投稿日:2025年7月14日

FMEAFTAを活用した設計の重点管理トラブル発生のパターンによる原因とその対策法

はじめに:昭和から令和へ、製造現場で求められる設計の重点管理

製造業の現場で「トラブルが発生しない設計」を実現することは、永遠のテーマと言えます。
とりわけ、技術の進歩やグローバルな競争が激しさを増す中でも、現場では未だに「昔からのやり方」や「経験則」に頼った管理方法が根強く残っているのが実情です。
FMEA(故障モード影響解析)やFTA(故障の木解析)といった設計の重点管理手法があるにもかかわらず、その活用が十分でなく、昭和から続くアナログ的ミスが繰り返される現場も少なくありません。
本記事では、これらのツールを現場で本当に活かすために、どのようなパターンでトラブルが発生し、その原因はどこにあり、現実的にどんな対策が有効なのか。
20年以上の現場経験から得た知見も交えて、実践的に解説します。

FMEAとFTAの基本的な違いと役割

FMEAとは何か

FMEA(Failure Mode and Effects Analysis)は、製品やプロセスの設計段階で起こりうる「故障モード」と、その影響や原因を体系的に洗い出す解析手法です。
発生頻度・重大度・検出困難度を数値化し、リスクの高い箇所を重点管理の対象として抽出します。
つまり、「どんな故障が、どのくらいの確率で、どれだけ大きな問題になるか」を事前に見積もり、対策を講じるものです。

FTAとは何か

FTA(Fault Tree Analysis)は、製品やシステムで発生した不具合やトラブルを「論理の木構造」で分解し、原因を遡って突き止める手法です。
特定のトラブルが発生するパターンや、その構成要素間の論理関係(AND/OR)を図示できるため、複雑なシステムにも有効です。
FMEAが「ボトムアップ」で潜在リスクを広く探索するのに対して、FTAは「トップダウン」で現象の根本要因を分解し、再発防止に向けた本質的解決を助けます。

なぜ両方必要なのか

現場では「FMEAだけやっている」「トラブルが起きたらFTAしか使わない」といった片手落ちも散見されます。
しかし、FMEAとFTAは補完関係にあり、両者を適切に連動させることで、未然防止(予防)と再発防止(是正)の両輪が回ります。

設計の重点管理から漏れやすいトラブル発生パターン3選

1. 誰もが見落とす「暗黙知」による設計不備

設計現場では、経験豊富な技術者が「言わずもがな」と思い込んでいる部分が、FMEAで取り上げないまま設計に組み込まれることがよくあります。
たとえば、「この部品は必ず手締めで組み付ける」「○○条件では使わない」などの暗黙の了解が要因となり、工場ラインや現場で混乱や誤作動を引き起こします。
FMEAの実施メンバーに、設計だけでなく現場作業者も入れることで、こうした「見落としリスク」を洗い出すことができます。

2. Verbatimトレーサビリティの確保不足

設計変更や部品仕様のアップデートが頻繁に起こる現代の製造現場では、現場と設計書が「本当に一致しているか」を確認するための仕組みが、不十分な企業も多いです。
FMEAやFTAで指摘された重要なリスクが、改訂や量産移行時にうやむやになるパターンは珍しくありません。
これは品質トラブルの温床になります。
リスク情報・変更履歴・承認責任者を明確に一元管理し、コミュニケーションロスを極小化する仕組みが必要です。

3. FMEA・FTAの形骸化、「やったことにする」文化

監査対策やISO対応目的で、FMEAやFTAが「書類づくりのためだけ」に実施される現場もあります。
きちんと検討し、実効性ある対策が採られているかどうかよりも、「書類がそろっていること」に重きが置かれ、本来の狙い(リスク制御・顧客満足)は二の次になってしまうのです。

トラブル原因はどこにあるか?構造的・現場的な問題の本質

設計部門と現場の壁:コミュニケーションギャップ

FMEA/FTAを活用した設計重点管理が形骸化しやすい大きな要因は、「設計部門と現場(製造・品質管理・購買等)の分断」にあります。
設計意図と現場リスクのすり合わせが不十分なまま、「仕様書通りで問題なし」と思考停止してしまう事例は多いです。
例えば、サプライヤーから提供される部品の試作段階までは良好でも、量産移行時に現場の作業ルールや生産条件と乖離した設計のまま採用されることは珍しくありません。

業界特有の意識と属人化

昭和から続く「ベテランがいるから何とかなる」「トラブルは現場でその都度対処するもの」といった価値観が、未だ製造業界に根強く残っています。
人海戦術で何とかなっていた時代には通用した方法論が、グローバル化・人手不足の令和の現場ではボトルネックになっています。

ルールや手法の誤解と悪用

FMEA/FTAを「ルール通りやればそれで合格」と認識し、本質的なリスク分析や対策の文化が醸成されていない組織も多いです。
また、「やればやるほど仕事量が増えて現場が疲弊する」と敬遠されがちな側面もあります。
この誤解と運用のまずさが、トラブルの温床になりえます。

本当に使える対策法:現場目線でのアプローチ

1. FMEA/FTAは「現場・設計・購買」の三位一体で運用する

FMEA/FTAを机上の空論で終わらせず、現場作業者・生産技術・サプライヤーと共にレビューする場を必ず持ちましょう。
設計図や仕様書だけでなく、「実際の作業映像」「現物支給テスト」「現場で指摘されたヒヤリハット事例」などを見ながら議論することで、未然リスクを深く掘り下げることができます。
また、購買担当者が「サプライヤーの立場」で設計者の意図を評価する時間を設けることで、外部目線のリスク抽出にもつながります。

2. デジタルツールで「誰でも一次チェック可能」な仕組みを導入する

FMEA/FTAをエクセルや手書きで管理するのではなく、デジタルプラットフォームやクラウドツールを活用することで、改訂履歴の透明化や、担当者不在時でもアラートが自動で出る仕組みを構築できます。
AIによる過去データの自動分析も活用しつつ、「どんな担当者でも」「どんな現場でも」一次リスク評価ができる体制を目指しましょう。

3. 教育と小さな成功体験の積み重ね

「形式的なFMEA/FTAは意味がない」という現場の納得感を得るためには、成功事例の共有と教育が重要です。
トラブル未然防止につながった実例を見える化し、現場で起こった「小さな失敗」をFMEA/FTAの仕組みで一つずつ解決する。
その積み重ねが、組織全体の風土を変えていきます。

まとめ:設計の重点管理は「現場とデータ」が命

FMEA/FTAは、昭和時代から日本の製造現場に根付き始めた「重点管理」の代表的手法です。
しかし、本当に現場の安全や顧客満足に寄与するためには、「机上の理屈」だけでなく、「現場のリアル」「追加データ・外部情報」を活かして回す仕組みづくりが不可欠です。
属人化や形骸化に陥らず、全員参加型のリスク管理を目指すことで、日本のモノづくりは新たな境地へと進化していきます。

現場・設計・購買・サプライヤー、それぞれの役割と視点を持ち寄り、FMEA/FTAを“生きた武器”として活用していきましょう。
本記事がその第一歩のヒントになれば幸いです。

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