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海外企業が躓く日本企業の承認プロセスの癖

目次
はじめに:日本企業のお作法がグローバルビジネスの壁?
グローバル化が進み、製造業のバイヤーやサプライヤーが国境を越えてパートナーシップを結ぶ時代になりました。
しかし、海外企業が日本企業と関わる際、必ずと言っていいほど最初に戸惑うのが「日本企業の承認プロセス」の癖です。
本記事では、20年以上日本の大手製造業で現場管理・調達・品質管理を経験した立場から、現場実感を交えてその特徴と乗り越えるためのヒントを解説します。
なぜ日本の「承認プロセス」は独特なのか
歴史的背景と組織文化の深いしがらみ
日本企業の承認プロセスは、根強い年功序列や組織内のヒエラルキー文化と密接に関係しています。
昭和の高度経済成長期には「失敗を避けるルール型組織」が主流となり、多数の確認・承認印を経ることでリスクを最小化してきました。
しかし、平成・令和に時代が移っても、その「稟議書文化」「はんこ文化」「根回し文化」は色濃く残っています。
この背景には、意思決定の責任分散、社内調整の重要視、トップダウンよりもボトムアップ型の進め方といった独自の価値観が根底にあります。
現場でありがちな承認フローの実情
例えば調達案件の場合、現場から購買部へ希望を伝え、購買担当者が見積もりを取り、品質・技術・コスト部門に相談し…その都度、上司や部署長の「決裁」印を重ねていきます。
数百万円〜数千万円規模だと部門長のほか、本社審査、監査部門、法務、時には経営会議まで何重もの承認が必要になるケースも珍しくありません。
このため、外国のサプライヤーから見れば、なぜこれほど手間がかかるのか理解しがたい状況に映ります。
海外企業がつまずく3つの癖
1.意思決定者が明示されていない
多くのグローバル企業では“担当=意思決定者”である場合が一般的です。
しかし日本企業では、担当者は「調整役」であり、本当の決裁者は複数人・多層構造で存在します。
このため、誰に何をどこまで伝えれば良いのか、外国勢は戸惑ってしまいます。
2.「根回し」文化でオープンネスが不足
商談段階で合意しても、社内のキーマンへの「根回し(informal negotiation)」がなければ案件が進みません。
なぜなら表向きは合意しても、水面下で反対・牽制する力学が働くことがあるのです。
グローバル企業からすると、透明性や効率性に欠けると映る一方で、日本にとっては「和を尊ぶ」調整術なのです。
3.失敗を嫌う「承認のための承認」
稟議書に数十人の承認印が必要な状況は、意思決定を皆で背負うためだけでなく、失敗時の責任所在を分散する意味合いもあります。
一方、海外企業は「スピード感」や「個人裁量」を重んじるため、遅いと感じるだけでなく、「信頼されていない」と受け止めることも少なくありません。
昭和型を引きずる現場とDX推進のジレンマ
現場管理層の「暗黙知」依存と紙文化
私の現場経験上、ベテラン管理職ほど「形式」や「慣習」に則った承認にプライドを持っており、どうしても紙・印鑑による確認を手放せません。
いまだに「Excel・紙による申請と押印」「ファイル共有よりも紙資料での押印回付」が根強く残っている部門もあります。
このアナログ志向こそが、海外企業から「非効率」とされる大きな要因です。
一方、変わり始めた「令和の日本企業」
近年はテレワーク化や電子印鑑、ワークフローシステムの導入が進みつつあります。
しかし導入しただけでは、とどのつまり「承認階層・関係各所への根回し文化」が根強く残るため、抜本的な変革には至っていません。
昭和のしがらみを断ち切り、グローバル水準の迅速性を得るには、単なるデジタル化ではなく、意思決定スタイルそのものを再考する必要があります。
バイヤー・サプライヤー双方が心得るべきポイント
バイヤーなら「社内巻き込み」と外部への説明責任を両立せよ
自分が調達担当として海外サプライヤーと交渉する際、社内の稟議・承認フローを事前に徹底的に洗い出し、どのステップでどのような根回しや情報提供が必要か明示しておくことが重要です。
曖昧な「意思決定者不明」状態にしないため、社内外にプロセスの“見える化”を推進しましょう。
また、海外サプライヤーに対しては日本の事情(稟議フロー・時間軸・責任分散型文化)をきちんと説明すれば、誤解や不信感を生まない土壌が作れます。
サプライヤーなら「忍耐」と「情報提供」で信頼獲得を
日本との取引を目指す海外企業にとっては、待つこと=機会損失に映る場合もあります。
ですが、「なぜこんなに時間がかかるのか」「どの段階まで進んでいるのか」を定期的に確認しつつ、必要な追加資料や根拠、第三者評価の書類に先回りして対応する姿勢が重要です。
さらに、日本の文化的背景を理解し、急かすのではなく協力的なパートナーとして振る舞うことが長い目で見て成果に繋がります。
今後の展望:日本企業はどう変わるべきか
形骸化した承認フローは淘汰へ
グローバル競争にさらされる中、日本企業も昭和的な形式主義からの脱却が急務です。
特に、「責任の所在をぼかすための多重承認」や「伝統的な根回し文化」は、スピード感ある意思決定を阻害し、機会損失を招いてしまいます。
本当に必要なリスク管理・品質担保のための承認だけに絞り、形式や押印に縛られない“目的本位のプロセス”へ移行すべきでしょう。
海外現地法人や外部の目を“カイゼン”の契機に
昭和以降、日本企業は国内マーケット・サプライチェーンの枠内で完結してきました。
しかし、今後は海外現地法人や外部パートナーの視点、外資系企業の仕組みを積極的に“学び”、独自の進化を目指すことが必要です。
実際、多国籍化が進むメーカーでは、主要案件の承認・検討会に英語ドキュメントを導入したり、内部監査プロセスを国際基準で再編成したりと、「日本流×グローバル標準」のハイブリッドな動きも見られ始めています。
まとめ:それは「障壁」ではなく「進化の伸びしろ」
日本企業の承認プロセスは、海外から見れば理解しがたい壁です。
しかし、その背景には「失敗許容度の低さ」や「組織の和を重んじる文化」といった日本ならではの長所・短所が表裏一体で根付いています。
バイヤー・サプライヤー共に、柔軟なコミュニケーションと仕組み理解を深め、現場の声を起点としたプロセス改善(現場主義のカイゼン)を進めることで、新たなグローバル競争における成長の伸びしろを生み出すことができます。
目の前の“癖”を単なる障壁と捉えず、“進化の契機”に変えていく。
それこそが、次世代の日本製造業バイヤー・サプライヤーに求められる力なのです。
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