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非常用通信を整備したはずが機能しなかった事例の共通点

目次
はじめに:非常用通信の重要性と過去の失敗事例
非常用通信とは、日本全国の工場や事業所などにおいて、災害や事故、設備トラブルなどの“もしも”の時に通常の通信手段が機能しなくなった場合でも、現場同士・本社への報告や指令を滞りなく行うための体制やツールを指します。
実際には、大手企業でも「せっかく非常用通信を整備したのに、いざという時に機能しなかった」という事例が後を絶ちません。
この記事では、製造現場で20年以上働いた筆者の経験と業界で収集した知見をもとに、非常用通信がなぜ機能不全に陥るのか、その共通する要因と背景、そして根本的な解決策を現場目線で深堀りします。
昭和型のアナログ習慣が根強く残る製造業だからこそ陥りやすい落とし穴に焦点をあて、実践的なノウハウを共有します。
なぜ「非常用通信」は現場で機能しないのか?
非常用通信について多くの会社が「設備の整備」だけで安心してしまいます。
しかし現実には“いざ”という時に「使えなかった」「繋がらなかった」「操作できなかった」という声が多発します。
その根本にはどのような共通点があるのでしょうか。
1. 形式的な導入・訓練に留まっている
昭和時代からの「形だけ整えればよし」と考える風土が、危機管理でも根強く残っています。
例えば防災無線や衛星電話を工場に配備しても、年1回の訓練で“使ったふり”をして終わる。
日常で通信機器を実際に動かす経験がほとんど無く、操作を担当する人の属人化・高齢化も進みます。
機器の収納場所や利用手順がピンポイントで担当者の頭の中だけ…という「見えないブラックボックス」状態。
訓練の目的も「年度末に報告書を書く」ことがゴールになり、自発的な見直しや改善が生まれません。
2. 認識のズレと現場‐本社間の温度差
非常用通信をPOC(机上テスト)だけで“できたことにする”例が多々見られます。
本社主導でグループ会社全体に一括導入した際、「現場の配線事情」「電源の確保」「遮断されやすい構造」「建屋ごとの遮蔽状況」など固有条件を無視しがちです。
「工場内の金属壁で電波が届かない」「本番の停電でUPS(無停電電源)が不足し落ちた」「バッテリーが経年劣化して稼働せず」など、現場ならではの課題を見逃します。
また、「製造ライン再稼働を優先せよ」というトップダウンや使命感も裏目に出て、機能の確認やメンテナンスがおろそかになります。
3. ヒューマンエラーと情報伝達の断絶
アナログ現場では“いつものやり方”に頼りがちです。
実際の災害時には「担当者が不在だった」「マニュアルが紙でしかなく取りに行けなかった」「泣きながら電話をかけたが相手が出なかった」など、ヒューマンエラーや隘路が多発します。
とくに若手とベテラン間で情報の共有が進まず「俺が昔からやってるから大丈夫」とノウハウが属人化し世代間での断絶が起きやすいです。
業界に共通する“機能不全”の背景と昭和的メンタリティ
アナログ体質からの脱却が進まない理由
多くの製造業にいまだ残る「前例踏襲主義」「責任逃れ」「お上(本社や行政)依存」などの昭和的メンタリティが非常用通信にも色濃く影響しています。
ベテラン管理職からは「昔の有線電話の方が確実だった」「備えよりも現場力」といった声が根強い反面、デジタル化について現場での教育や浸透が追いついていません。
また、現場の人手不足・高齢化・多忙化もあり、平時からのメンテナンスや非常時の模擬訓練が「後回し」にされる風土です。
指示命令系統も縦割りのため、現場間での横断的な情報共有や相互バックアップ体制が弱く、何かあった時に「誰が何をするか」が曖昧になりやすいのです。
現場目線で見る、よくある非常用通信トラブルの実例
例1:配備されていた衛星電話が老朽化でバッテリー切れ
数年おきにしか検査されず、いざという時に電源が入らない。
共通点:定期的な動作チェックとバッテリー交換・充電ルーチンがなかった。
例2:DTMF無線機を誰も使えなかった
導入時の担当者が異動・退職し、使い方マニュアルも見当たらない。
共通点:操作ノウハウや手順の定期共有・マニュアルの電子化などが未実施。
例3:非常時、携帯電話が圏外・内線もダウン
災害時の回線混雑や停電でインフラが麻痺、自社のPHSやWi-Fiにも頼れず。
共通点:想定シナリオが甘く、多重防御が未整備。電源対策・バックアップも不十分。
例4:連絡系統の複雑化で伝達に数時間
「まず報告会議→決裁ルート→許可が下りてから現場へ」のルールに従い、初動が遅延。
共通点:現場主導で動ける裁量の明示と、短縮化されたフロー設計がなされていない。
なぜ“現場に寄り添った設計”ができないのか?
