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投稿日:2025年5月23日

AUTOSARによる車載システム開発とその事例

AUTOSARによる車載システム開発とその事例

はじめに:車載システム開発の現在地とAUTOSARの登場

近年、自動車産業は「100年に一度の大変革」と言われる激動の時代を迎えています。

今や車は単なる移動手段ではなく、情報家電と同じ精緻なソフトウェアシステムの集合体となりました。

自動運転、コネクテッドカー、電動化など次々と生まれる新しいニーズに応えるため、車載電子システムの開発現場も大きく変わりつつあります。

この変化のなかで、業界全体が共通課題としてきたのが「ソフトウェアの複雑化による開発の非効率」や「異なるメーカー・サプライヤー間での再利用性不足」です。

そんな状況を打破するために登場したのが、AUTOSAR(Automotive Open System Architecture)という国際標準の車載ソフトウェアプラットフォームです。

この記事では、現場での実体験や日本の製造業の実情を交えつつ、AUTOSARによる車載システム開発の意義、現場導入の課題、そして実際の事例までを詳しく解説します。

AUTOSARとは何か?現場と未来をつなぐ共通言語

AUTOSARは2003年に欧州自動車メーカーを中心に発足した、オープンな車載ソフトウェアアーキテクチャの標準化団体です。

BMW、ダイムラー、トヨタなど世界中の主要自動車メーカーやティア1サプライヤーが参加しており、今や車載ECU開発の事実上のデファクトスタンダードとなっています。

主な目標は「車載ソフトウェアの抽象化、分割化、再利用性の最大化」にあります。

これまでは、メーカーごと、車種ごと、場合によってはサプライヤーごとに個別開発されていたECUソフトウェア。

ハードウェアとの密結合、ブラックボックス化、担当者しかわからない属人性の温床となり、大きな技術負債に。

AUTOSARはこれを「Soft/Hard分離」「ソフトウェアコンポーネント化」「共通的なインターフェースの定義」といった概念で打破し、異なるサプライヤー間でのモジュール再利用や柔軟な機能追加・修正を実現します。

端的に言えば、プラモデルのパーツように様々なソフトウェアやECUが“はめ込み式”で組み合わせられる未来を目指すものです。

オープンな開発と独自性の両立、それこそがAUTOSAR最大の特色と言えるでしょう。

従来型アナログ開発体制の壁と課題

しかし、AUTOSARの思想をそのまま製造業の現場——特に日本のアナログ的な現場——に導入しようとすると、いくつもの壁が現れます。

私も現役時代、数々の議論や調整に苦労しました。

具体的な課題は以下の3点です。

1. 「個別最適」文化との衝突

日本の製造業では「現場で培ったノウハウ」や「現物主義」への信仰が根強いです。

品質、信頼性、コスト低減、納期厳守…各部門が独自に工夫と最適化を進める中で、システム全体を横断する共通基盤への関心はどうしても薄れがち。

「うちの特別な作り方」「昔からこうしている」を理由に、世界標準のアーキテクチャ導入が遅れる例も少なくありません。

2. サプライヤー/バイヤー間での情報ギャップ

AUTOSAR導入は、多数のティア1/ティア2サプライヤーが一斉に協調し、役割や成果物の在り方を擦り合わせる必要があります。

しかし、従来の「バイヤー(発注元)→サプライヤー(受注先)」という“商流優先”構造のもとでは、「本当に必要な情報」がきちんと共有されず、後出し・手戻り・責任の押し付け合いに発展するリスクが常に存在します。

