投稿日:2025年6月27日

キャビテーション損傷を防ぐ発生原理と材料摩耗対策の設計ノウハウ

キャビテーション損傷の発生原理を正しく理解する

キャビテーション損傷は、流体機械や配管設備の設計・運用において見過ごせない問題です。

製造業の現場では、ポンプやバルブ、熱交換器など多岐にわたる設備で発生し、そのまま放置すれば大きな摩耗や損傷につながります。

損傷の根本的な原因を理解しなければ、どれほど対策を講じても“なぜ壊れるのか”“なぜ対策が効かないのか”といたちごっこになりがちです。

まずはキャビテーションの発生原理を掘り下げてご説明します。

キャビテーションとは何か

キャビテーションとは、液体中で圧力低下が起こり、その部分の圧力が液体の蒸気圧以下になった時に微細な気泡(キャビティ、空洞)が発生し、それが高圧部に運ばれて急速に潰れる(崩壊)現象を指します。

この気泡崩壊時には局所的に非常に高い圧力(最大で数百MPa)と高温(数千度)となり、衝撃波が発生します。

これが部材表面を繰り返し叩くため、金属疲労・摩耗が一気に加速し、最終的にはピッティング(小さな凹穴)や割れ、最悪の場合にはフランジや羽根車の破断を招きます。

どのような場所で発生しやすいのか

代表的なのはポンプの羽根車、バルブ座、熱交換器チューブ、船舶プロペラなどです。

いずれも流速が急激に変化したり、部分的に流路が狭くなり圧力の落ち込みが発生しやすい箇所です。

– **ポンプ**:吸込側で圧力低下、羽根車出口でキャビティ崩壊による損傷
– **バルブ**:部分開度運転で流速増、座部すぐ下流の配管内で気泡崩壊
– **熱交換器**:ノズルやパイプ入口、管板つなぎ目部分など絞り部分

現場の設計者や運用担当者が“音がガラガラする”“吐出流量が急に落ちた”と異変に気付くころには、すでに損傷初期が始まっています。

この現象は、昭和時代から変わらず、現代の最新設備でも原理は同じです。

発生メカニズムは“圧力低下”と“回復”のセット

キャビテーションが起こる条件は以下の2点が必須です。

1. 流体が急激に減圧されるエリアがある(圧力低下点)
2. その後、圧力が回復するエリアがある(圧力回復点)

減圧点で液体が蒸発して気泡(蒸気)となり、その気泡が圧力回復点に移動すると、元の液体に瞬時に戻り、その際に衝撃(インパルス)が周囲の固体に伝わるのです。

“圧力を下げない”“圧力を一度下げたら、徐々に全体を戻す”など、流体力学的な工夫が設計思想の原点となります。

キャビテーション損傷のアナログな実態と最新の被害事例

現場では、キャビテーション損傷の目視パトロールや部品破壊後の原因分析が“昭和スタイル”で根強く続いています。

これには以下のような背景があります。

なぜ今なお“目視”や“経験則”が主流なのか

– 古い設備図面や運転記録がデジタル化されていない
– キャビテーション音や振動に関する定量的なモニタリング技術の導入コストが高い
– 生産現場や保全担当者が“手で触れて異常を感じる”ことを重視
– 不良損傷が出てからの“後追い対応”が文化として根付いている

しかし、近年はIoTセンサーやAI異常検知技術の導入が進み、マイクや振動計でキャビテーション発生部の兆候を常時監視する企業も増えてきました。

これにより、人がパトロールしなくても、発生初期で警報を出し計画保全に活かす動きが進みつつあります。

実際の工場での損傷事例

・ポンプ羽根車の縁に10円玉サイズの穴が多数発生し、半年毎に羽根車交換
・ステンレス製バルブ座の狭隘部が“スカスカ”になるまで摩耗し、リーク頻発
・冷却水配管内壁に蜂の巣のようなピット痕。溶接補修で対応後も6カ月再発

これらの損傷は、いずれも“圧力低下—気泡—圧力回復—衝撃”という王道メカニズムで生じるため、変速運転や流体温度変化、圧力値の微差によっても損傷発生スピードが大きく変動します。

