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高精度化を追求しすぎて設備能力を超える無茶な仕様になる事例

目次
はじめに:高精度化がもたらす製造現場のリアルな葛藤
近年、製造業の多くの現場では「製品の高精度化」が合言葉のようになっています。
エンドユーザーや顧客からの品質要求は年々高まり、より厳しい製品スペックを目指すのは当然の流れです。
しかし、現実の現場では「どう考えても物理的に無理だ」「設計側が現場を知らなすぎる」などという声も多く聞かれます。
企業として競争力を維持するためには、高いスペックを掲げたい一方で、実際の設備能力や工程キャパシティの範囲を超えた無茶な仕様に走ることも珍しくありません。
この記事では、工場長や調達バイヤー、生産現場に長年身を置いてきた私の経験をもとに、「高精度化至上主義」が陥りがちな落とし穴と、設備能力を超えた無理な仕様要求が現場やサプライヤーにもたらす影響を深掘りします。
サプライヤーとして無理難題に悩む方、バイヤーを志す方、そして現場主義で課題解決を目指すすべての方にとって有益な考察をお届けします。
高精度化への欲求が生まれる背景
市場ニーズの変化と企業競争の加熱
グローバル化やデジタル化の進展により、消費者のニーズは細分化・多様化しています。
自動車分野であれば、環境規制や安全基準の強化。
家電分野なら耐久性や省エネ性能の上昇。
どの業界でも「前より良いもの」「トラブルのないもの」が常に求められ、設計者や開発者は仕様項目に厳しい数値を設定する傾向が強まっています。
特にBtoB(企業間取引)では、エンドユーザーの下流企業から厳しい品質要求が突きつけられ、それがバイヤーや調達部門を通じて現場やサプライヤーへと伝達されます。
設計開発部門と現場の温度差
設計や研究部門は、理想論や計算値ベースでの「ものづくり」に長けています。
一方、現場は加工や組立、設備運用の「物理法則」、すなわちリアルな制約条件の中で日々苦闘しています。
設計段階ではmm単位、場合によってはμm(マイクロメートル)単位での寸法公差が「何となく」盛り込まれがちです。
ところが設備の加工能力、金型の繰り返し精度、あるいは気温・湿度による寸法変動など、現場を知る人には「それ、本当にできるの?」という疑問がすぐに湧きます。
この温度差が積み重なると、要件を満たすために非現実的な投資や過剰な検査、歩留まりの激減など多くの弊害を生みます。
高精度化が引き起こす「無茶な仕様」の典型的なパターン
例1:設備の加工精度を無視した寸法公差の設定
ある金属加工部品で、「±0.005mm以内で仕上げてほしい」と依頼された事例があります。
ところが、その工程で使われている汎用フライス盤のカタログ値は、±0.02mmが限界です。
「0.005mmは研削盤や研磨機を使えばクリアできるかもしれない」とは言われますが、その追加工程はコストも手間も掛かり過ぎ、現実的ではありません。
最終的には「現場のカンと経験」でギリギリを狙う…つまり、工程や設備スペックを超えた「無茶振り」を現場に丸投げすることになってしまいます。
例2:全数検査を強要する流れ
設計部門が「不良品ゼロ」を強烈に意識するあまり、必要以上に検査工程を増やす要求もよく見られます。
とある家電部品の例では、「工程ごとの中間測定」と「完成品の全数検査」両方を義務付けられました。
手間も工数も桁違いに増えますが、設備起因のばらつきを減らすことなく「検査でどうにかせよ」という発想では根本解決にはなりません。
本来ならば「統計的品質管理」などの考え方を導入し、不良の原因を分析・改善すべきです。
しかし現場力、教育、データ分析のリテラシー不足ゆえに「とりあえず全数測る」という非効率な対策ばかりが横行しています。
例3:工程変更・自動化への過度な期待
「自動化すれば精度が向上するはず」という誤解も根強いです。
確かに最新NC旋盤やロボット化の導入により一定水準までは加工精度が上がります。
しかし、人手以上の精度や安定性を過信してスペック設定すると、今度は「設定値の維持管理」「設備停止時のバックアップ体制」など新たな品質リスクが出現します。
