投稿日:2025年7月25日

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原価のカラクリを理解することが未来創造の第一歩

製造業の現場において「原価」の正確な把握と、その数値がどのように形成されるかを知ることは、経営や開発、営業においても非常に重要な要素です。

しかし、昭和から続く多くの日本の製造現場では、原価の構造自体がブラックボックス化してしまっていることや、判断ミスから大きな赤字案件を発生させてしまうケースが後を絶ちません。

本記事では、単なる原価計算や原価差異の分析という枠を超え、原価の「カラクリ」本質に迫りつつ、未来に向けた高収益化のための実践的なヒントや、私の現場経験からの事例を交えてご紹介します。

なぜ原価の「カラクリ」を見逃すのか?

1. アナログな現場に根強い「慣習主義」と情報非対称性

製造業の現場では、標準原価の計算や過去データに頼ったコスト見積りが未だ一般的となっています。

これは、かつての「一億総中流」時代には通用したやり方かもしれませんが、グローバル競争が激化した現代では通用しない時代錯誤の手法です。

現場担当者と経理、管理職の間の情報の壁、「サイロ化」も原価の把握を複雑にしています。

たとえば購買部門は単価や為替の変動に敏感で、設計側は主材料や工数のみを重視してしまう傾向が強いです。

お互いの情報共有や連携が不足しているため、意思決定の初動で「経営の目線」を外してしまうという問題が起こります。

2. 原価計算の“型”に囚われた意思決定の落とし穴

多くの現場では「標準原価」や「実際原価」を使った数合わせが中心です。

しかし、現場でちょっとしたムダ取りや小さな改善を繰り返しても、抜本的な構造改革がなければ、大きな原価低減にはつながりません。

また、間接費や共通費を“工場按分”するだけで、その本質的なムダやコスト構造を把握することができず、「一体この数字のロジックはどうなっているの?」と疑問を持つ人さえ減っています。

このような中、「判断ミス」が起こるのは必然とも言えます。

設計開発段階こそが原価の“未来”を左右する

1. 原価の8割は設計で決まる

現場で長年指摘されてきたことですが、「原価の80%は設計段階で決まる」と言われます。

つまり、設計に関与しない限り、原価低減余地はほとんど残されていないというのが現実です。

設計者が発注品の素材、形状、加工方法、組立手順…これらをどう選ぶかで、その製品のコストは決まってしまいます。

しかも日本の多くの現場では、一度設計が決まってしまってから見積やコスト改善に入るケースが多く、無駄なコストが既に埋め込まれたままになっていることも少なくありません。

2. 経理・購買・生産管理との“三位一体”が必須

設計部門だけでなく、調達・購買や経理、製造現場との「三位一体」連携が不可欠です。

しかし、現場では「設計が言ってきたから」「購買が値切らないから」「経理がうるさいから」と責任のなすりつけ合いを見かけることも多いです。

これを解決するためには、全社を横断した「原価情報共有インフラ」の構築、そして現場の声をダイレクトに反映させる仕組みが重要となってきます。

ターゲットコストの真髄と実践的使い方

1. ターゲットコスト設定とコストダウンのPDCA

「ターゲットコスト」とは、市場価格・顧客要求・利益目標などをもとに設定される、製造現場が達成すべき「理想的な原価水準」です。

要求品質・納期・市場動向などを総合的に判断し、“逆算の設計思想”で原価を絞り込む手法です。

例えば、顧客が「この機能なら市場では5万円が相場」と考えている場合、まずその販売価格から必要利益を逆算して、原価の目標を定めます。

これが従来型コストプラス方式との決定的な違いです。

2. 現場に根付かないターゲットコストの落とし穴

日本の多くのメーカーは形だけ「ターゲットコスト活動」を導入してしまい、実際の現場では「できるはずがない」「これ以上ムリ」と、形骸化しやすい特徴があります。

ターゲットコストを“管理項目”の一つとして取り扱うだけでは、現場の自発性や創意工夫・改善の力を引き出すことはできません。

目標原価の「本質」は、現場担当一人ひとりの知恵・工夫・提案によって初めて実現可能となります。

ですから、現場の新しいアイデアを拾い上げ、失敗を責めずに評価し、時にはプロセスそのものの「否定」や「大転換」を恐れず推進する組織風土が重要となります。

原価差異分析が“真実”を教えてくれる

1. 原価差異分析は「結果」より「要因」に目を向ける

月次の実績会議では「原価差異」すなわち、標準原価と実際原価のギャップがよく議論されます。

多くは「先月より悪化した/改善した」という報告のみで終わりますが、本質的には「なぜそうなったのか」という『要因分析』が不可欠です。

例えば材料費の高騰や外注先の歩留り悪化、現場の労務不調、設計不良による手戻りなど、どこに真の問題が潜んでいるのかを掘り下げていくプロセスが大切です。

ここを疎かにし、表面だけの数値で議論をしては本当の意味での「高収益体質」につながりません。

2. 差異を“見せつけ合う”文化から共創型へ

ついつい「この要因で〇△万円のマイナスです!」と報告するスタイルが定着しがちですが、「誰が悪い」の追求ではなく「どうすれば根本的に無駄をなくせるか」という共創型文化の醸成がこれからの原価管理には求められます。

たとえば組立現場でのムダな搬送経路や、設計のちょっとした部品選定ミスを、ラインリーダーや現場メンバーが自発的に提案・改善できる環境づくりが重要です。

成功事例に学ぶ:未来創造原価分析の実践

1. IoT活用によるリアル原価“見える化”事例

私が現場で関わったある中堅部品メーカーでは、IoTセンサーとMES(製造実行システム)を活用し、各工程ごとにリアルタイムで原価を計算・可視化するプロジェクトを推進しました。

材料投入から製品出荷までの工数、電力・燃料消費、作業ごとのロスやムダなどを一元管理。

月次どころか日次単位で「ボトルネック工程」や「異常原価部位」を発見できるようになり、従来の月次帳票だけでは気づけなかった課題を即座に改善できる体質が育ちました。

その結果、同業他社比で1割以上の原価低減を半年で実現し、社内の意識改革にもつながりました。

2. サプライヤーと共創の原価企画成功例

ある精密加工部品の新規開発案件で、発注側(バイヤー)と納入側(サプライヤー)が、開発の初期段階から原価構造の可視化ワークショップを徹底しました。

従来ならどうしても「値切り・値上げ」の駆け引きとなりがちですが、双方が「最終目標原価」と「お互いの困りごと」を共有することで、新しい加工方法の導入や設備投資・工程集約など多大なコストダウンを協働で達成しました。

ここで大事なのは「オープンブック」で相互に情報を開示し、双方が“WIN-WINとなる”原価構造=サプライチェーン全体最適の発想に立てたことです。

原価管理の未来に向けて:バイヤー・サプライヤー双方が意識するべきこと

原価管理はもはや経理や生産管理だけの領域ではありません。

企画・設計段階から購買、製造、サプライチェーン全体にかけて「全員参加型」の経営課題としてとらえる必要があります。

また、“値引き交渉”だけにとらわれるのではなく、「どうやれば一緒に原価の壁を打破できるか」「どんな新しい視点・発想が自分たちの製品・サービスに活かせるか」を一人ひとりが深く追求することが、10年先のものづくり企業の未来を切り拓きます。

現場で培った専門知と経験を惜しまず分かち合い、新しい発想と現場力で、互いに高収益体質・付加価値創造への道を切り開いていきましょう。

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