投稿日:2025年9月5日

サーチャージ予算管理で年度のフレート変動を吸収する契約設計

サーチャージ予算管理で年度のフレート変動を吸収する契約設計

はじめに:製造業をとりまくサーチャージ問題の本質

製造業に長年従事していると、調達コストの多くを輸送費が占めていることがよく分かります。
特に近年は、世界的な原油価格の変動や需給ひっ迫、地域的な紛争、不安定な国際経済情勢が複雑に絡み合い、物流コスト、すなわちフレートコストの調整が一層難しくなっています。

この「サーチャージ(割増料金)」は、輸入原材料・部品だけでなく、国内外のサプライチェーン全体に対して無視できないインパクトを持っています。
バイヤー、調達・購買担当としては、決して避けて通れない管理項目です。

本記事では、サーチャージを柔軟・戦略的に管理するための契約設計と予算管理手法について、現場目線の工夫や、日本特有のアナログ体質にも触れながら解説していきます。
さらにサプライヤーの立場からもバイヤーが何を重視しているのかを解き明かします。

サーチャージとは何か?三重苦を生むサーチャージの正体

サーチャージとは、燃料費や原材料コストの急激な変動を補うために徴収される「追加料金」を指します。
航空輸送なら「燃油サーチャージ」、海上輸送なら「Bunker Adjustment Factor(BAF)」、陸上では「燃料費調整金」と呼ばれることもあります。

このサーチャージが製造業に与える影響は大きく分けて三重苦となっています。

1. 原価計算の不確実性拡大
2. 顧客への転嫁難易度上昇
3. サプライヤーとの長期安定調達契約の難化

昭和の時代から続く「年間固定単価契約」を維持したい日本企業が多いなか、サーチャージだけは毎月、あるいは四半期ごとに改訂されるため、現場に大きなストレスを与えています。

なぜサーチャージ管理が難しいのか

まず、以下の業界的な背景を理解する必要があります。

・国際フレート市場は「スポット」と「定期」のハイブリッド
・一部大手荷主以外にはフレートの交渉余地は乏しい
・契約条項(インコタームズや運送責任区分)との連動が複雑

たとえば、FOB(Free On Board)契約だと、サーチャージは買い手(バイヤー)のコントロール外となりがちです。
CFR(Cost and Freight)やDDP(Delivered Duty Paid)など輸送費込みの契約形態でも、サーチャージのみ「別建て」で請求されるケースが一般的です。

しかも、サーチャージの改定や適用開始の時期が予告なく変わることもあるため、予算実績管理や経理処理、場合によっては顧客への価格改定説明に大きな手間がかかります。

バイヤー・調達購買が考える「理想の契約設計」

製造業の調達現場で長年試行錯誤した経験から、サーチャージの変動リスクを「社内で吸収する」のではなく、「契約設計で分散・低減する」ための本質的工夫が必要だと痛感しています。

ここでは、私が推奨する「年度のフレート変動を吸収するための契約設計」の原則をご紹介します。

原則1:サーチャージ条項を柔軟に設計する

単なる暗黙の了解ではなく、「サーチャージの算出根拠」「改定頻度」「通知時期」「レート・マルチモデル」などを明文化したうえで、サプライヤー側とも定期的に協議できる条項を設けます。

例えば、「四半期ごとに公式な指標(燃油価格指数や船会社公表値)を基準に自動改定する」「改定がある場合は10営業日前までに文書で通知」を契約書に明記しておくことで、社内外での情報ギャップや不信感を減らせます。

原則2:フレートの「予算ガードレール」化

年度の各事業部・製品別に「サーチャージ・バッファ」を事前に設定し、特別損失や突発対応ではなく、通常予算内で吸収できる仕組みを取り入れます。

たとえば、過去3年のサーチャージ変動幅と今期の業界トレンド(例えば「アジア-欧州航路の混雑予測」「内航船燃料の補助政策」など)を加味し、「上限◯円/トンまでなら会社負担」「それ以上は要経営判断」といったリスク上限を設定します。

仮に年途中で想定以上にサーチャージが高騰した場合も、経営層や営業・顧客との合意が取りやすくなります。

原則3:「可変価格契約(VAF)」や「インデックス連動」方式の活用

欧米巨大メーカーやグローバル小売などは既に、輸送各社と「燃油インデックス自動連動型」の可変価格契約が主流です。
日本でも、たとえば「JET燃料価格が◯円/Lを超えた場合、サーチャージを△%自動加算」等の条項を入れることで、予算立案や購買管理がよりシステム的・合理的になります。

古い慣習に縛られた「一律価格」「固定化志向」から一歩進み、合理性を優先したフレキシブルな契約運用が求められます。

業界特有のアナログ思考とどう向き合うか

日本の製造業界では、いまだに「サーチャージは発生したとき都度応相談」や「電話一本でOK」といった非効率な慣習が根強いです。

勘と経験だけでその場しのぎの対応を続けていると、いざ大幅なサーチャージ高騰時に社内調整が間に合わない事態を招きかねません。
デジタル化推進や自動化志向が叫ばれるなかでも、各現場の「心配性な調達担当」が融通を効かせすぎて逆に混乱を招くことも多いです。

ここで重要なのは、「どこまでをルール化し、どこからを現場裁量に残すか」の線引きを明確にし、サプライヤー・バイヤー間で相互理解・連帯感を持つことです。

サプライヤー側から見たバイヤーの「予算管理の論理」

サプライヤーにとっても、バイヤーの「サーチャージ管理」の実態を理解することは非常に有益です。

多くのバイヤーは、
・「突然のサーチャージ請求」が最も嫌い(予算策定のやり直し、経理申請や原価説明が煩雑になる)
・「サーチャージ込み価格の一括交渉」よりも、「明朗な価格体系と根拠提示」を重視する
・大口・継続取引の場合は「中間報告」や「見込み提示」が信頼維持に不可欠

といった思考で動いています。

サプライヤー側がサーチャージの予算枠や契約想定幅を理由付きで提案できれば、バイヤー側の社内調整もスムーズになり、商談成立確率も上がります。

データ活用とシミュレーションによる「見える化」推進

現代の調達管理では、エクセルやERPシステムを活用したデータベース化が進んでいます。
サーチャージも「最新値の自動取得→シミュレーション→アラート発信」まで一気通貫で行う企業が増えてきました。

具体的には、
・主要航路・主要サプライヤーごとに「サーチャージ・ヒストリー」を可視化
・年度途中の「想定外変動」時に、どの程度コストが跳ね上がるかを即時算出
・営業・経営層向けに「予算レンジ」「損益感度分析」などのダッシュボードを構築
こうした仕組みを全社標準化することが、サーチャージ契約設計の地力につながります。

まとめ:未来志向のサーチャージ契約設計へ

サーチャージの予算管理に頭を悩ます全国の製造業関係者に声を大にして伝えたいのは、「フレート変動のリスクを最小化する契約設計こそが競争力向上のカギである」ということです。

昭和型の固定観念から脱却し、サーチャージ変動を「予算で見切る」「インデックスで自動追随させる」「サプライヤーとオープンに協議する」――この3つのアプローチを組み合わせた契約設計によって、リスクを「コントロール可能な範囲」に閉じ込めることが重要です。

企業の持続的成長のためにも、バイヤー・サプライヤーの双方がこのテーマを成長戦略の一環として位置付け、共にレベルアップしていく意識こそが、これからのものづくり日本を支えていく要となるはずです。

サーチャージ予算管理の深化・進化が、あなたの現場の「困った」を「よかった」へと変える、その未来を期待しています。

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