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投稿日:2025年4月26日

流体におけるキャビテーション発生メカニズムとトラブル未然防止策

はじめに:キャビテーションは“見えない敵”

製造現場でポンプや配管のトラブルが起きた際、真っ先に疑うべき現象の一つがキャビテーションです。
インペラの欠けやバルブの異音、流量の急減など、症状は多岐にわたりますが、根本原因として“流体が一瞬で沸騰し、泡が弾ける”現象を見落としているケースが意外に多いです。
昭和から続くアナログ運用では「ポンプを替えれば直るだろう」と部品交換で済ませることも少なくありません。
しかし、真のメカニズムを理解しなければ同じトラブルを繰り返し、コストも工数も雪だるま式に増大します。
本記事では、20年以上工場運営に携わった筆者の現場視点で、キャビテーションの発生メカニズムから未然防止策までを体系的に解説します。

キャビテーションとは何か

沸点は“温度”ではなく“圧力”で決まる

水は100℃で沸騰すると教わりますが、それは大気圧下での話です。
圧力が下がれば同じ水でも20℃や30℃で沸騰します。
ポンプ吸込口や高速流路ではベルヌーイの定理により局所的に圧力が下がり、この“低温沸騰”が起こります。

泡が弾ける衝撃圧は最大数百MPa

生成した蒸気泡は流体が高圧領域へ移動すると瞬時に潰れます。
この時に局所的に数百MPaにも達する衝撃圧(マイクロジェット)が発生し、金属面をピーニングのように叩き続けます。
結果としてインペラの翼端が蜂の巣状に侵食し、最悪の場合は破断へと進行します。

キャビテーションが引き起こす五大トラブル

1. インペラ・羽根車の浸食

数カ月で1mm以上削れる例もあり、ポンプ効率が顕著に低下します。

2. ポンプ振動・騒音の増大

泡が潰れる際の衝撃がケーシングを共振させ、回転軸の芯ずれを誘発します。

3. ベアリング早期損傷

軸振動によるミスアライメントがベアリング荷重を偏らせ、早期摩耗の主要因となります。

4. 流量・揚程不足

ポンプ性能曲線上の設計点から外れ、ライン全体のスループットが落ちるため生産計画に影響します。

5. 異物混入・品質不良

浸食粉が製品に混ざると顧客クレームやリコールに直結します。

発生メカニズムを数値でつかむ:NPSHとσ値

NPSH(Net Positive Suction Head)の実務的意味

NPSHₐ(利用可能)=吸込側絶対圧力 − 飽和蒸気圧 − 吸込損失ヘッド。
ポンプメーカーが提示するNPSHᵣ(必要)より必ず大きいことが条件です。
安全率は一般工業水の場合1.3~1.5、粘度が高い液体やスラリーは2.0以上を推奨します。

σ値で比較する複数ポンプの選定術

σ=NPSHᵣ / 全揚程。
同じ揚程でもσ値が低いポンプほどキャビテーションに強い傾向があります。
バイヤーの立場では価格だけでなくσ値を見積依頼書に明記し、スペック比較に組み込むことで隠れコストを排除できます。

“昭和的運用”が招く典型的な落とし穴

周辺機器との相性を無視した増設

老朽化したラインに新型ポンプだけを入れ替えると、流速・圧力分布が変わり逆にキャビテーションが顕在化するケースがあります。
現場では「新品に替えたのに壊れた」と設備担当者が疑心暗鬼になりがちですが、真因は配管系の総合設計にあります。

清掃間隔の延伸

コスト削減で定期オーバーホールを年1回から2年に1回へ延ばすと、吸込ストレーナ目詰まりでNPSHₐが低下し一気に発生リスクが高まります。

温調バルブの手動運用

オペレータが“勘”で絞り過ぎると局所的圧力が下がり、蒸気泡が生じやすくなります。
自動制御化と差圧監視の導入が急務です。

未然防止策:設計・設備・運用の三本柱

設計段階で盛り込む5つのチェックリスト

1. 設計流量の1.1倍でNPSH計算を実施
2. 配管径はポンプ吸込側で最低でもDN80以上を確保
3. 可能な限り直管長をインペラ径の10倍以上取る
4. ベーパーリリーフラインを高温液の場合必須装備
5. 配管素材は衝撃・浸食に強いSUS316Lやデュプレックス鋼を検討

設備改善で即効性が高い3ステップ

ステップ1:吸込ストレーナのメッシュをワンタッチ着脱型に変更
ステップ2:ポンプ前段にインダクションボックス(整流器)を設置
ステップ3:バイパスラインに差圧式流量制御弁を追加

運用・保全ルールの再構築

・日次点検で音、振動、吸込圧の3点を必ず記録
・振動値はISO10816基準に従い4mm/sを超えたら即点検
・データは紙とスプレッドシートを併用し、現場と事務所どちらでも閲覧可にすることでアナログ文化からの脱却を促進

IoTとAIが拓くキャビテーション予兆監視

加速度センサ+FFT解析

10~30kHz帯域で特徴的なピークを検出できます。
クラウドに送信してAIでパターン学習すると、人的経験の差を吸収できます。

超音波流量計と相関演算

流量の瞬時変動と振動ピークをタイムスタンプで同期させることで、キャビテーション特有のリズムを抽出可能です。

導入コスト試算

3kWクラスのプロセスポンプ10台なら、加速度センサと無線ゲートウェイ込みで約250万円。
ポンプ1台あたり25万円、年5台交換の想定が2台削減できれば初年度で投資回収できます。

事例紹介:食品プラントでの改善プロジェクト

背景

120℃のスープを搬送するサニタリーポンプが半年で羽根車破損。

対策

・インペラ材質をSUS304からSCS14(析出硬化系)に変更
・吸込側配管のエルボを2箇所削減し直管を2m延長
・温調バルブを電動式にし、PID制御で開度を適正化

効果

NPSHₐが0.7m改善し、運転2年で羽根車損耗は0.1mm以下。
ライン稼働率が96%から99%に向上し、年間600万円の損失を防止しました。

サプライヤー・バイヤー双方に求められる視点

サプライヤーは「販売後の維持費」を可視化し、σ値やインペラ材質、IoT対応の有無を提案書に盛り込むことで他社との差別化を図れます。
一方、バイヤーは初期価格よりTCO(Total Cost of Ownership)を重視し、NPSH検証計算書やCFD解析結果の提出を契約条件にすべきです。
これにより“安かろう悪かろう”の選定ミスを防ぎ、サプライチェーン全体の信頼性を高められます。

まとめ:キャビテーション対策は“設計8割・運用2割”

キャビテーションは流体機械に潜むサイレントキラーです。
メカニズムを理解し、NPSHとσ値を指標にした設計段階の仕込みが最重要となります。
さらにIoT監視による予兆検知と、アナログ文化からの脱却を同時に進めることで、トラブルは大幅に減少します。
設備投資と運転コストの最適化は対立ではなく両立が可能です。
本記事が、製造現場で苦労されている技術者の方々や、バイヤーを志す皆様の一助となれば幸いです。

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