投稿日:2025年11月6日

靴のミッドソールに使われるPUとEVAの物性比較と耐久試験

はじめに:靴のミッドソールとその重要性

靴のミッドソールは、快適な履き心地や足への衝撃緩和、さらには歩行や走行の安定性にも大きな影響を与えるパーツです。

特に運動靴や作業用シューズなど、機能性が重視される場面ではミッドソールの素材選びが製品価値を左右します。

その主流となる素材が「ポリウレタン(PU)」と「エチレン酢酸ビニル(EVA)」です。

しかし、「結局どちらが良いのか?」「違いは具体的にどうなのか?」と現場で悩む方や調査依頼を受けるバイヤーも少なくありません。

この記事では、長年の現場経験を基に、PUとEVAの物性を徹底比較し、耐久試験の知見や革新が遅れる日本のアナログ実情を交えながら解説します。

サプライヤー側からバイヤーの視点を知りたい方や、製造現場で選定に迷っている方にも有益な内容を目指します。

靴のミッドソールに使われるPUとEVAとは

PU(ポリウレタン)とは

ポリウレタンは、イソシアネートとポリオールを主成分とする合成樹脂です。

柔軟性・弾力性・耐摩耗性に優れ、加えて加工性が高いことから、靴底以外にも家具や自動車シート、工業部材に幅広く使用されています。

柔らかいながらも、しっかりとした反発性と耐久性を兼ね備えている点が特徴です。

靴のミッドソールに使用する場合、長時間履いてもへたりにくく、本格的なスポーツや長距離歩行に好まれます。

EVA(エチレン酢酸ビニル)とは

一方、EVAはエチレンと酢酸ビニルから合成される樹脂で、軽量で柔らかく、クッション性が高いことが特徴です。

EVA自体は発泡体(フォーム)として使われることが多く、加工コストが比較的安価なこと、自由な形に加工しやすいことから、ランニングシューズをはじめ幅広い製品で採用されています。