自動化・DX化のトレンドにばかり気を取られ、従来設備や人の技能・ノウハウを軽視した結果、「期待以下の歩留まり」「想定外のトラブル」に現場は何度も頭を抱えています。
昭和から続く「アナログ意識」と無茶な仕様との関係
根拠なき「現場力依存」が高精度化の足かせに
日本の製造業には、伝統的に「俺たちの技術なら何とかなる」「昔からこのやり方でやってきた」という職人気質の文化が色濃く残っています。
この文化は現場に強い粘り腰をもたらす一方で、「根性で仕様を満たせ」「熟練者ならできるはず」という非科学的な負荷も生みます。
とりわけバイヤーや調達担当が十分な工程知識を持たず、「できるだろう」と安易に高精度要求を投げることで、無理難題が当たり前になりがちです。
アナログ業界特有の情報共有&現場巻き込みの課題
現場から経営層・設計部門まで情報が縦割り、水平連携が薄いのがアナログ製造業の課題です。
現場担当者が「この仕様だと無理があります」と声を上げても、設計や営業サイドで軽視されたり、伝言ゲームで本質がぼやけてしまったりします。
特に昭和型組織では「前例主義」と「失敗を認めたくない空気」があり、工程やスペックの見直しが進みません。
このままでは外圧(取引先や海外メーカーとの競争)が強まるほど、現場の疲弊は増すばかりです。
現場目線で考える「無茶な仕様発生」への対策
設計段階から現場と対話する仕組み作り
無理なスペックが生まれない最善の策は、設計・開発段階から現場や設備メーカー、サプライヤーを巻き込むことです。
「ブレーンストーミング」や「同時設計(コンカレントエンジニアリング)」の導入により、仕様決定前に現場の可能・不可能をすり合わせます。
現場サイドも、単に「無理」と言うのではなく、「この工程なら±0.02mmまでなら安定して加工できます」「この設備ではこれ以上は投資なしでは難しい」という具体的な根拠や代替案を示すことが信頼につながります。
「ME(Manufcturing Engineering)視点」の情報を積極的に開示
サプライヤーの立場では、「加工実績」「ばらつきデータ」「設備能力曲線」など現場のリアルなデータを商談段階から見せるのが効果的です。
「なぜその精度で止めるのか」「これ以上はどんなコストやリスクが発生するのか」を定量的に示せば、バイヤー側も納得しやすくなります。
一方でバイヤーは、「なぜそのスペックが本当に必要なのか」「下流でどんな現象を防ぎたいのか」という動機・背景をサプライヤーに明示することが大切です。
管理職としての「緩衝材」的役割
製造部門や工場長は、バイヤーの無理な仕様要求と、現場との板挟みにしばしば苦しみます。
ここで大切なのは、要望をそのまま押し付けるのではなく、組織内外のバランスを取る「調整役」となることです。
「設計と現場の板挟み」や「サプライヤーの声をバイヤーへ伝える」立場で、現場の知見、工程限界、試作の知恵などを橋渡しできる人材は、今後ますます重宝されます。
未来志向:高精度化の本質と持続可能な競争力向上へ
製造業の永続的な成長には、「高精度化」そのものが目的化するのではなく、「どの価値基準に向けて、どこまでの精度が本当に必要か」を問い直すことが不可欠です。
「全プロセスでμm単位の高精度化が必要なのか?」
「品質トラブルの本質的な原因は、工程能力よりも設計や材料の選定ミスにないか?」
「現場のノウハウと先端の自動化・デジタル化を、どう共存・融合させるか?」
これらの問いを持ちつつ、現場起点の改善提案、現・物・情報の三現主義、そして組織横断的な対話文化の醸成こそが「無茶な要求」を防ぎ、真の競争力につながります。
まとめ:高精度化を追い求める前に「現場知」を活かす視点が不可欠
高精度化=高度化という思い込みは、一歩間違えば現場やサプライヤーに過剰な負担とコスト、リスクを押し付ける温床になりかねません。
「現場を無視した高精度仕様」にしないためには、現場感覚に根ざしたコミュニケーション、ME的視点の共有、設計と現場の横断的な協働が未来を切り開くカギです。
メーカー現場の知恵と、全工程を俯瞰できる“強いバイヤー視点”を融合させ、持続可能な競争力を築いていきましょう。
読者の皆さんの現場での取り組みや悩みが、少しでも改善・発展するヒントとなれば幸いです。