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クレーム対応が“犯人探し”になってしまう悪循環

目次
はじめに:なぜクレーム対応が“犯人探し”になってしまうのか
製造業の現場で、最も避けたいのはクレームの発生です。
それでも、どれだけ厳重な管理をしていても、人が関わる以上ミスやトラブルは避けきれません。
しかし、問題はクレーム“そのもの”ではなく、その後の対応です。
多くの現場で見られるのは、クレームが発生すると「誰が悪いのか」を探し始めてしまう“犯人探し”の悪循環です。
これは熟練の現場であっても、時には大企業の組織であっても起こり得ます。
この記事では、なぜ問題解決よりも“犯人探し”が先行してしまうのか、その背景・弊害・そして現場発の抜本的な改善策を考察します。
昭和の時代から続くアナログな企業文化と、改善のヒントも含めて深掘りしていきます。
現場で起きる“犯人探し”の構図とその根本原因
責任の所在を曖昧にしたまま、保身に走る現場
クレーム発生時、「まず状況を正確に把握し、全体を俯瞰して原因を探ろう」とする前に、「誰が悪いのか?」という声が現場を駆け巡ることは多々あります。
これは担当者が「自分は悪くない」と証明したい心理や、上司への報告を少しでも有利にしたいといった保身意識から派生します。
さらに、製造現場の“申し送り文化”や“現場主義”が「担当者の個人的責任」に話が落ち込む風潮に拍車をかけます。
昭和から変わらぬヒューマンエラーの“個人説”
多くの現場、とりわけ昭和から続く企業では「ヒューマンエラー=担当個人の注意不足」と考えることが少なくありません。
ヒューマンエラーの根本にある構造的な問題(工程の見直し、フローの複雑さ、人的リソースの不足、多重チェックの形骸化など)を深掘りする文化が醸成されてこなかったのです。
これが、問題解決よりも“犯人探し”へと現場のベクトルが向いてしまう大きな要因です。
報連相の形骸化と縦割り組織による情報分断
「報告・連絡・相談(報連相)」という言葉は広く知られています。
しかし、その運用がマニュアル化・形骸化し、縦割り組織の中で「上司への義務的な報告」や「エビデンス確保のための通知」だけが先行。
本来の“全体最適”や“水平展開”による再発防止活動が疎かになる温床となっています。
これもクレーム対応が現場個人の責任問題にさせられがちな理由の一つです。
“犯人探し”がもたらす組織への深刻な害
萎縮と自己保身がチーム力を破壊する
“犯人探し”が常態化すると、現場の空気は萎縮し、社員は自己保身に走ります。
「自分のミスを隠したい」「できるだけ関わりたくない」という心理が働き、真の原因をオープンに議論できなくなります。
これが後々の更なるクレームや事故につながり、悪循環を生み出します。
エスカレーションの遅延と情報共有不足
「怒られるのが怖い」「自分のせいにされるのを回避したい」といった空気が蔓延すれば、初期対応が遅れます。
問題の所在や原因が小さいうちに手を打てず、被害が大きくなってから上層部に報告が上がるため、後手後手の対応になりがちです。
また、関係部署との“水平展開”も徹底されず、同じ過ちが別のラインや他部署で繰り返されることも珍しくありません。
現場力の低下と離職者増加
やりがいやチームワークが損なわれることで、優秀な人材ほど離れていきます。
“犯人探し”文化が長く続く企業ほど、現場のモチベーションが低下し生産性も右肩下がりになっていく傾向が見られます。
なぜ“犯人探し”を脱却できないのか?―昭和的企業文化の呪縛
「強いリーダーシップ」幻想の危うさ
日本の製造業が高度成長期を支えた時代、現場の責任者や工場長などには“強いリーダーシップ”と“厳罰主義”が美徳とされてきました。
不良品が発生すれば叱責、“現場の声”をトップダウンで一蹴する。
このような古き良き(?)指導スタイルが、今なお残り続けています。
その結果、ミスはいち早く“悪者”に帰属され、「改善・共助・再発防止」のサイクルが形骸化してしまうのです。