また水分や湿気への耐性もPUより高く、浴室サンダルやマリンシューズなど水回りの用途にも使われています。

PUとEVAの物性比較:現場目線で徹底解説

ここからは、製造現場で重視される物性を、具体的な数値・評価軸とともに比較していきます。

1. 軽量性

– EVAの勝ち

EVAはとにかく軽いです。

同体積ならPU比で約10~20%は軽く作ることが可能です。

スニーカーやランニングシューズで圧倒的にEVAが使われる理由のひとつです。

近年、軽量化ニーズが高まる日本市場では、EVAの採用率が右肩上がりとなっています。

とはいえ、軽量すぎると「踏み心地が頼りない」「耐久性が劣る」といった不満も出やすいため、最終用途や求める機能性と合わせて検討する必要があります。

2. クッション性・反発弾性

– PUの勝ち

PUは分子構造上、高い弾力性を持ちます。

JIS規格などでも「反発弾性試験」(A法またはB法)が設定されていますが、EVAに対しPUは同じ荷重でも復元時に元形状へ戻そうとする力が強いです。

着地時の衝撃吸収性・反発力を求める場合はPUが一歩リードします。

疲労度が小さく、バスケットボールやトレーニング用シューズなどには今もPUが選ばれる理由となっています。

3. 耐久性・へたりにくさ

– PUの勝ち

EVAは長期間圧縮し続けると変形したまま戻りにくく、いわゆる「へたり」が発生しやすいです。

一方でPUは、同程度の連続圧縮下でも形状とクッション性をある程度維持します。

例えば、スポーツブランド製シューズの「耐久走行試験」でも、EVA素材ミッドソールは最長で約半年、PUは1年以上性能維持可能、とされる試験結果が多いです。

このため、立ち仕事向けやプロスポーツ向けではPU優位の傾向が根づいています。

4. 耐加水分解・耐薬品性

– EVAの勝ち

PU最大の弱点は「加水分解」による劣化です。

湿気や水分に長期間晒されると、ウレタン結合が切断され表面がべたつく・ボロボロになる現象です。

一方、EVAは構造的に加水分解の影響をほとんど受けません。

汗や雨、洗剤など液体に触れる機会の多い現場用シューズ、サンダルではEVAが定番となっています。

5. 曲げ・引張強度

– PUの勝ち

JIS試験(夢中で繰り返し傾斜させるフレックス試験)でも、PUの方が亀裂発生までに要する回数が多くなります。

柔らかく弾力のあるPUは、折り曲げたり捻ったりする力に対しても破壊されにくいのが強みです。

EVAは粘弾性の少なさから割れやすさ・裂けやすさがあらわになります。

6. 加工のしやすさとコスト

– EVAの勝ち

発泡倍率や金型成形の自由度はPUよりEVAの方が高いです。

設備投資や材料コストも低いため、量産品や低価格帯に有利です。

昭和から抜け出せない国内の多くの中小工場では、簡単に「EVA成形機」に設備転用できるので、コスト競争が激しくなる実情も根強く存在します。

耐久試験の現場:昭和的手法からデジタル化の波へ

現場で行われる主な耐久試験

1. 圧縮残留歪(JIS K 6400-4)
2. 反発弾性試験(JIS K 6301)
3. 耐加水分解試験(加湿・恒温槽への長期保管)
4. 摩耗試験(DIN摩耗やTABER摩耗機など)

特に「圧縮残留歪」は、靴のへたり・クッション寿命の定量化には必須で、JISにも明記されています。

しかし、中小工場では今も「現場感覚」が重視され、試験機による定量データより「踏んでみて違和感がないか」という昭和的手法が根強く残っています。

合理化・自働化の導入が遅れている日本の製造業界では、この“職人の経験値”がバイヤーと技術者の意思疎通を難しくしている現状も否めません。

DX・ラテラルシンキングで新たな地平線を

近年は、IoT対応の試験機器やAI判定ソフトが登場し、物性/耐久評価がより客観的に行える時代になっています。

例えば、「歩行試験機」と「圧縮荷重センサー」を組み合わせ、1万回歩行シミュレーション後のミッドソール反発係数を自動測定する、といった新しい評価法も登場しています。

製品データの客観性・再現性が高まれば、高齢職人に頼らざるを得ないアナログ現場でも世界品質の素材選定やバイヤーとの信頼構築がしやすくなります。

現場感覚とテクノロジーを融合させる「水平思考(ラテラルシンキング)」が、今後の製造業DXの鍵となるでしょう。

まとめと選定の現場的アドバイス

PUとEVA、それぞれに明確な特徴と長所があります。

– 長期間、クッション性・耐久性が必要ならPU
– 軽量・安価・大量生産ならEVA
– 湿気や水濡れ環境、低価格市場ならEVA
– 静音性や優れた踏み心地、反発性はPU
– 多品種小ロットや高度なデザイン性を要する場合もEVA優位

現場での選定には、「どの試験値をどこまで重要視するか」をバイヤーとサプライヤーで認識合わせすることが、失敗しないポイントです。

また、海外規格(ENやASTM)も加味したグローバルな比較軸が重要性を増しています。

昭和的な現場感覚も否定しきれませんが、「試験データ+技術者の知見+市場の声」を横断的に組み合わせるDX型選定プロセスが未来には欠かせません。

今後も技術革新が続くミッドソール業界ですが、現場の声を拾い上げる「水平思考」の姿勢が、市場での勝敗を分ける分水嶺となるでしょう。

おわりに:現場目線の製造業イノベーションを目指して

日本の製造業は、現場の職人技や経験に根ざしながら、新しい技術を柔軟に取り入れることで再成長の道を歩めるはずです。

バイヤー、サプライヤー、生産現場、それぞれの「現場感覚」をリスペクトしつつ、最新のデータ化やグローバル基準への対応を進めれば、「昭和的感覚」と「最先端技術」を共存させることも不可能ではありません。

靴のミッドソールにおけるPUとEVA選定の現場から、これからの製造業バリューチェーン全体を考えてみませんか。

もしご質問や現場課題のご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。

製造業のみなさまのさらなる飛躍を、現場経験者の立場から応援しています。

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