヤーとの意識合わせと教育システムの導入

グローバル企業では、海外サプライヤーを対象に「日本の規制品リスクと必要情報」のオンラインセミナーを年1回開催しています。

契約書だけでなく、現場担当者同士が顔の見える関係で定期的に情報交換を行い、取得すべき証明書類や規制改定点もタイムリーに共有しています。

部門横断型のプロジェクトチーム化

輸入調達業務は、調達部門だけでなく品質保証部、法務部、物流部門との密な連携が必須です。

「通関リスクマネジメント委員会」のような横串組織を立ち上げ、月1回の会合で最新規制情報や通関トラブルの傾向を可視化。

リスク感度を全社で高める運用が評価されています。

おわりに:グローバル時代のバイヤー・サプライヤーのあるべき思考

輸入通関トラブル、特に規制品の差戻しは、単なる“現場のミス”ではなく、グローバルサプライチェーン全体の根深い課題です。

製造業バイヤーとしては、現場目線での契約条文の工夫が「守り」のリスク回避だけでなく、「攻め」の競争優位にも直結することを改めて認識しましょう。

またサプライヤー側も、単なる価格・品質勝負から一歩進み、柔軟なリスク対応力や法令遵守体制を最大の武器とする意識改革が不可欠です。

昭和の慣習から抜け出し、“情報武装”と“契約力”を両輪とした新たな調達購買スタイルを現場主導で確立していきましょう。

その積み重ねが、製造業全体の発展と未来への礎となるのです。

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