構想段階から設計・実装・検証まで「システム思考」で議論できる裾野作りが欠かせません。

3. 人材・知見の不足

AUTOSARは抽象度が高く、設計思想や用語も独特です。

現場技術者の中には「LinuxやWindowsのように個人で触って学べる」ものと違い、「体系的かつ実践的な教育やOJTの場」が限られています。

結果として、外部コンサルやパートナー企業頼みになり、自社の技術蓄積が進まないといった「知見の空洞化」が起こりがちです。

AUTOSAR導入のメリットと、突破口になる業界動向

上記のような課題を乗り越えて、AUTOSAR導入を着実に進める企業も増えてきました。

その背景には、以下のような構造的なメリットと時代の流れがあります。

1. ソフトウェア開発生産性と品質の飛躍的向上

AUTOSARではソフトウェアモジュールの再利用性が格段に高まります。

つまり、似たような機能の車種バリエーション展開やモデルチェンジに際し、「一から作らない」ことが現実的になります。

また、標準化により「インターフェース定義→検証→機能追加→再検証」が明確化。

属人的な品質リスクや、現場での“手とり足とり作業”の激減が期待できます。

2. サプライチェーン全体の競争力強化

オープンな標準化基盤を採用することで、大手完成車メーカーはもちろん、隣接領域の新興サプライヤーも「参加しやすいエコシステム」が生まれます。

これまで参入が難しかったITベンダーやソフトハウスも、AUTOSARという共通言語を持つことで多様なプレーヤーがコラボ可能に。

従来の「ご用聞き受注生産」から「価値創造パートナー」へ、サプライチェーンの構造的変化を促します。

3. OTA(Over-The-Air)時代への最適化

近年では「ソフトウェア・アップデートによる機能追加」「リモート障害解析」など、“つながる車”への対応が不可欠です。

AUTOSARはソフトウェアを正規のフローで差し替える仕組みを標準装備しており、将来のOTA対応が容易です。

これこそが、古き良きアナログ現場の「作り切り」から、「進化する車両」へのシフトに不可欠なポイントと言えるでしょう。

現場目線で考えるAUTOSAR導入のコツと事例

現場の実情をよく知る立場から、AUTOSAR導入をスムーズに進めるためのコツをまとめます。

また、具体的な事例もご紹介します。

1. 全体最適と部分最適の“適用範囲”を明確にする

すべてを一気に大改革するのではなく、

・開発初期段階の機能設計や仕様検討は従来どおりアナログ的に進め、
・インターフェースや機能ごとの区切りを意識した段階からAUTOSARを適用

という「ハイブリッド運用」が実際の現場では非常に有効でした。

とくに、コアな競争力(例:ADASや電動化に関わる領域)には独自性を残しつつ、基盤となるユーティリティ部分(コミュニケーションスタックや共通制御など)はAUTOSAR標準で固める、というアプローチが主流です。

2. モジュール単位での段階的導入

一気に全システムを刷新するには、時間もコストもリスクも膨大です。

まずは既存ECUの一部モジュール(たとえばネットワーク通信やセンサIF)をAUTOSAR対応で更新し、

・不具合発生時のトラブルシュートのしやすさ
・他ベンダー・他拠点との連携や実装の容易さ
・保守工数の減少

を自社の数字として「見える化」することで、現場全体の納得感につなげられます。

3. バイヤー/サプライヤー間の情報非対称を減らす取り組み

サプライヤー目線では、「バイヤー側のAUTOSAR実装方針」「求められている成果物の粒度」「検証/評価基準」といった情報が不足しがちです。

・仕様書の段階で明確なAUTOSAR準拠要件を提示してもらう
・必要に応じてワークショップや共同PoC(実証実験)を用意する
・困りごとを率直に共有できる問合せ窓口をバイヤー側が整備する

といった施策が重要になります。

サプライヤー自身も「技術受託」から「共同開発パートナー」へ役割転換する意識の醸成がキーになります。

【事例1】日系自動車メーカーA社:プラットフォーム刷新に向けた段階導入

A社は複数車種に共通するボディ電子部品の開発において、AUTOSARを段階的に導入しました。

当初は小規模なサブECU(ワイパー制御やランプ制御)から着手し、運用実績を積むことで技術者のスキル底上げにつなげました。

その後、車載ネットワーク全体へとAUTOSAR化を拡大。

結果として共通部品の調達コスト低減、品質トラブルの減少、他社への移植開発工数の大幅短縮を実現しています。

【事例2】外資系サプライヤーB社:グローバル開発拠点の連携強化

B社(ティア1サプライヤー)は、欧米・中国・日本を横断する開発案件でAUTOSARを全面導入しました。

標準インターフェースゆえに、各国拠点での設計・検証成果の共有が容易に。

ブラックボックス化した「属人DB」への依存から脱却し、結果としてグローバル一貫の品質監査体制が組めるようになった点が高く評価されています。

昭和型アナログからデジタル変革へのヒント

日本の製造業は、「匠の技」「現場第一主義」が強みであり、同時にデジタル変革の足かせにもなり得ます。

AUTOSAR導入をきっかけに、

・「あらゆるものを細分化し、連携可能にしておく」
・「現場が自発的にナレッジやノウハウを外部へ開放する」
・「お客様(バイヤー)の意図を正面から理解しようと努める」

といった意識が、今後ますます重要となります。

単なる業務効率化やコスト削減の手段ではなく、「世界と戦うための標準化」「自社の強みを最大化するためのオープン化」というマインドセットが、真の製造業改革の突破口となるでしょう。

まとめ:製造業を変えるAUTOSARの本質

これからの車載システム開発は、高度なソフトウェアと柔軟なアーキテクチャ設計が“標準”です。

AUTOSARは、その標準化と競争力を両立させる現実的な武器となります。

現場目線を大切にしながら、グローバル/デジタル両面での最適化に取り組む——そこに、サプライチェーン全体の成長の鍵があるはずです。

バイヤーを目指す方も、サプライヤー側でバイヤーを理解しより良い提案をしたい方も、ぜひ一度AUTOSARの取り組みを自社の成長戦略の俎上に乗せてみてはいかがでしょうか。

AUTOSARは、昭和から続く日本のモノづくり魂と、世界水準のデジタル競争力とを“つなぐ”架け橋となるはずです。

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