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商標・ブランド表示に関する誤記が引き起こすクレームと責任分界点

目次
はじめに:商標・ブランド表示の重要性と現場実務のリアル
製造業の現場において、商標やブランド表示の正確性は今や品質管理の一翼を担う重要な要素です。
自社ブランドの商品を納入する際はもちろん、OEMやODMとして他社ブランドを扱う際にも、商標・ブランド表示の誤記によるクレームは管理職やバイヤー、サプライヤーすべてにとって大きなリスクとなります。
昭和から続くアナログな現場でも、商標やブランド表示のチェック体制は紙運用や目視が中心であるケースが今も多く、予想外の見落としがトラブルになることも珍しくありません。
本稿では、現場目線の実践的な課題と、業界の根強いアナログ体質、そして商標・ブランド表示にまつわるクレームの実相とその責任分界点について、製造業で長年培った経験をもとに深く掘り下げ、バイヤー、サプライヤー双方にとって実用的な知識を提供します。
商標・ブランド表示の誤記が引き起こすクレームの実態
なぜ今も誤記が多発するのか?
筆者が関わった工場や現場では、「製品ラベルの社名・ロゴが間違っていた」「英語スペルが1文字違っていた」「指定フォントが違う」といった理由でのクレームが未だに絶えません。
なぜこのような初歩的なミスが発生するのでしょうか。
その一因は、設計・開発から生産への情報伝達フローがアナログかつ属人的になりがちで、どこかで解釈違いや転記ミスが発生することにあります。
また、ブランドマネジメントの観点からは、ネーミングやロゴデータの最新版管理が徹底できていない企業も多く、現場担当者が「いつものファイル」「前回と同じデータ」で出図・印刷してしまうことが背景にあります。
一方で、「表示ルール」が管理部門で細かく制定されていても、そのルール自体が現場に理解されていない、あるいは“形骸化”してしまっていることも誤記の温床です。
クレーム事例にみる現場の課題
例えば、自動車部品メーカーで「相手先ブランドのスペルが1文字違っていた」ことで、年次契約の大幅な減額に発展した事例。
家電OEMで「表示位置や大きさの指定に違反した」ことでリコール対応を余儀なくされた事例。
こうしたクレームは、直接的な商品廃棄コストやリワーク費用、運送費ロスだけでなく、得意先からの信頼失墜を招き、中長期的にはサプライヤーとしての“指名停止”といった重大なペナルティーにつながりかねません。
商標・ブランド表示に関する責任分界点とは何か
定着しがちな“グレーゾーン”
製造業の多くの現場では、商標表示の誤記が生じた場合、「これは設計の指定が曖昧だった」「いや、現場で勝手に修正した」といった、責任のなすり合いが起こりがちです。
バイヤー(調達・購買)は、契約書や基本取引約款に「図面・仕様書どおりの表示を厳守すること」と明記している一方で、サプライヤー側も「現場で不明点があれば確認した」と主張し、お互いに曖昧なまま終息してしまうケースも多々見受けられます。
契約と法的責任の実際
商標やブランド表示ミスの責任については、下請法やPL法上の製造物責任、ごくまれに知的財産権侵害(特にロゴ自体の盗用等)が問われることもあります。
ほとんどの場合、サプライヤーは「支給図面・支給データどおり」に製造すれば免責となりますが、“自社判断による修正”や“勝手な省略”が認められた場合、サプライヤー側にすべての責任が帰属することになります。
また、OEM/ODMの取引構造の場合、ブランドマスターの承認前に誤記品が市場流出した場合、バイヤーにも監督義務違反が問われることもあります。
重要なのは、設計・開発部門と工場現場の間の承認フロー(「最終承認印」「マスター登録」など)がガバナンスとして機能しているかどうかです。
多くの昭和型企業では、「昔からやっている」「このパターンでいいでしょ」といった“空気的な運用”が根強く残り、トラブルの火種となっています。
再発防止策:情報の一元管理と現場教育
現場で筆者が徹底した対策のひとつは、「ブランドマスター管理表」の運用です。
担当部署が各ブランド/ロゴごとに最新版データを一元管理し、現場担当者が直接データコピー&ペーストできるような仕組みにしました。
