投稿日:2025年7月4日

塑性加工摩擦潤滑技術で金型寿命を延ばすコーティング活用法

塑性加工における摩擦と潤滑の基礎知識

塑性加工は、金属を変形させて所定の形状に成形する重要な製造プロセスです。
この過程において摩擦や潤滑は、製品の品質や工程の効率、さらには金型の寿命にまで深く関わっています。

金属同士が接触し合うことで生じる摩擦は、成形荷重の増大や金型の摩耗、さらにはワークの表面欠陥といった悪影響を及ぼします。
これらを防ぐため、潤滑油やグリースの使用が一般的ですが、近年では潤滑コーティング技術の活用が拡がっています。

ただし、昭和時代から続くアナログな工程や、現場ごとの習慣が根強く残っているのも現実です。
最先端のコーティング技術をいかに現場で活かすか。
その要点を現場出身者ならではの視点から解説します。

塑性加工現場で発生する金型摩耗のメカニズム

摩耗の種類と主な原因

塑性加工で金型が摩耗する主な原因は、接触面の摩擦力による「アブレシブ摩耗」、金型表面とワーク材料が部分的に溶着して剥離する「アドヒージョン摩耗」、さらには加工熱による「熱的損耗」など多岐にわたります。

現場では、工程数の増加や製造ロットの大型化、材料進化(高張力鋼・アルミなど)の普及で、金型への負荷が年々高まる傾向にあります。

金型にひび割れ、カジリ、磨耗が発生すると、製品寸法が安定しなくなり、生産停止やコスト増につながります。
とくに長尺や高精度が要求される工程では、金型寿命の延伸は製造業全体の利益確保に直結します。

現場での金型摩耗対策の実態

実際の工場現場では、潤滑油やグリースの種類を変えたり、定期的な金型研磨や補修をしたりすることで摩耗対策を施しています。
ただし、潤滑剤の種類選定や塗布量の管理は、人手や経験に依存しがちです。

また、昭和の時代から続く「現場の勘」による判断や、システム的なトレーサビリティが不足している現場も少なくありません。
このあたりは、改善余地が大きいといえます。

潤滑コーティング技術の進化と現場適用例

代表的な潤滑コーティングの種類

潤滑コーティングは、金型表面に特殊な薄膜を形成して、摩擦係数の低減や耐摩耗性の向上を図る技術です。
主な種類は以下のとおりです。

・TiN(窒化チタン)コーティング:金色の外観で耐摩耗性、耐熱性に優れる
・DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティング:超低摩擦で離型性に優れる
・CrN(窒化クロム)コーティング:高い硬度と耐食性
・MoS2(二硫化モリブデン)コーティング:乾式潤滑に有効

これらのコーティングは、成形する材質、加工速度、工程温度など条件に応じて選定されます。

潤滑コーティングの現場メリット

潤滑コーティングを活用すると、単純に金型寿命が2倍、3倍に延びる例も珍しくありません。
とくに自動車部品や精密部品など、寸法精度と大量生産が求められる現場では、直接的なコストダウンに直結します。

また、「潤滑油の使用量そのものが減る」「油分による二次汚染が減る」「熱ダレやアブレシブ摩耗が緩和される」といった副次的なメリットも得られます。
現場の5S推進やカーボンニュートラル対策、作業環境改善にも好作用をもたらします。

導入時の課題とその解決策

一方、コーティング導入には「導入コストの高さ」「適したコーティングの選択」「既存設備との組み合わせ」などの課題がつきまといます。
導入効果を最大化するためには、下記のポイントが重要です。

・加工現場の詳細分析(温度・荷重・潤滑剤種類など)を必ず行う
・コーティング業者と連携し、試作・サンプル評価を段階的に実施する
・コーティングの選定では、「カタログスペック」だけでなく、実際の加工条件との適合性を確認する
・現場の作業者・保全担当と協力し、メンテナンスや取り扱いルールを徹底する

昭和型の「とりあえずやってみる」ではなく、データに基づく合理的な導入が、費用対効果を最大化するカギとなります。

最新技術動向と業界の地殻変動

デジタル技術と潤滑コーティングの融合

近年は、潤滑コーティングの性能を「AI」「IoT」などデジタル技術でモニタリングし、金型寿命を予測・可視化する取り組みも進んでいます。

たとえば、金型表面温度のセンシングや成形荷重の可視化データをAIで解析し、コーティングの残存性能をリアルタイムでモニターするシステムです。
これにより、計画的な金型交換や補修が可能となり、「人の勘」に頼らずに現場の生産性を向上できます。

SDGs・カーボンニュートラルと潤滑技術

製造業界ではSDGsやカーボンニュートラル対応も急務です。
潤滑コーティング技術は、「潤滑材料の使用量削減=環境負荷軽減」「金型の長寿命化=リサイクル性向上」に直結するため、サステナブルなものづくりのキーテクノロジーとなりつつあります。

プレス加工や冷間鍛造などの現場で、オイルミストや廃油による環境問題が課題となる中、無潤滑、少潤滑で高品質加工を実現できるソリューションとして高く評価されています。

バイヤー・サプライヤー視点の新しい付加価値とは

バイヤーがコーティング提案から得られる戦略的メリット

バイヤーの立場では、コーティング仕様を要求水準に組み込むことで、サプライヤーに「単なる部品調達」ではなく「高品質かつ環境配慮型の調達」を促すことができます。

たとえば「DLCコートされた金型使用による安定供給体制」や、「金型交換周期の延伸によるダウンタイム短縮」など、サプライヤーの強みを引き出す条件設定が可能です。
コスト競争だけでなく、「付加価値調達」の実現が今後ますます重要となります。

サプライヤー側の競争力向上と提案営業

サプライヤーは、単なる製品納入のみならず、「工程診断→最適コーティング仕様の提案→導入後の耐久評価サポート」といったストーリー型の付加価値提案が求められます。

例えば、
「お客様の現場での歩留まり率向上までをサポート」
「コーティング膜厚のモニタリングサービスをセット化」
といった“課題解決型営業”が他社との差別化に直結します。

昭和から続く「価格勝負」だけでなく、データに基づく『価値提案型』にシフトすることで、業界の新しい地平線が開けます。

今こそ変革!現場発イノベーションを現実にするために

塑性加工の現場が抱える課題は、単純な材料や設備の選定だけでは解決しません。
金型摩耗や潤滑トラブルは、まさに現場作業の最前線で発生します。

だからこそ、管理職や製造ROマンの皆さんには、
「現場データの可視化」
「最新コーティング技術の積極的な導入」
「サプライヤーと現場が一体となった試行錯誤」
こうした、アナログから一歩踏み出した現場発のイノベーションが求められます。

潤滑コーティング技術は、“昭和時代から令和時代”へのかけ橋となる、最先端ながら今すぐ使える現場改善策です。
金型寿命延伸=コストダウン=高品質安定供給という好循環を、ぜひ今こそ体感してください。

業界の地殻変動が起きている今、現場発の知恵と最新技術の融合で、強くしなやかなものづくり現場を実現しましょう。

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