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投稿日:2025年6月11日

MISRA-Cによる信頼性の高いソフトウェア開発実践講座

MISRA-Cとは何か?製造業に求められる“信頼性”を支える基盤

製造業におけるソフトウェア開発は、新たな競争力の源泉となっています。
特に自動車、産業機械、医療機器など「人の命」や「社会インフラ」に直結する分野では、ソフトウェアのわずかな不具合が大事故や深刻な損失を招くリスクがあります。
こうした背景から、近年ますますMISRA-C(ミスラC)への関心が高まっています。

MISRA-Cとは、もともと自動車産業における組込みソフトウェアのために生まれた「安全にプログラミングするためのガイドライン」です。
C言語は表現力が高い反面、プログラマの記述の自由度が大きく、コードにバグが混入しやすい特徴があります。
誤ったポインタ操作や未定義動作、メモリリークなどは、生産現場の品質問題の温床となりかねません。
MISRA-Cは、こうしたリスクの高いコードパターンを排除し、書く人が変わっても、レビューやテストで確実に品質を担保できる「コードのルールブック」として役立ちます。

自動車業界から広がる活用と、昭和的アナログ文化との葛藤

MISRA-Cは1990年代末に、英国の自動車業界コンソーシアム「MISRA(Motor Industry Software Reliability Association)」が策定したことに端を発します。
当時はまだ「制御ソフトウェア=基板上のROMに書き込むもの」という認識が一般的でした。
現場では設計図面や機械装置が工業の主役で、ソフトウェアはあくまで“補助的存在”との扱いでした。
しかし近年、車載ECU(Electronic Control Unit)の高機能化や、IoT(Internet of Things)工場の普及により、ソフトウェアがものづくりの中核を担う時代が到来しています。

多くの現場では、未だに「人の巧(たく)みによるミスを現場力でカバーする」という昭和的アプローチが根強く残っています。
このような文化のもとでは、プログラム内のルールや設計思想の共有がなかなか進まないという課題があります。
しかし、大規模化・複雑化が進む今、属人的なノウハウだけでは品質や納期は守れません。
MISRA-Cがあれば、「誰が書いてもバグが入りにくい」“強制的なチームの統一ルール”が生まれ、現場の世代交代にも柔軟に対応可能となるのです。

MISRA-Cのガイドラインの構成と、現場での実践ポイント

MISRA-Cは、複数のバージョンがありますが、最も広く使われているのは「MISRA C:2012」または「MISRA C:2004」です。
ガイドラインには数百におよぶルールが存在し、大きく「必須(Required)」「推奨(Advisory)」などに分類されます。

ここで、現場で役立つ代表的なルールをいくつかご紹介します。

1. 明確な型変換の徹底

暗黙の型変換は予期せぬ動作を招きやすく、長期稼働する装置などでは思わぬ事故原因になります。
MISRA-Cでは型変換を明示的に記述することを徹底し、“誰が見ても動作が明快”を実現します。

2. ポインタ演算の禁止・制限

C言語の力を引き出す反面、扱いが難しいのがポインタです。
アナログ文化の現場では「ポインタ=魔法の箱」になりがちですが、MISRA-Cでは不正なポインタ演算を厳しく排除し、バグの温床を減らします。

3. グローバル変数の最小化

部品表や図面では変更点が記録として残りますが、ソフトウェアではグローバル変数の多用がブラックボックス化の温床です。
MISRA-Cの指針に従えば、可読性・トレーサビリティが劇的に改善します。

4. 制御構造の明示化

if文やfor文などの構造が複雑だと、現場の担当者がコードの意図を掴めず、改修に失敗するリスクが高まります。
条件式やループ回数などは簡潔・明快に書くことを徹底し、ミスを未然にブロックできます。

MISRA-Cの導入がもたらす“現場の安心感”

筆者がかつて工場長や生産管理部門として現場に立った経験から申し上げますと、「設計段階での品質保証」はその後の全工程を守る根幹です。
特に設備のデジタル化―PLC(シーケンサ)連携や、センシング情報のクラウド連係などが進む今、ソフトウェア品質のリスクは目に見えづらい“静かな厄災”として現場を脅かします。

MISRA-Cの導入は、新人プログラマーが書いたコードでもベテランのノウハウが自動的に注入されることを意味します。
またルール違反が静的解析ツールで可視化できるため、設計レビュー工程に根拠あるチェックポイントが生まれます。
これは生産管理や品質保証部が定量的に“品質水準”を主張する裏付けとなり、納品先バイヤーに対しても安心感ある提案が可能です。

バイヤー・サプライヤー双方の「不安」を減らす意味合い

製造業の調達・購買担当者から見れば、サプライヤーがどのような形で「製品の品質・安全性」を担保しているのかは、最大の関心ごとです。
「ISO9001取得企業」といったお墨付きだけでなく、「具体的にどんな開発プロセスをとっているのか?」を示すことは、現代のRFP(提案依頼書)や監査で強く求められます。

MISRA-Cへの対応をうたえるサプライヤーは、「製品完成後のバグ修正コスト」「リコールリスク」の低減を具体的に提案できます。
バイヤーの立場でも、MISRA-C準拠の製品は、導入現場での不具合混入リスクを事前に減らせるため、調達責任が果たせます。
サプライヤーとしては、「コードレビューします」とだけ言うのではなく、「MISRA-Cの静的解析ツールによる検証結果」「どのルールで何件違反が出て、全件修正済みか」までを資料として用意できれば、説得力が格段に増します。

現場定着のための「4つの勘所」

MISRA-Cを形だけ導入しようとして、現場で形骸化してしまうケースは少なくありません。
最後に、筆者が過去に現場を変革してきた立場から、定着のための4つのコツをご紹介します。

1. 経営・管理層のコミット

現場任せにせず、「チームの品質文化の核心」としてMISRA-Cを経営視点で位置付けることが不可欠です。

2. 達成度の見える化

単に「ルールを守れ」ではなく、静的解析ツールでどれだけルールが適用できているかを見える化します。
現場のモチベーション維持と自己改善につながります。

3. 教育・啓発の継続

昭和型の“属人的なノウハウ”から、「みんなで安全な製品を作る」文化へ意識変革を促します。
新人向け研修やベテランとのラウンドテーブル(意見交換会)が効果的です。

4. ベンダー・ツールの適切な選定

MISRA-C準拠のチェックツールにもさまざまな種類があります。
コストや操作性、現場業務フローとの親和性を重視し、最適なパートナーを選びましょう。

まとめ:MISRA-Cは製造業DX時代の“必須スキル”へ

MISRA-Cは単なる技術標準や規格ではなく、「ゼロミス」を志向するものづくり現場の羅針盤です。
属人的な力や昭和的な安心感では乗り切れない難題が増える中、MISRA-Cという共通言語をもつことは、製造業DX=デジタルトランスフォーメーションの大前提となっています。

読者の皆さまがどの立場であっても、MISRA-Cの本質を理解し、実践・運用されることが、チームと企業の未来を確実に支えてくれると強く信じています。
現場に根付いた品質文化を、ぜひMISRA-Cの実践を通じて積み上げていきましょう。

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