投稿日:2025年8月29日

実験計画法を用いた条件最適化で歩留まりを上げ単価を下げる共同検証

はじめに:製造現場の「歩留まり」と「単価」の壁をどう超えるか

製造業に身を置く方であれば、「歩留まりを上げて単価を下げたい」と考えることは日常茶飯事です。
ところが、現場で向き合うと常に何重にも絡み合う課題があり、思い通りにいかない現実に直面します。
昭和から長く続くアナログな体質、経験則重視の職人技、そして膨大な手順や評価項目。
その一方で、グローバル競争が激化する現代ではスピードと論理性が問われています。

この記事では、現場経験豊富な元工場長&バイヤーの立場から、「共同検証」と「実験計画法(DOE)」を組み合わせ、どう歩留まり向上やコストダウンの効率化を実現するか、その実践的なアプローチを詳しく解説します。

なぜ今、「実験計画法」と「共同検証」なのか

ありふれた改善活動の限界

従来の製造現場では「一つずつ条件を変える」「勘と経験で調整する」といったやり方が主流でした。
この方法でも一定の成果は得られます。
しかし、多因子が絡む現場でこの進め方は膨大な時間と労力を費やします。
変数が増えるごとに実験の回数は爆発的に増加し、現場はすぐに「忙殺状態」です。

外部との共同検証がもたらす視点拡張

昨今、サプライヤーとバイヤーが垣根を越えて「共同検証」を行う例が増えています。
これまでの「丸投げ」「発注側優位」とは異なり、情報をオープンにし、共通目的に向けて最適な解を一緒に探る。
製造業の発展において、今やサプライヤーも製品価値の共創パートナーとなっています。
この共同検証に「実験計画法(DOE)」の論理性を組み合わせることで、かつてないスピードと精度で歩留まり向上・コスト低減を実現できます。

実験計画法(DOE)の基礎:なぜ「単なる勘と経験」でなく「DOE」なのか

実験計画法とは

実験計画法(Design of Experiments, DOE)は、一度に複数要素(因子)を系統的に変化させ、統計的に「どの要因が品質や歩留まりに影響を及ぼしているか」を効率よく明らかにする手法です。
古典的な一元変数法に比べて、圧倒的に少ない回数で、しかも要因間の相互作用(交互作用)まで把握できるのが特長です。

製造現場への適用メリット

・短期間で原因特定・最適条件設定ができる
・勘と経験だけに頼らないため再現性が高い
・客観的なデータに基づきバイヤーとも納得性ある議論ができる
・データは技術伝承や教育にも応用しやすい

現場で怒鳴り合うよりも、ロジックに基づく検証を一緒にやるほうが、組織も強くなります。

歩留まり向上&単価低減の方程式:実験計画法×共同検証の進め方

①ゴールの共有:お互いの立場を理解する

・バイヤー:調達価格や品質安定、納期厳守がKPI
・サプライヤー:生産効率や歩留まり、材料費、ロス削減が命題

まず「なぜ検証をやるのか」という意義と目的をすり合わせます。
たとえば「A工程不良5%→2%」「原価単価を10円減」など、具体的な数値KPIを決めておきましょう。
サプライヤー、バイヤー双方の事情・立場・価値観を理解するのが強力な推進力となります。

②因子選定と現状把握:知見の棚卸し

「どんな要素が歩留まりに影響を及ぼしているか」をざっくり洗い出します。
材料ロット、温度、湿度、ライン速度、作業者の技量、工程間の待ち時間。
現場の勘・経験と過去データが実験要因選びのヒントになります。
ときに「現場の勘違い」や「都市伝説」も混じっていますので、バイヤー/サプライヤー両者で合意形成しましょう。

③実験計画法の設計:最小限で最大効果

全因子を網羅する全数実験は時間・コスト的に不可能です。
そこで例えば「2水準3因子の直交表」など、DOEの設計手法を活用し、最小限の実験セットで十分な情報を引き出します。
目標は、「どの因子が効いていて、どこに最適動作点があるか」を“見える化”することです。
エクセルなどの表計算や専用ソフト(JMP、Minitab等)を駆使すれば、大がかりなIT投資も不要です。

④データ取得〜分析:現場巻き込み

計画表に沿って、現場と一緒に実験工程を回します。
現場担当者と同じ目線で段取りし、計測・分析可能なデータを揃えましょう。
分析では、単純なパラメーターの“線形効果”だけでなく「交互作用(A×Bの組合せが効く)」も見逃さないことが重要です。

⑤最適条件の導出と検証:本当に“再現”できるか

DOEの結果から最適条件が導かれても、「都度やり」で終わらせてはいけません。
試作や量産現場で「その通りに再現可能か」を再検証し、結果にばらつきが出ないプロセス安定性を確保します。
体系立てた検証フローをバイヤー/サプライヤーで共有し、後工程の問題や材料ロット差もあわせて評価しましょう。

アナログ業界でDOE・共同検証を根付かせるには

現場文化に合った「小さな一歩」から

いきなり全社的な大掛かりプロジェクトでなく、まずは1つのラインや工程からでも良いので実践を始めましょう。
既存手法+DOEを組み合わせて、「なぜ、どんな効果が出たか?」を現場で見える化します。
数字と現場体感をセットで伝えることで、昭和型の現場でも納得感を持って前向きに取り組めます。

経営層・企画部門も「一枚岩」に

トップや企画部門が「DOEは小難しい」と現場任せにせず、「現場のやりやすさ」を最優先にしたサポート体制を築きましょう。
例えば、現場リーダーへの教育・勉強会や、疑問点を迅速にフォローする旗振り役の配置が有効です。

バイヤーとサプライヤー共通の「成功体験」を積み上げる

共同で「成果(歩留まり向上・コスト低減)」を体感し、共有しましょう。
バイヤー型もサプライヤー型もWin-Winの関係になれたとき、現場は確実に進化します。

まとめ:新旧の知恵を融合し、製造業の新しい地平線を切り拓く

昭和時代からの現場力・職人技は日本製造業の誇るべき文化です。
一方で競争環境は激化し、論理的・統計的手法の活用が必須の時代になりました。
その懸け橋となるのが「実験計画法×共同検証」のアプローチです。

現場の泥臭さを知るプロ同士が、知恵とデータを持ち寄り、共通KPIを達成する――
これこそ現代日本のものづくりに必要な“新たな地平線”ではないでしょうか。

これを読んだ現場の皆様、購買・調達を目指す方、サプライヤーの皆様。
明日から、まずは自分の現場で「小さな実験」から始めてみませんか?
きっとそこには、今まで見えなかった“成果”の種が眠っています。

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