投稿日:2025年8月10日

老朽排水管の外側新配管工法に関する技術開発の挑戦

はじめに:老朽排水管問題が製造業にもたらすインパクト

日本の多くの製造業の現場では、昭和から平成初期に敷設された排水管が使用され続けており、老朽化による漏水や詰まり、さらには生産トラブルの原因となっているケースを多く目にします。

インフラの老朽化が進む中、「配管が壊れた時だけ直す」という場当たり的な対応が、業務効率・工場の安全性・コスト管理の全てに悪影響を及ぼしている企業も少なくありません。

現場目線で言えば、古い排水管のトラブルは生産計画全体を狂わせ、歩留まり悪化や納期遅延など、重大な経営リスクにつながる問題です。

そこで今、注目を集めているのが「外側新配管工法」です。
これは、既設の老朽管を撤去せずに、その外側に新しい配管を施工することで、従来の課題をクリアしつつ、現場に最小限の負担でリニューアルを実現できる技術です。

この記事では、老朽排水管の外側新配管工法について、現場管理者・バイヤー・サプライヤーすべての立場から、技術開発の挑戦を掘り下げていきます。

老朽排水管リニューアルの現状と課題

なぜ“改修”が進まないのか

製造業の工場建屋に埋設されている排水管は、設置から30年以上経過しているケースが大半です。
しかし、日本のアナログ業界に強く根付く「問題が起きてから直す」風土や、「予算がつきにくいインフラ系工事ゆえの後回しメンタル」により、改修が大幅に遅れている現場が多いのが現実です。

また、排水管の大規模改修は
– 工場稼働の長期停止リスク
– 壁や床を壊す大掛かりな工事
– 作業員の安全確保や製品への異物混入リスク
– 製造ラインの緊急対応時の混乱
こういった課題も複雑に絡み合い、「やりたくても手を付けられない工事」となりがちです。

調達・購買の現場での悩み

バイヤーの立場に立つと、老朽配管の改修案件は「費用対効果が見えづらい」「納期・工程に影響を与えやすい」ため、調達判断が後ろ倒しになりやすいのが実情です。

また、従来工法による全面交換の場合、予算超過やサプライヤーの選定リスクも高くなります。
加えて、工事期間中に生産が止まれば現場からの強い反発も覚悟しなければなりません。

外側新配管工法とは:革新のポイント

従来工法との決定的な違い

「外側新配管工法」とは、既設排水管をそのまま残し、その外側に新たな配管を新設して改修を行う工法です。

従来は、古い排水管を壊して撤去し、新管を同じルートに敷設する作業が基本でした。
そのため、壁・床・地中の解体→新配管敷設→埋め戻しという大掛かりな工事となり、コストも工期も大きく膨らみます。

外側新配管工法では、配管ルートの近くに新たに管を設置するため、解体工事が最小限で済み、工事期間も短縮。
また、既設管を触らないため、配管からのアスベスト飛散リスクや予期せぬ損傷、異物混入リスクも抑えられます。

外側新配管工法のメリット・現場目線での価値

現場管理職の経験から実感する最大のメリットは、
– 工場稼働への影響を最小限にできる
– 作業員の安全性が向上しやすい
– コストパフォーマンスが高い
– 不測の新たなトラブル発生率が低い
という点です。

また、サプライヤー側にとっても工事リスクが読めやすく、見積額のブレが小さくなり、発注側の調達管理もしやすくなります。

外側新配管工法の技術的ポイントと開発の挑戦

1. 狭小空間での配管設置技術

既設配管のすぐそばに新たな配管ルートを確保する必要があるため、狭小空間での「通し管」「溶接」「固定」など、高度な施工技術が求められます。

特に、配管のジョイント部分や曲がり角、立体交差など、従来工法では容易だった作業に対して新たな工夫が必要になります。

現場では、細径ホースを使った先行ライン引きや、柔軟性の高い樹脂管、新開発の軽量スリーブなど、既存の「通しにくさ」「狭さ」を乗り越えるイノベーションが次々と生まれています。

2. 新配管材の選択と耐久性・安全性

外側新配管工法で多く採用されるのは、ポリエチレン管や樹脂ライニングされたスチール管など、軽量かつ腐食に強い素材です。

この分野でも、ドレン水や薬液への耐性アップや、帯電防止処理、遮音・断熱性能など、現場から生まれたさまざまな要望を転写した配管材の開発が進んでいます。

また、老朽管と新設管の隙間からの異物混入防止や、振動・地震に対する配管の止め方など、「これまでの常識が通用しない」現場特有の問題にチャレンジしているサプライヤーも増えています。

3. 工程短縮・工事品質の両立

外側新配管工法は、既設管を撤去しないため工期短縮には大きなメリットがあります。
しかし、その分「現存する空間をどう使い切るか」「埋め戻し部分の仕上げをどう担保するか」といった新たな品質管理課題が生まれます。

現場ごとの工場レイアウトや作業シフト、稼働制約を徹底して現場調査のうえ、綿密なモジュール設計や事前の仮組み・プレファブ化(事前組立)が、技術開発の新機軸になっています。

昭和から抜け出すための“発注側”の思考転換

「壊れるまで放置」のリスクを直視する

老朽排水管問題を「緊急トラブル時だけの対応」と捉えがちな工場も多いですが、実際には
– 外部漏水による土壌汚染・建屋損傷リスク
– 不意のライン停止による生産損失
– 仕掛品へのコンタミ(異物混入)
– クレーム対応や信頼失墜リスク
こうした“見えないコスト”が積み重なっています。

今こそ、リスクマネジメントとしての定期改修投資、そして現場・技術部門・調達・経営層が一体となる意思決定が不可欠です。

戦略的なサプライヤー選定と相互成長

サプライヤーを価格だけで選ぶのではなく、「現場を理解し、伴走してくれるパートナー」として捉え直すべきです。

外側新配管工法のような先進的な技術を活かすには、工場現場の課題をよく理解し、柔軟な提案や丁寧な現場対応ができるサプライヤーのノウハウが必要不可欠です。

また、発注側と受注側の透明なコミュニケーションを増やし、現場のリアルな問題―例えば「工場設備の接近距離」「稼働中エリアの安全管理」など―を共に改善し続ける姿勢が、これからの製造業バイヤーには求められています。

まとめ:製造業の未来をひらく技術と発想

老朽排水管の外側新配管工法は、単なるインフラリニューアル技術ではありません。

「過去のやり方」を惰性的に繰り返すのではなく、「現場に寄り添い、新たな価値を共創する」という現代のものづくりにふさわしい発想転換です。

今後、IoTやAIにより自律化・自動化が進んでも、老朽インフラと真正面から向き合う現場発の知恵や技術は、製造業の持続的成長と危機管理能力の根幹を支え続けるでしょう。

新たな技術開発への挑戦、そして調達・購買・現場が一体になった課題解決こそ、昭和的アナログな慣習を超えて、製造業の新しい地平線を切り拓く力となります。

今いる現場から一歩、未来へ。同じ志を持つみなさんと共に、製造業の明日に貢献できることを心から願っています。

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