投稿日:2025年8月29日

保税転送とミルクランを組み合わせて寄港回数を減らす集約出荷戦略

はじめに:現代製造業の物流課題を問い直す

グローバルなサプライチェーンがますます複雑化する中、製造業の現場は今、大きな転換期を迎えています。
原材料や部品調達の多様化、短納期対応、コスト競争の激化、サステナビリティへの配慮——こうした課題の中でも、物流効率化は経営の最重要テーマとなっています。

この記事では、アナログ文化が根強く残る製造業において、保税転送とミルクランという2つの手法を組み合わせた集約出荷戦略について、現場目線で徹底解説します。
物流現場の現実や、バイヤー・サプライヤー両方の心理も織り交ぜつつ、寄港回数を減らす現実的かつ革新的な打ち手を考えていきます。

保税転送とは‐縛りが生む「自由」な物流設計

保税転送とは、まだ輸入通関が完了していない貨物を、港湾や空港内の保税地域から、別の保税地域(例えば工場、倉庫など)に転送できる制度です。
これにより通関や関税納付を後回しにできるだけでなく、国内各所に点在する生産拠点や倉庫への「集約物流」が可能になります。

例えば、複数サプライヤーから部材を海外調達し、一旦港の保税倉庫にストック。
そこから必要なタイミング・量だけを各拠点に転送できるため、在庫の過不足やリードタイムずれのリスクが大幅に減ります。
逆に、消極的なアプローチでは、入港ごとに都度通関・配送が必要となり、寄港回数もコストも跳ね上がってしまいます。

なぜ今、保税転送なのか

従来の物流モデルでは、サプライヤーごと・案件ごとに港でデバンニング→即通関→個別配送、という流れが標準でした。
しかし近年、調達先の多様化・リードタイム短縮の潮流から、
「まとめて港に入れて、タイミングや物量に合わせて小分け出荷したい」
「入港のたびにメーカー担当者が都度立ち会うのが非効率なので効率化したい」
というニーズが急増。
特にアナログ色の強い製造業界でも、保税転送による柔軟な物流設計が急激に普及しつつあります。

ミルクラン方式‐アナログな職人技から生まれる物流の知恵

ミルクランとは、複数のサプライヤー(あるいは工場・拠点)を定期的に巡回し、材料や製品をまとめて集荷する方式です。
もともとは酪農地帯で牛乳集荷に使われていた方法ですが、多品種少量化が叫ばれる現代の製造業物流にピッタリはまります。

【具体的な流れ】
1. 事業者(バイヤー)が複数サプライヤーにピックアップルート・スケジュールを共有
2. 決められたコース・タイミングで集配車両が巡回し、各サプライヤーで指定数量を集荷
3. 各地で集荷した貨物は集約拠点で一括処理→輸送、あるいは保税倉庫に集約

なぜ「寄港回数削減」のカギなのか?

通常、バイヤー(メーカー)はサプライヤーごと・調達案件ごとに個別のピックアップ手配が必要になり、それぞれが寄港や集荷を手配せねばなりません。
これは「物流車両が毎回ムダに出入りし、空荷も多い」という構造的な非効率をもたらします。
ミルクランでは、1台のトラックが複数サプライヤーを効率よく回ることで、寄港回数=物流コスト=CO2排出の大幅削減につながるのです。

保税転送×ミルクラン:集約出荷戦略の全体像

ここからが本題です。
アナログな業界でこそ力を発揮する、「保税転送+ミルクランを組み合わせた集約出荷戦略」とはどういうものか、その全体像を解説します。

1. サプライヤー分散・納期分散への対応

これまで日本の製造業は、「納期遵守」や「届け先単位で都度配送」という文化を大切にしすぎて、逆に非効率を生んできました。
しかし保税転送を使えば、「一度まとめて受け入れ、港でストック」「各納期・事業所の都合に合わせて小分け出荷」ができる。
ここにミルクランの巡回集荷を掛け合わせれば、さらに集約度がアップ。
すなわち、「誰の、どこ向けの商品を、いつまとめて・いつ分けて出すか」——を、現場主導で自在に設計できます。

2. 寄港回数・輸送コスト・搬入コストの削減効果

複数のサプライヤーが個別に港に入港していた従来方式では、各サプライヤーごとにトラックやコンテナが北海道・九州・中部など様々な港を往来。
寄港回数が多いほど、入出港の手続き、現場立ち会い、搬入コストが増大します。
保税転送による集約+ミルクランにより「一発でまとめて集荷し、まとめて転送、一気に通関&搬入」が可能。
事業所・生産ラインごとに小分け配送する際も、同一地区着ならラストワンマイルを一括配送できるため、大幅な効率化とコスト削減が実現できます。

3. バイヤーとサプライヤー、それぞれの狙いと心理

バイヤー(調達部門)から見れば、「物流手配の簡素化=現場対応のスムーズさ」「在庫リスクの適正コントロール」が最大のメリットです。
また、各納入サプライヤーとの調整や個別手続きが減り、本業である生産計画や原価低減に専念できます。

一方でサプライヤー側も、「何度も現地納品に走る負担軽減」「輸送や梱包の集約によるコスト低減」「物流の標準化・安定受注による成長」が見込めます。

アナログ色の強い業界では心配事も多いでしょうが、このモデルは双方にとってWIn-Winとなりやすい現実解なのです。

現場の抵抗と課題‐ラテラルシンキングでの切り崩し方

もっとも、いきなりすべての現場がこの「集約型システム」に飛びつくわけではありません。
昭和マインドの根付く工場では、「目の前で目利きして検品」「全量自社で管理したい」など、理屈以上の安心感を重視する傾向も強いです。

こうした組織文化を変えていくには、「ラテラルシンキング」で既成概念を壊す突破口が必要です。

事例:保税転送・ミルクランを活用した改革の現場

例えば属人化していた物流業務を、一企業で完結させるのではなく、複数社(共同物流)で保税転送・ミルクラン化。
月三回の入港スケジュールを月一回に集約し、バイヤー立ち会いも都度→まとめて1回にすることにより年間500万円のコスト減につなげた事例があります。
現場の反発として「検査タイミングがズレてニーズ見逃しが増えるのでは?」という声もありましたが、保税倉庫で一時検品対応を入れることで解消。

本質は「手間はアウトソースし、品質や計画部分は自社が主導権を持つ」体制への転換にあります。
関係者の役割分担を明確にし、現場の心理的不安を掘り下げて可視化することが大きなポイントです。

まとめ:製造業の未来を変える物流イノベーション

結論として、保税転送とミルクランを組み合わせた集約出荷戦略は、
– サプライチェーンの最適化
– 輸送コストと寄港回数の劇的削減
– バイヤー・サプライヤー双方の手間とリスク軽減
– サステナビリティ・働き方改革への貢献
といった多重のメリットをもたらすソリューションです。

特に昭和期から根付く「現物重視」「安心感重視」の現場にも、ラテラルな発想転換と細やかな現場調整を組み合わせれば、十分現実解として定着するポテンシャルがあります。

今後、複雑化する調達現場で「どうやって寄港回数を減らし、真の効率化を図れるか」は、製造業全体の生命線です。
現場の皆さま、バイヤー志望の方、サプライヤーの皆さま、本記事が自社現場の変革に向けたヒントとなれば幸いです。

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