投稿日:2025年6月16日

油圧機器トラブル防止のためのコンタミネーション防止策およびコントロール法

はじめに:油圧機器とコンタミネーションの本質

油圧機器は、工場の自動化や生産効率向上の要となる設備です。
そして、この油圧システムを安全かつ長期間に渡り稼働させるためには「コンタミネーション(汚染)」対策が不可欠となります。

コンタミネーションとは、主に異物や不純物が混入することで油圧機器の性能を損ねたり、部品寿命を著しく短くする重大な問題です。
現場では、10ミクロン以下の粒子でも摩耗や作動不良を引き起こすリスクがあります。

しかし、現状多くの製造現場では「今までも問題なく運用できている」という昭和的価値観が根強く残っています。
目に見えにくい“汚染”こそが、知らず知らずのうちに生産ラインのボトルネックやコスト増を引き起こす真因となっているのです。

本記事では、油圧機器の信頼性を最大化し、潜在的な損失リスクから守るための「コンタミネーション防止策およびコントロール法」を、実践的な視点で徹底的に解説します。

なぜコンタミネーション対策が重要なのか

サイクルタイムとトータルコストの観点から

油圧機器は、過酷な環境下でも高出力・高精度な作動が要求されます。
しかし、作動油内に微細なゴミや水分が混入すると、流路の詰まり・アクチュエーターの摩耗・バルブのスティッキング(動作不良)・シール損傷など深刻なトラブルを多発させます。
結果として、

– 予防保全や修理によるダウンタイム増加
– 製品不良の発生
– 部品交換・作業工数・油代の増加
– 重大事故に発展するリスク(火災・油漏れ・圧力破断)

など、直接・間接の「隠れたコスト」を膨らませてしまいます。

サプライヤーやバイヤーの立場でも、納入後すぐの故障や保証修理の頻発は企業ブランドの価値を損ない、信頼関係悪化にもつながりかねません。

SDGsやカーボンニュートラルの時代背景

環境意識やSDGsへの取り組みが叫ばれる現代、石油系資源の節約や環境負荷の低減は企業活動の大きなテーマです。
油圧システムの寿命を引き伸ばすためにも、コンタミ対策は企業の社会的責任として避けて通れません。

コンタミネーションの主な発生源

現場で実際に起きているリアルな発生要因

1. 組立工程での混入:
部品自体の微粒子(切粉、バリ)、組立時の布片や工具カスなどが作動油に入りこむ
2. オイルの補充・交換時:
タンク開封時の外気中ダスト、注油口からの埃・砂混入、スタッフ手や注油ジョウロ、ろ過不十分な補給油が汚染源となりがち
3. 設備稼働中の経年劣化:
シール・パッキンなどの摩耗粉、内部金属の摩擦片、酸化物、ラジエターからの水分混入
4. 配管・ホースの劣化:
輸送中のサビ、施行現場での異物置き忘れ、加圧脱着時のスラッジ

このように発生源は多岐に渡ります。
特に「人的作業の変動」や「古い慣習に基づく運用のまま」など、アナログな油断が現場にリスクを招いているケースが非常に多く見受けられます。

すぐ現場で実践できるコンタミ対策

1. 清浄な油の維持=徹底したフィルター管理

– 装置本体や補給ラインに必ず高精度フィルタを設置しましょう。
– メーカー推奨のμmグレード(10μm以下、可能なら5μmクラス)をチョイス。
– フィルターの交換は「定期」ではなく「圧力差モニターでの状態管理」が鉄則です。
– 重要設備はオイル交換前後でオイルサンプルを採取し、汚染度数をチェックしましょう。
– 補給油は、納入時から綺麗な缶を使い、開封後は極力早く使い切ること。

2. 作業環境・工程の工夫で混入を予防

– オープンタンク・配管の開口部は稼働時以外は確実にカバーする
– 油の補給や交換作業は、清潔な専用エリアで、作業服・手袋も綺麗な状態で行う
– 補給用タンクやじょうご、携帯用容器は「油種ごとに分ける」「毎回清掃」を徹底
– 作業後は周辺の床や部品も拭き掃除で清潔を保つ
– 水分混入を減らすため、極力屋外での作業は避ける

3. 設備寿命を延ばすための「リアルタイム診断」

– 「現場では何か異常が出るまで放置」という昭和型運用は、長期的にはコスト増大に直結します。
– 最近では、オンラインパーティクルカウンター(油中固形粒子測定器)を現場導入し、常時監視する先端工場が増えています。
– 設定値を超えた場合は、即座に油交換や装置停止など、予兆保全につなげましょう。

サプライヤーとバイヤーの視点から見たコンタミ対策

工場バイヤーの本音:QCDの見えざる“Q”に注目

工場のバイヤーは、今や“コストだけ”の選定基準ではありません。
納入部品の品質(Q:Quality)、コスト(C:Cost)、納期(D:Delivery)を軸としつつ、「クリーン度」まで踏み込む時代がきています。

部品メーカーの中には「ISO4406」など国際基準に基づく汚染度管理を徹底し、作動油の初期クリーンネスを証明書として添付する企業も増えています。
こうした書類の有無や現場改善の姿勢が、次回の指名発注に直結するほど、バイヤーは目利き力を研ぎ澄ましています。

サプライヤーなら:自社部品選定の新たな競争力に

もしあなたがサプライヤーであれば、自社構内での最終洗浄・検査体制、納入時の異物管理、現地据付サポート時のケアまで、工夫やノウハウを積極的にPRすべきです。
現場を知るバイヤーほど、地味ながら“本物志向”のパートナーを高く評価する傾向があります。

今後の潮流:IoT・自動化現場におけるコンタミ対策

AI・ビッグデータ活用で進む予兆保全

現代のスマートファクトリー(DX)では、油圧システムのパラメーター(流量、圧力、油温、汚染度など)をIoTセンサーでリアルタイム収集・解析する動きが加速しています。
予防保全は“人の経験値”から“データドリブン”へシフトしています。

– クラウド連携による油圧機器の稼働状況・コンタミ推移の自動分析
– AIチャットボットによるトラブル原因の特定支援
– デバイス交換時期の自動アラート通知

こうした仕組みを、メーカー・工場現場・メンテナンス会社が連携しながら活用することで、無駄なダウンタイムや資材ロスを最小化できるようになります。

まとめ:コンタミ対策は“地味”だが最大の企業防衛策

現場で油圧設備が止まってから対応では遅すぎます。
今問題が表面化していなくとも、「有事を未然に防ぐ視点」「正しいモノ選びと持続的な管理」が、本質的なコスト競争力や信頼性向上につながります。

昭和の感覚を引きずった「経験と勘に頼るアナログ管理」から、「データと科学的根拠に基づいたアップデート型オペレーション」に舵を切ることが、工場ならびに関連パートナーすべての価値を大きく高めるのです。

コンタミネーション対策は“余計な手間ではなく”会社と現場を守る最前線の知恵です。
工場勤務の方も、将来バイヤーを目指す方も、部品メーカー・サプライヤーの方も、今日ここから「意識的なコンタミ対策」に一歩踏み出しましょう。

油圧機器の健全な活用は、必ずや日本ものづくりの未来を明るく照らすはずです。

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