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信頼性の高い車載用ソフトウェア開発のためのMISRA-C基礎講座

目次
MISRA-Cとは何か?
MISRA-Cとは、自動車をはじめとした組み込みソフトウェア開発におけるC言語の安全性・信頼性向上を目的としたコーディングガイドラインです。
もともとイギリスの自動車業界団体「MISRA(Motor Industry Software Reliability Association)」が策定したもので、多くの車載機器メーカーやサプライヤーの現場で標準的に採用されています。
C言語は柔軟性が高い分、バグや不具合が生じやすいという弱点があります。
そのため、車載ソフトのように「人命が関わる」「高い安全性・信頼性が求められる」領域では、MISRA-Cによる統制が不可欠です。
なぜ車載ソフトウェアでMISRA-Cが求められるのか
車載用途のソフトウェア品質には極めて高い基準が求められます。
車両制御ECUに不具合があった場合、命に関わる重大事故を引き起こすリスクがあるためです。
C言語は高速・効率の良いプログラミングが可能な一方で、ポインタ誤操作やバッファオーバーフローなど、危険な事故につながる潜在的なバグが非常に発生しやすい言語です。
昭和のアナログ工程が今なお色濃く残るものづくり現場でも、「とりあえず動けばOK」という安全意識の低い開発体質は、もはや通用しません。
メーカー・バイヤーから直接納入先まで、すべてのステークホルダーがMISRA-C準拠を前提条件としています。
さらに、ISO 26262といった機能安全規格との紐付けも強まりつつあり、MISRAに従うこと自体が調達条件の「入り口」になっているのです。
MISRA-Cで具体的に制限されることとは
MISRA-Cは「やってはいけないC言語の使い方」と、「推奨される記述スタイル」を明確に示しています。
具体的には
- goto文やsetjmp/longjmpの禁止(処理の流れが追いにくいため)
- ポインタ操作の厳格な制限
- 型変換の制御と明示化
- 未初期化変数の利用禁止
- 可読性を著しく損なう記法(複雑なマクロ、複合文)の排除
など100項目超のルールがあります。
これらは、「バグになりやすいCのアバウトな書き方」を徹底的に排除することで、安全かつ長期間のメンテナンス性に優れたコードを書くための指導原則となっています。
アナログ現場でありがちな「MISRA-C導入の壁」
昭和から続くアナログなものづくり現場では、「熟練の職人による暗黙知」や「神の手」と称される属人性がいまだに根強く残っています。
ソフトウェア開発においても、
「昔から使っている便利な書き方を急に制限する意味がわからない」
「ガイドラインを守ると開発効率が落ちるのでは」
との抵抗感を多くの現場で感じます。
特に、ベテランSEや“おじさんエンジニア”が多いサプライヤー現場では、「経験に勝るものなし」と言わんばかりに、 MISRA-C順守の意義を軽視する雰囲気も見受けられます。
しかし、厳格な品質管理の要求やグローバルサプライチェーンへの参入条件として、MISRA-C準拠は待ったなしで現場に迫っているのが実情です。
MISRA-Cを現場へ根付かせるための実践的アプローチ
MISRA-Cの導入には、単なる開発者教育だけでなく、現場全体の文化醸成が不可欠です。
上流工程からの適用と設計見直し
MISRA-Cで制限されているNG表現が存在してしまう根本的な理由は、「設計や仕様の詰めが甘い」「後工程まかせの作りっぱなし文化」が背景にあります。
設計段階からMISRA-Cを意識し、関数分割や共通部品化、コーディング規約との突合せを徹底することで、後工程の手戻りや指摘修正による工数増大を防げます。
静的解析ツールの導入とカスタマイズ活用
全て手作業でMISRA-Cチェックをおこなうことは不可能に近いです。
静的コード解析ツール(例:QAC、Polyspace、Cppcheck等)は、MISRA-Cルール違反を自動検出してくれます。
ただし、各現場の「許容範囲」や「必要十分な厳しさ」に合わせて、ツール設定をきめ細かく調整することが大切です。
ツール依存ではなく、なぜそのルールが必要なのか体系的な理解も必須です。
体制整備とレビュー文化の構築
MISRA-Cへの準拠は個々のエンジニアに丸投げするだけでなく、開発プロセス全体の体制として根付かせる必要があります。
コードレビューやウォークスルーの場を設け、開発担当者・管理者・品質保証部門が三位一体となって継続的改善に取り組みましょう。
調達担当バイヤー視点でのMISRA-C対応の着眼点
部品メーカーだけでなく、完成車OEMや一次サプライヤーのバイヤーにとっても「MISRA-C準拠」は重要な選定基準のひとつです。
サプライヤー選定時のポイント
- MISRA-C対応プロセス(設計・実装・レビュー・テスト)が明文化されているか
- 静的解析ツールやIS0 26262等の機能安全プロセスへの適合状況
- 過去に発生した重大不具合と、その再発防止策レベル
- 現場のスキルアップ教育・知識伝承の仕組みの有無
こうした「実績・定着度」「運用レベル」にも目を向けることで、形式的な“カタログスペック”ではない、本当の意味で信頼のおけるパートナーを見極めましょう。
サプライヤーの立場から読み解くバイヤーの考え
サプライヤー(供給側)としては、
「これ以上品質規格を増やされるとコスト高になって困る」
「うちは○○年の実績があるから、多少のミスは大目に見てほしい」
と内心思うこともあるでしょう。
しかし、バイヤー側は「有事の際にリカバリー(責任追及)が可能な証跡があるか」「再発を完全に防げる体制・習慣が根付いているか」という観点を重視します。
つまり、
- ルールをどう遵守しているか
- 不適合が発覚した際に、現場・管理部門の間でどのような連携がとれるか
など、現場運用力・対応力にも鋭く目を光らせているのです。
今後の車載ソフト開発現場とMISRA-Cの展望
クルマのソフトウェア化が加速度的に進む現代、車載ECUの規模は飛躍的に大きくなりました。
自動運転やコネクテッドカーといった次世代車開発競争の中で、サイバー攻撃や機能の複雑化、不測の事態の発生リスクがますます高まっています。
こうした状況下で、「人が見て判断できる範囲」「属人的な暗黙知」では通用しない時代がやってきました。
MISRA-Cは単なるコーディング規則ではなく、「組織としてどう安全・品質を守るか」という現場文化改革のきっかけでもあるのです。
今後、AIやモデルベース開発との融合によって、人と機械が協調しながら更なる高信頼・高品質な車載システムを構築する時代に移行するでしょう。
MISRA-Cへの取り組みは、その第一歩であり、競争力強化の基盤作りなのです。
まとめ:MISRA-Cは製造業全体の「品質文化」を底上げする鍵
MISRA-Cは、車載ソフトウェアだけでなく、より広い組み込み業界全体で「安全・信頼・品質」の考え方を根付かせるツールとして位置付けられています。
昭和的な“職人文化”からの脱却を目指し、デジタル×現場力の融合による新たな地平を切り拓いていく時、MISRA-C実践で得られる経験・知見が、必ずや次世代ものづくり競争の大きな武器になるはずです。
バイヤーを志す方へ、サプライヤーさんへのヒントとしても、ぜひ「MISRA-Cの本質(単なるルール遵守を超えた現場の文化変革)」に触れていただきたいと思います。
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