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制御システムチューニング基礎とゲイン調整予測補償器活用ポイント

目次
はじめに:製造業の未来を左右する制御システムチューニング
現場の自動化が加速する現代の製造業において、制御システムのチューニングは、品質や生産効率の向上、コスト削減に直結する極めて重要な技術です。
一方、未だに昭和から続くアナログ思考、あるいは「経験則が最優先」という根強い文化が業界の現場には残っています。
この記事では、制御システムチューニングの基礎を整理したうえで、現場目線でのゲイン調整や予測補償器の本質的活用ポイントを解説します。
これからバイヤーや技術営業、サプライヤーとして現場の課題解決に携わる方、または製造業の技術者としてさらなるスキルアップを目指す方に向けて、現場で「本当に役立つ知恵」を届けます。
制御システムチューニングの基礎とは
なぜチューニングが重要なのか
製造ラインには必ず多くの制御系(例:温度制御、流量制御、モータ速度制御など)が存在します。
これらの制御系が適切に設定されていないと、大きな品質バラツキや不良率の増加、設備トラブルによるダウンタイムの発生など、経営に直結する損失が生じます。
適切なチューニングにより、「安定した生産」と「効率的な運用」が両立できます。
現場では、「とりあえずデフォルト設定」や「昔の偉い人のやり方を踏襲」〜という安易な判断が横行しがちですが、こうした惰性は真の現場力向上を阻みます。
チューニングの基本プロセス
一般的なPID制御(比例・積分・微分制御)が主流ですが、その設計のカギとなるのがゲイン(K値)の適切な調整です。
チューニングのプロセスは、以下のステップに整理できます。
1. 制御対象(プラント)の特性把握(時定数、遅れ時間、非線形要素)
2. 初期ゲインの設定と応答観察(ステップ応答やバンプテスト)
3. 応答波形をもとに比例・積分・微分各ゲインの調整
4. オーバーシュート・ハンチング・応答速度・安定性の判定
5. 運転状況の変更(負荷・原料・周囲環境)下での再評価
この一連の作業は、現場の責任者が自身の経験や勘で「何となく」ではなく、記録とロジックをもとに行うことが重要です。
データ記録と経験則の融合こそが、今求められる現場力の根幹です。
ゲイン調整の正しいアプローチ
ゲインを“いじる”のではなく“考える”
現場では「ゲインは触りすぎるとトラブルになる」「よくわからないから現状維持」といった空気が根強いものです。
一方で、「むやみに高めれば早くなるだろう」と数字遊びに終始する現場も見受けられます。
しかし、ゲイン調整には「守破離(しゅはり)」の思考が有効です。
まずは基本通り(守)、現場状況に応じて原理原則を理解してアレンジ(破)、最終は現象を見極めて自律的な判断(離)を目指します。
ゲイン値の大小は「速さ」と「安定性」のバランスに直結します。
例えば以下のような現象が起こります。
– 比例ゲイン(P): 高すぎると振動、低すぎると応答遅れ
– 積分ゲイン(I): 高すぎるとオーバーシュート増大、低すぎると定常偏差残存
– 微分ゲイン(D): 過大でノイズ増幅、小さすぎるとハンチング抑制できず
「どうせ現場ではピッタリ正解はないから」とあきらめず、現象ごとの特徴を分析、ABテスト的に調整検証してみることが大切です。
現場でありがちな失敗とその回避策
例えば、バッチ生産で原材料が切り替わったとき、または設置場所が夏場・冬場で著しく変動するとき、PID設定を全く変えずにトラブルが連発するケースはよくあります。
「1年前のデータ」「他ラインの値」を機械的にコピーするだけでは不十分です。
必ず“現場ごとの履歴管理”を置き、次回調整時のベースラインをデータで確認することで、習熟度も上がります。
また、近年ではシミュレーションツールや自動チューニング機能が普及しつつありますが、ブラックボックス的な運用任せでは現場ノウハウが継承できなくなるリスクもあります。
予測補償器の活用ポイント
昭和的SP(セットポイント)至上主義の限界を知る
日本の現場では、「シンプルで扱いやすいPID制御」が長年重宝されています。
しかし、生産スピードの向上や、高度な品質制御に求められるレスポンスは、単純なPIDでは追いつかない場面が増えています。
予測補償器(フィードフォワード制御)は、入力値の変化や外乱への「先手」を打ち、制御システムのダイナミクス遅れを補償する技術です。
たとえば、温度制御で原料の流量が急増する場合、従来のPIDだけだと測定値(PV)が変化してからしか制御信号が動きませんが、予測補償器を使うと“影響が出る前”からドライブし始めます。
この「待たない制御」が、不良率やロス削減に絶大な効果をもたらします。
予測補償器導入の現場的ポイント
予測補償器の設計で最も重要なのが「現象の因果関係」の見極めです。
– どの外乱がターゲット値(PV)にどんなタイミングで影響するか
– 補償量の設定をどこまで正確に見積もるか
– ターゲット値が変化する場合、どの時点で補償を先行させるか
これらの知見は、現場で得た「運転経験」と、統計的データ分析をつなげて初めて高精度な設定が可能となります。
予測補償器にはある程度の専門知識が必要ですが、難解なブラックボックス化を避け、必ず「何の現象を狙っているのか」を数式や図解で現場へ説明できる担当者を育成していくのが肝要です。
たとえば、生産条件や設備構成が頻繁に変わる現場では、「予測補償器パラメータのテンプレート化」や「短周期運転での自動微調整ロジック」が有効です。
サプライヤーとしては、この設計意図を明確に説明・共有できる資料や、“現場フィット”なチューニングサポート体制の構築が信頼獲得につながります。
アナログ業界の現場改革に向けたラテラルシンキング視点
近年はIoTやAI技術が現場に入り込みつつありますが、属人的なオペレーションや根拠なき暗黙知に頼った運用も未だ根強く残っています。
制御系のチューニング・補償器設計においても「今まで通りが一番」「人の勘が頼り」とならず、以下のような“ラテラル思考”を発揮することが、変革の鍵です。
– データ可視化による「なぜ?」を追求し、個人技能からチーム知識へ
– 多部門(調達・保全・現場運転)と連携し、設備投資前の“全体最適”視点
– 海外現法・新興国拠点のナレッジ共有により、現地特有の問題を予防
ここで重要なのが「知識のサイロ化」を防ぐことです。
一人のスーパーマン頼みから卒業し、現象ベースのナレッジ化、それを教育や予防保全計画に落とし込む“垂直立ち上げ型チーム作り”を推進しましょう。
最後に:バイヤー・サプライヤー・現場技術者への提言
製造業の発展には、現場レベルでの制御システム進化と、それを支えるバイヤー・サプライヤーの確かな目利き力、技術部門との板挟みにならない“対話力”が不可欠です。
– 現場の方は、ぜひ自ら制御チューニングの数値に触れ、履歴を取って小さな試行錯誤に挑戦してください。
– バイヤー志望の方は、価格や納期の調整だけでなく、「このシステムが現場で役立つ根拠」に目を向け、現場主導の調達基準づくりにコミットしてください。
– サプライヤーの方は、スペックやカタログ依存から脱却し、現場が体感できる“差別化された向上貢献”を具体的な工場プロジェクトで実践しましょう。
現場のリアルな課題を見つめ、データと経験を融合し、深く深く考えて真の価値を追求する──。
それが製造業の未来を創る確かな一歩です。
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