投稿日:2025年12月7日

倉庫の人手不足が慢性化し“作業依頼の順番待ち”が常態化する現場

はじめに

現場に長く携わっていると、「どうしてこうも繰り返されるのか」という課題に何度も直面します。
近年、特に深刻化しているのが、倉庫現場の人手不足です。
作業依頼がさばききれず、次第に「順番待ち」が常態化し、現場全体の効率が著しく低下する事態が多発しています。
今回は製造業における倉庫作業の現実を、現場目線で深堀しながら、課題の本質や解決の糸口について考察します。

慢性的な人手不足の要因を読み解く

1.少子高齢化の影響

最も大きいのは、やはり日本全体の少子高齢化です。
特に倉庫作業のような肉体労働を担う層は年々減少し、若い人材は他業種に流れやすくなっています。
中堅・ベテラン世代が定年で抜けた穴をなかなか埋められず、現場は“継ぎはぎ”の体制に陥っています。

2.魅力の伝達不足と労働環境

「倉庫作業=キツイ、長くは続けられない」というイメージが根強く、求人に苦戦する企業は多いです。
実際、空調の効かない現場や、手作業中心で腰に負担がかかる作業が多いことも事実です。
これを改善できないままアナログなやり方に固執していると、なかなか人は集まりません。

3.社会構造の変化と他業種との競合

物流業界に限らず、日本中のあらゆる現場が人手不足で声を上げています。
小売、飲食、サービス業が時給や待遇面で競争しはじめ、倉庫業界は“労働集約”のまま取り残される傾向も目立ちます。

順番待ちの構造 〜なぜ改善されづらいのか〜

1.オペレーションの属人化

現場では「誰が何を、どんな順番でこなすか」を担当者ごとに勘や経験で回しています。
台帳や伝票、ホワイトボードに依存した運用は、情報の伝達ロスやミスを生みやすく、ちょっとした遅れが次の工程や出荷全体に波及します。
この“水面下のボトルネック”が順番待ちの最大要因です。

2.現場事情をくみ取らない発注・依頼方法

営業や生産計画部門から一気に大型の入出庫依頼が集中することも少なくありません。
「突発業務が割り込む」→「リソースを分散」→「全体遅延発生」の悪循環です。
現場のキャパシティや作業状況が十分に共有されておらず、理想と現実のギャップが“恒常的な順番待ち”を生んでいます。

3.アナログ業界特有の“昭和的価値観”

「がんばれば何とかなる」「人海戦術」という発想がいまだに根強いのも事実です。
DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の遅れや、最新ソリューション導入の消極姿勢が現場改善を妨げています。
“慣習”が時代にそぐわなくなっているのです。

バイヤーの視点 ~サプライチェーン全体への波及

1.納期遵守のプレッシャーと倉庫現場の実態

多くのバイヤーは「納期厳守」を強く求めますが、その裏で現場の倉庫担当者は作業依頼ラッシュに追われています。
「納期が命綱」と「作業が追いつかない」という矛盾が慢性的に続けば、クレームやトラブルの原因になってしまいます。

2.サプライヤーとの関係性強化のヒント

サプライヤー側の働き方や作業リソースを“見える化”することは、バイヤーにも大きなメリットがあります。
互いに現場事情を理解し合うことで、納期の調整や工程のフレキシブルな運用など、健全な協力体制が築けます。

3.現場改善が取引コストやリスク低減に直結

順番待ちが減れば、突発的な遅延・ミスも大幅に減ります。
結果として、バイヤー側の調整業務や品質トラブル、余剰在庫なども減少し、トータルでみても経営にプラスになります。

現場起点の実践的な解決策

1.DX・簡易IT化による業務効率アップ

まずは紙やホワイトボードをデジタル化し、作業依頼の受付、進捗の見える化を行いましょう。
手ごろな在庫管理アプリや、スマホ・タブレットでの作業指示共有など、初期投資の少ないツールも増えています。

2.マルチスキル化とチーム運用

人材不足時代には「個人力よりチーム力」。
誰でも複数作業を回せる体制を普段から作ることで、急な業務増減にも柔軟に対応できるようになります。
多能工育成の仕組みづくりは、現場の士気アップにも繋がります。

3.IoT/自動化設備の段階的な導入

完全自動化はコストや現場適応の面でハードルが高いですが、仕分けやピッキング、搬送の一部だけを自動化する選択肢なども有効です。
ロボットやAGV(無人搬送車)のレンタルも普及し、投資リスクを抑えやすくなっています。

4.現場と管理部門・バイヤー間の双方向コミュニケーション

業務設計や依頼ルールの見直しを、現場単体で考えるのは限界があります。
バイヤーや生産管理部門と定期的に現場巡回・ヒアリングを実施し、“実態と理想”のギャップを埋めていきましょう。

アナログからの脱却と日本的現場力の進化

昭和型の「精神論」だけでは、現代の変化は乗り切れません。
しかし、日本の現場には元来「改善」「協働」「細やかさ」といった強みもあります。
完成された現場を一度に変える必要はありません。
現場目線で使える「ちょっとしたIT」や、バイヤーとの率直な対話、そして従来の強みを活かした新たな地平線を、粘り強く切り拓いていくことが大切です。

まとめ

倉庫現場から見ると、順番待ちの常態化は「ヒト・モノ・プロセス」が一体となって機能しなくなった“サプライチェーンの発熱”と例えられます。
人手不足はすぐには解消できませんが、属人化を避け、可視化・ICT・チーム運用を強化していくことで、1歩ずつ改善が見込めます。
バイヤー・サプライヤー・現場担当者が相互理解を深め、共に最適解を模索するプロセスこそが、日本の製造業の生き残り戦略となるのです。
現場の知恵と経験を、ぜひ明日の改善現場に活かしてみてください。

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