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顧客の過剰仕様要求が原因で赤字化した契約事例と防止方法

目次
はじめに
製造業界では受注した製品や部品が、当初の想定とは異なるほど高性能・高品質を求められる場面が増えています。これは顧客からの仕様要求がエスカレートし、最終的には本来よりもコストや工数が膨れ上がり、契約自体が赤字化してしまうことが要因です。特に昭和から続くアナログな商慣習や、“お客様は神様”精神が根強い現場では、顧客の言うがままに対応したために大きな損失を被る事例も珍しくありません。本記事では、「顧客の過剰仕様要求」がいかにして発生し、どのように赤字契約へとつながるのか、具体的な失敗事例と防止策を現場目線で詳しく解説します。
過剰仕様要求とは何か
過剰仕様が起こる背景
現場で「過剰仕様」とは、本来の用途や必要性とは関係なく無駄に高スペックな部品や性能を要求されることを指します。この背後には、顧客側の設計・開発部門が自社で部品や製品の全てを正確に把握できていなかったり、「念のために」多め・強めの安全マージンを取ろうとしたりする文化が横たわっています。また、バイヤー(調達担当者)が管理部門や品質保証部門から指摘を受けて“とりあえず高めの要求”を出しがちなこと、過去のトラブルを恐れて過去の履歴要件を積み増していく傾向も見逃せません。
なぜ過剰仕様要求に対応してしまうのか
日本の製造業では「断る=取引縮小」と捉えがちです。営業や調達担当が顧客との信頼関係を重視するあまり、顧客の無理な要求も「努力します」「何とかします」と受けてしまう風土があります。また、現場の生産技術や品質管理が顧客に直接説明できる機会が少なく、バイヤーを通して間接的にしかリスクやコストの話ができないのも背景の一つです。
赤字化した実例:組立治具の受注生産
事例背景
ある工場では、自動車部品の組立治具を顧客の設計仕様に基づき受注生産していました。顧客側設計部門はグループ内の品質保証部門から「この治具では将来的に○○な仕様変更があった際、実装力や位置繰り精度が足りなくなる可能性がある」と指摘。さらに、使用環境や稼働時間、耐久性を現実以上に厳しく見積もった“念のため仕様”を伝えてきました。
コスト・損失の拡大
調達担当は顧客との関係悪化を恐れ、「とりあえず要求通りに積み増す」形で設計へ横流し。設計部門は本来不要な特殊材や高精度パーツ、冗長な安全機構まで盛り込むことに。結果、見積コストは当初想定の1.5倍となり、工数も20%増加。しかし既に受注単価は契約済みであり、追加コストの交渉も難航。数百万円の赤字が発生してしまいました。
業界的な“よくある話”
これは特別な例ではなく、特注治具・設備、量産生産立ち上げラインで頻繁に起こる課題です。特に昭和型の“御用聞き商売”を続ける中小・中堅部品メーカーや工場にとっては、「受注しなければ話が進まない」「値上げ交渉は難しい」との思いがリスクを高めています。
顧客の過剰仕様要求を見抜くポイント
仕様書や要求書の読み込み
顧客の仕様資料を鵜呑みにするのではなく、各要求項目の「本質的な目的」や「運用環境」「最終用途」まで踏み込んで確認することが重要です。「なぜこのスペックが必要なのか」「誰がどの用途で使うのか」を直接バイヤーや設計担当とディスカッションし、不明点は必ずヒアリングします。
典型的な“盛りすぎ仕様”の見分け方
・過去に比べて妙に数値設定が厳しくなっていないか
・「納入仕様書だけ」や「旧製品はこの数値だった」など理由が曖昧
・他メーカーや競合品のスペック比較を十分にしていない
・“念のため”や“将来的な拡張性”という曖昧な表現が多い
このような場合、実際に現場で使われる要件や環境に合っていない可能性が極めて高いです。
赤字契約を防ぐ実践的ノウハウ
部門間の連携と見える化
社内で営業、調達、生産技術、品質管理、設計が連携し「どこまでが本当の必須仕様なのか」を見極めることが肝心です。顧客が求める仕様リストに対し、
・必要な根拠の開示
・実際の現場運用ヒアリング
・要求根拠のロジカルな再検証
を徹底します。
また、追加コストや工数を見積もる際は「費目ごとにどの仕様のために追加費が発生しているのか」を明示しておきます。これにより、社内・顧客双方で仕様とコストの関係を見える化できます。
仕様の“分水嶺”を明確にする
「ここまでは標準仕様、ここからはオプション・特殊対応」という“線引き”を明らかにしましょう。たとえば「この精度値は特殊計測機材・工程管理が必要となる」「この部品材料は海外調達でリードタイムが2ヶ月伸びる」など、具体的な影響を数値・実例で示すことで顧客に選択の余地を与えられます。
コミュニケーションの工夫
交渉の場では、単純に「できません」「コストが上がります」ではなく、「A案仕様なら従来通り納入可能、B案だとこのようなコスト・納期リスクが発生します」と事実ベースで“2択提示”を行い交渉を進める手法が有効です。
また、「一旦ミニマム要件でサンプル納入し、試用結果によって仕様を詰める」段階的アプローチも顧客との信頼維持に役立ちます。
上申・エスカレーションのルール化
バイヤー側もサプライヤーも、通常仕様を逸脱したコスト負担について社内で“現場判断”せず、管理職や経営層へのエスカレーション(報告・相談)ルール化が必要です。これにより勇気を持って「Noと言う」「価格再見積・仕様再確認を申し入れる」ことが許容される環境作りが求められます。
まとめ:これからの時代に求められる調達・購買改革
過剰仕様要求による赤字契約リスクは、依然として多くの製造業現場で続いています。単なるコスト削減だけでなく、拡大する品質保証要求や環境・コンプライアンス観点を見据えて、「なぜその仕様が必要か」という本質論や根拠説明力が現場バイヤー・調達担当、そしてサプライヤー双方に強く求められます。
昭和の時代から続く「とりあえず御用聞きをしてから考える」姿勢ではなく、「共創」「協議」「技術マーケティング」の視点を持った新しい価値提案型の調達・購買体制への進化が必要です。
一人ひとりが「今、本当に必要な品質・スペックは何か?」「無駄なコスト・工数ロスはどこか?」を常に考え、より良い生産現場・業界発展を目指すことが、これからの日本の製造業に求められます。
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