さらに、ラベル発注や印刷工程のたびに「指差し確認」「チェックリスト」方式で表示内容・スペル・フォントを目視確認するよう義務付けました。
地道なアナログ運用ではありますが、現場の“勝手な判断”を防ぎ、「不明な場合は必ず上司に確認」というルールを徹底することで、誤記による重大クレームは格段に減少しました。
業界根強いアナログ運用とデジタル化の壁
なぜ昭和型“目視主義”が今も残るのか
多くの日本の製造業現場はいまだに「現物確認」「目視」「手書きサイン」に強い信頼を置いており、表示ミスも「ウッカリ」の範疇と捉えられがちです。
この文化は確かに“品質責任文化”として機能した側面もありますが、数十年前には考えられなかったほど製品バリエーションや小ロット化が進んだ今、「担当者しかわからない暗黙知」に依存するのはリスクでしかありません。
現場は変化を嫌い、「新しい管理システム」や「ペーパーレス」導入には腰が重いのが実情です。
デジタル化への転換には、単なるシステム導入だけではなく、現場全体の“意識変革”が不可欠です。
デジタル化時代の新たなリスクと管理ポイント
業界のいわゆる“脱昭和”運動として、ERPやPLMシステムによるデータ・ドキュメント管理が進んでいます。
しかし、デジタルデータそのものが誤って登録された場合、「現場全体に一斉に誤ったロゴが支給されていた」といった“デジタルによる誤配信”のリスクも浮上してきました。
ペーパーレス化の過渡期こそ、バイヤー・サプライヤー双方が「最新マスターの厳格な管理」「承認フローの明文化」を強く意識する必要があります。
パスワード付きデータやクラウド版承認ワークフローなど、現場負荷を最小にした管理の自動化こそ、これからの時代に求められています。
バイヤー・サプライヤー両立場から見る“良い現場運用”の条件
バイヤー目線でみるべきポイントとは
バイヤーが最も注意すべき点は、「サプライヤー側の認識や管理レベル」を契約や現場監査を通じてリアルに捉えることです。
単なるコスト比較だけでメーカーや外注先を選ぶと、表示ミスに由来する全体コスト増(クレーム処理、廃棄費用、対応工数増大)に泣かされることもあります。
「表記・表示ルールが明文化されているか」「現場にそのルールが伝わっているか」「確認・承認フローが定期的に再教育されているか」は、監査時のチェックリストに入れるべき重要項目です。
また、現場担当者との密なコミュニケーションも欠かせません。トラブル発生時に「すぐ再発防止策を実行できる現場」は、実は長期的に見て有力なパートナーとなります。
サプライヤーが守るべき“鉄則”と現場教育
サプライヤー側に必要なのは、「指示が不明確な部分を自己判断で進めない」「あいまいな場合は必ず問い合わせる」という、簡単そうで徹底の難しい現場教育です。
また、「毎回、指示通りかどうかの最終確認」「現物サンプルをバイヤー(発注元)に承認してもらう」というフローは必須となります。
さらに、現場リーダーが新人・パート・協力会社まで徹底的に現場目線で教育することが大切です。
「このくらい大丈夫だろう」「バレないだろう」を積み重ねた結果が大きな損失を産む、という意識を日頃から持つことが肝要です。
まとめ:製造業の未来に向けた現場意識と協調の重要性
商標・ブランド表示の誤記は、「うっかり」「たまたま」ではなく、現場体質と業界動向、コミュニケーションの質に深く根ざしています。
デジタル化の波が押し寄せる今こそ、昭和型の属人性から脱却し、「正確な情報管理」と「現場の自発的な確認力」を両輪とする体制づくりが求められています。
バイヤーもサプライヤーも、単なる“契約責任”にとどまらず、「クレームゼロ」を共通目標にした協働体制を築き、失われた信頼を再構築しなければなりません。
商標・ブランド表示の小さなミスが、企業間関係や市場評価を揺るがす大きな火種となることを、現場こそが一番知っています。
これからの製造現場には、昭和の良さは生かしつつも、時代に即した新しい仕組みと現場改革が必要です。
皆さんの現場がよりよいものになることを、心から願ってやみません。
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