非常用通信が機能しない現場には、“本社主導・システム優先”の傾向があります。
導入時に「安価な調達」や「カタログスペック重視」で、現場ニーズや特殊構造、レイアウト変化等を無視しているパターンが多いです。
現場の声を吸い上げず、当事者意識も低下しがち。
業者任せ・IT部門任せにしてしまい、「そこにあるだけ」「使えるはず」という思い込みで過ごしてしまう…。
これではいざという時、想定外の事態に手も足も出ません。
また、派遣社員や期間工など非正規メンバーへの周知・教育はどうしても後回しになり、全員が使える状態になっていないことも頻発します。
業界全体で取り組むべき“抜本対策”
1. 通信手段の多重化・見える化と定期メンテ
【アナログ+デジタル+人的連絡】の多重化が絶対条件です。
衛星電話・携帯・固定電話・無線・インターネット・メッセンジャーアプリ等、複数手段を用意すると同時に“現場で誰が何を、どう扱うのか”が一目で分かる見える化ボードやワークフローを整えましょう。
定期メンテ・模擬訓練の計画的な実施、管理台帳で履歴を残すことも大切です。
2. 働く全員が“使える”レベルの教育・マニュアル整備
紙のマニュアル一辺倒ではなく、動画マニュアル・オンラインOJT・分かりやすいフローチャート等を全員に展開しましょう。
「新人教育」の一貫に組み込み、“誰でも使える”レベルに落とし込むことが大事です。
また、日々の朝礼や定例ミーティングで定期的に“伝承”する仕組みも有効です。
3. 本番を想定した訓練&フィードバックサイクル
「年1回」ではなく、各現場で決まった頻度で突然訓練を実施したり“現場のミス”が起きても責めない雰囲気で意見や気づきを出し合える風土を醸成します。
「失敗のシェア」「改善案のブレスト」も組織風土づくりに欠かせません。
4. サプライヤーとの正直な情報開示・期待のすり合わせ
バイヤー(購買担当)も、サプライヤーに対して「ただ安さ優先」「実績だけで選ぶ」ではなく、「非常時のサポート可否」「メンテナンス体制の実際」「使いやすさ」まで真摯にディスカッションしましょう。
また、現場に実際に使わせて隠れた“使いにくさ”や、トラブル想定を率直に伝えられる関係性も構築しておくと良いです。
まとめ:現場と経営層の意識改革がカギ
非常用通信は、モノを買い揃えれば安心…というものではありません。
そこには、現場目線でのリアリティと、昭和型の“つもり管理”や“お上依存”からの脱却が不可欠です。
通信設備そのものの複線化やメンテナンスだけでなく、現場一人ひとりの当事者意識と教育・仕組みの見直しが本当の危機管理力を生み出します。
これからバイヤーを目指す方にも、現場と経営を“繋ぐ”視点を大切にしていただきたい。
サプライヤーにも、現場で“本当に必要とされる”サービスやサポートの価値を意識してもらいたい。
大きな災害やトラブルが起きてから初めて気づく前に、現場の実践知を活かした地に足のついた変革に取り組んでいきましょう。