キャビテーション摩耗対策の実践的ノウハウ

現場目線で「どこを押さえておけばよいか」「何を優先的に考えればいいか」を整理します。

1)設計段階での流体力学的予防策

・流路の急激な絞りやカーブを避ける
・流速・圧力分布を必ず設計時に計算し、臨界点(蒸気圧以下)はNGとする
・高圧側バタフライ弁の使用や、全閉方向での運用を避ける設計とする
・空気吸入や流体の温度急変がないように、吸い込み・排出部分を十分長くとる
・必要に応じ、キャビテーションフリー設計となる羽根車/バルブ選定

現場で特に効果が高いのは「部品品質や材質よりも、初期設計時の流路条件見直し」です。

2)運転・保守での留意点

・部分開度運転や極端な低流量運転を避ける
・流量計や圧力計を常時監視し、変動時には速度調整やバイパス活用
・配管やシール部からの空気吸込みがないかパトロールで点検

アナログ現場では“職人の耳”が大活躍します。

ガラガラ音、小さな爆裂音、通常より小刻みな振動=キャビテーションシグナルです。

振動計やマイク、音波センサーでの数値化も進んでいるため、異常兆候はデジタルとアナログで“ダブルチェック”することが有効です。

3)材料・表面改質による抑制策

・高硬度材料の使用:Cr-Ni系ステンレス、デュプレックス鋼、Ni基合金
・溶射/溶接肉盛り:タングステンカーバイド、セラミックコーティング
・表面焼入れ:高周波焼入れやレーザー焼入れで耐疲労性向上

実際、標準ステンレス→デュプレックス鋼へ材質UP、セラミック溶射による表面コーティングのダブル対策で、羽根車寿命が2年以上から5年以上に延命した現場も多く見られます。

ですが、材質対策のみでは“根本的な流体条件”の悪化には打ち勝てません。

特に量産品や安価な汎用部品では「根本の設計改善」と「材料・表面の多重対策」を天秤にかけ、コスト・メンテナンス負担と合わせて判断することが重要です。

4)デジタルモニタリングと予知保全

・振動センサー、音響センサーでリアルタイム監視
・AI解析により“正常”と“異常”を自動判別
・記録データを設備管理や次期設計へフィードバック

製造業のデジタル化は、こうした現象予知で大きく効果を発揮します。

今後は、現場作業者が“異変を感知”する時代から、“異変を数値データで自動検出”して自社の設計・保全にフィードバックする時代に進化していくのです。

サプライヤー・バイヤーとしての視点と設計ノウハウ

バイヤーやサプライヤーとして今回の記事を読む方も多いはずです。

その立ち位置で押さえていただきたいポイントを整理します。

サプライヤー(部品メーカー・加工業者)視点

・顧客の使用条件(流体、温度、流速、設置場所)をヒアリングし、最適な材質や表面処理提案を行う
・「現状こう使っている」だけでなく「なぜこの運用か」まで聞き、設計書の奥にある本質的な運用課題に寄り添う
・過去の瑕疵や損傷写真をもらい、どう変化したか記録とともに比較材料として蓄積する

サプライヤーは、材料・加工・表面処理等で差別化しがちですが、“根本の流体条件改善”のための提案ができれば競合他社との差は歴然となります。

バイヤー(調達・購買・現業担当)視点

・損傷事例やトラブル内容をしっかり現場目線で掴み、サプライヤーに具体的な現状や希望寿命を伝える
・コスト重視になりがちですが、長寿命化や保全性まで加味した調達基準を設定する
・納入後も継続的に保守データや異常兆候をサプライヤーと共有し、改修やアップグレード交渉に活用する

バイヤーは不具合品のクレームだけでなく、“現場の根本課題を解決しうるサプライヤーとの二人三脚”を目指すことで、強固なパートナーシップを築くことができます。

まとめ:キャビテーション損傷ゼロを目指し現場と設計が一体となる

キャビテーション損傷は、設計・運用・材料・保全、すべての製造現場にとって“今なお避けて通れない課題”です。

現場目線の実践的なノウハウを押さえ、古いアナログ手法(五感チェック)と新しいデジタル技術(センサー・データマイニング)を上手く組み合わせていくことが、これからの生産現場で勝ち残るための必須条件となります。

最新の材料、表面処理、センサリング技術にも積極的に目を向けつつ、“なぜ発生するのか”の原理思考にこだわる設計こそが、損傷ゼロ・ダウンタイムゼロ・ロングライフを実現する近道です。

本記事を参考に、現場・調達・サプライヤーそれぞれの視点で、「工場全体でのキャビテーション対応力向上」にぜひチャレンジしてみてください。

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