マニュアル過信と現場の主体性喪失
「マニュアルに従っていなかったから」「標準手順を守らなかったから」という発想も、個人責任に寄りがちです。
しかし実際は、「作業手順自体が時代遅れ」「現場の状況変化を反映できていない」というケースも珍しくありません。
現場からの自主的な声出し・ルール改善への参加を促し、“人のせい”から“仕組みのせい”に視点を変えるべき時期にきています。
“犯人探し”を越える、現場力を高めるクレーム対応の本質
1. 問題は“個人”ではなく“プロセス”の中にある
トヨタの“なぜなぜ分析”に代表されるように、「なぜ?」を5回繰り返すことで、問題の本当の根本を突き止める手法があります。
この際、「なぜこの人はミスをしたのか?」からさらに「なぜそういう状況が生まれたのか?」「なぜそのルールになっていたのか?」と掘り下げる視点が欠かせません。
現場全体で「ウチのやり方」「現場のクセ」「目先の効率最優先の悪い習慣」などもオープンに議論できる風土づくりが肝要です。
2. “オープンマインド”と“対話”の重要性
「安心して失敗やミスを話せる空気」がなければ、現場から真の情報は上がってきません。
これには現場リーダー層の姿勢が決定的に重要です。
ミスを糾弾せず、「良い学び」「次に活かす材料」としてみんなで共有する。
メーカーの現場では、朝礼や小集団活動などを通じて“対話”を増やすことから始めましょう。
3. “水平展開”と“現場起点の改善提案”を積極可視化
ある現場のミスが、他の現場で“再発”しないよう、横断的な「ナレッジ共有」や「仕組みの移植」を仕掛けましょう。
クレーム事例のベストプラクティスや反省ポイント、工夫例などをデータベース化し、現場どうしの“情報交換会”を定期的に設けるのも有効です。
4. IT・自動化ツールの徹底活用でアナログ脱却
昭和スタイルの“口頭伝達”や“紙帳票”では、人間の思い込みや遠慮による記載漏れ・改ざんも起きがちです。
ICT(情報通信技術)やIoT(センサー自動記録)、クラウド共有などを導入し、「データ根拠で語れる現場」へ進化させましょう。
ただし、ただの“デジタル化”ではなく、「人が納得できる現場力」と「実情報に基づくオープンな文化」を両輪で回す視点が重要です。
調達・バイヤー目線でみる、クレーム対応と“信頼構築”
サプライヤーの立場では、「納入先で不具合が起きた際、どうクレームを受け止め、謝罪・対策・報告をするか」は取引継続の生命線です。
バイヤー側は「犯人を探し出して罰したい」わけではなく、「本当に再発しない体制になっているか」を重視します。
担当者個人への謝罪姿勢以上に、組織力での再発防止(フロー改善・現場教育・IT導入等)を示すことが、真の信頼回復段のポイントです。
一方、信頼の厚いサプライヤーほど、「“報告書を出せ”と言われる前に、先んじて事実・原因・対策を報告」「あえて自社の弱点・課題も開示し、改善計画までセットで提案」しています。
これは“犯人探し”体質の温床から一歩抜け出したサプライヤーの証と言えます。
まとめ:時代遅れの“犯人探し”を超えて、現場主導でクレームを“財産”にする視点
クレーム対応で“犯人探し”に陥る現場には、昭和流の厳罰・個人責任・縦割り意識といった根深い文化が影響しています。
しかし今、求められるのは「犯人追及」ではなく「全体最適な再発防止」と「信頼回復力」です。
“クレーム=会社・現場を進化させる成長材料”と捉え、「全員で問題・原因を開示し、ITや現場改善で同じ過ちを繰り返さない」新・現場力を育むべきでしょう。
読者のみなさまの職場でも、明日から“犯人探し”をやめ、「なぜ?」「どうしたらを再発しない?」を本気で議論する土壌づくりにチャレンジしてください。
製造業の長寿経営・競争力の源は、個人責任追及でもなく、マニュアル万能論でもありません。
肉声で話し合い、時代に合った仕組みと人づくりに取り組む「現場力の進化」こそが、“クレーム”すら価値の種に変えられる唯一の鍵なのです。