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中小製造業と進める長期的な原価企画によるコスト削減事例

目次
はじめに:製造業の未来とコスト削減の重要性
「作れば売れる時代」はとうに過ぎ去り、グローバルな競争環境に晒される現在の製造業において、原価管理とコスト削減は企業の存続を左右する最重要課題となっています。
特に中小製造業の現場では、資本力や人材リソースで大手企業に劣る分、徹底した原価企画や効率化による持続的なコストダウンが求められます。
一方で、昭和から続く「見積もりは取引先任せ」「設計変更ごとに値下げ交渉」といったアナログ的習慣から抜け出せない企業もまだ多く存在します。
本記事では、20年以上現場で調達・生産管理・品質管理に携わった筆者の経験を基に、中小製造業と一緒に作り上げてきた「長期的な原価企画」によるコストダウンの成功事例とその思想、さらに現代の“正しいコスト管理”について解説します。
「自社の取り組みは本当に時代に合っているのか?」「今後勝ち残るためにはどんなアプローチが必要か?」といった疑問を持つ方はぜひご一読ください。
原価企画とは何か?今なお昭和的値下げ交渉が根強い背景
原価企画の基本的な考え方
原価企画(Cost Planning)は、製品の企画段階で目標原価を設定し、生産・調達・開発など複数部門をまたいで“設計とコストを一体で考える”仕組みです。
単なるコストダウン活動と違い、不具合の手直しやコスト超過が起こりにくいことが特徴です。
一般的な流れは以下の通りです。
1. 市場ニーズや顧客要望に基づき、商品企画時点で市場価格(販売価格)を設定する
2. 逆算して必要利益を確保した上で“目標原価”を定める
3. 製品設計、生産技術、調達購買、サプライヤーと連携しながら設計・生産・調達を最適化
4. 製品ライフサイクル全体にわたって目標原価達成を管理する
この仕組みを中小企業も巻き込みながら早期から実行することが、中長期的な競争力につながるのです。
昭和的値下げ交渉と“御用聞き”からの脱却が必須
従来の製造業、とりわけ中小企業が多い現場では、「見積もり提出=コスト管理」と短絡的に捉え、設計や生産段階で費用が合わなくなってから“値下げ交渉”に頼る商習慣が多々ありました。
また、調達部門が単なる「御用聞き」になりがちだったため、価格や納期の不満は都度サプライヤーに押し付ける対象となりがちでした。
しかし、現在ではこうしたやり方は通用しません。
サプライヤーも人手不足・原材料高騰に悩み、「値下げ圧力」のみでは協力関係が成り立たないためです。
真に競争力のあるコストを実現し続けるためには、「中長期的なパートナーシップを軸にした原価企画型の管理」へのシフトこそが求められています。
実践事例:中小製造業との“共創型”原価企画で大きな成果
背景:コストダウンの限界に悩む現場
中小製造業A社は、特定の自動車部品を20年以上受託生産してきた取引先です。
しかし、市況の悪化や材料高騰を受け、一律3%のコストダウン要求だけでは限界点に達していました。
A社の専務からも「ただ値下げ交渉されるだけでは現場のモチベーションが落ちる」という声が上がるようになっていました。
アプローチ:製品ライフサイクル全体を俯瞰した原価企画の導入
筆者がリーダーとなり、次のようなステップでA社と『共創型原価企画』プロジェクトを立ち上げました。
1. 製品ライフサイクルコストの“見える化”
製造原価だけでなく、設計・生産準備・物流・品質保証まで全コスト項目を棚卸し。
隠れたムダや人的作業を丁寧に洗い出しました。
2. サプライヤー現場との“GEMBAミーティング”
技術部門・設計部門・購買部門、A社の現場リーダーが集まり、各工程ごとの課題を現物・現場・現実で確認。
オープンな情報共有と課題出しを徹底しました。
3. 目標原価からの逆算シナリオ策定
受注価格や必要利益から“達成すべき目標原価”をKPI化し、工程ごと・部品ごとに具体的な削減策を分担しました。
4. 現場主導の改善活動・設備投資意思決定
A社が自社で考案した自動化治具の導入や段取り時間の短縮アイデアを採用し、小規模な投資も本プロジェクトとして会社がサポートしました。
5. 成果の分かち合い・次案件へのノウハウ蓄積
成果は一過性の値下げで終わらせず、A社の利益確保にもつながる“ウィンウィン”の仕組みに。
改善アイデアは次期プロジェクトや別製品にも横展開することで、協力関係がさらに強化されました。
具体的なコストダウン効果
最終的に、従来の一律値下げでは到底達成できなかった、見積もり上5%、実コストで10%を超えるコストダウンが実現できました。
その内訳は、工程短縮による直接工数削減(3%)、部材の標準化(2%)、不良率削減に伴う歩留まり向上(2%)、物流ルート見直し(1%)、自動化治具の自社開発による設備稼働率向上(2%)などです。
A社専務は「これほど現場やパート社員までやる気になったコスト管理は初めてだ」とコメントされました。
アナログ業界でも進む“現物主義”と“情報共有”の重要性
“現場に答えがある”という昭和的名言の再発見
いまだにFAX・手書き日報・紙ベースの報告文化が残る中小製造業が大多数なのは事実です。
それでも、原価企画の本質は「現場現物現実(いわゆる三現主義)で答えを探すこと」です。
現場作業者や現地サプライヤーが生み出す改善ノウハウこそが、本質的なコスト競争力の源泉です。
昭和臭が残る手法も“情報の透明化”“現場力の活用”という点では現代に通じる哲学が潜んでいます。
IT活用より先に必要なのは“部門横断の対話”
最近はDX・IoT・AI化が盛り上がっていますが、「現物が最適化できていない現場」にツールだけ導入しても成果は頭打ちです。
むしろ、調達部門・設計部門・品質管理・現場リーダーが“同じKPI”を共有し、率直な議論を重ねる文化の方が定着するコスト削減行動につながります。
ITや自動化はその「意思決定スピード」と「知見共有」のための武器に過ぎず、基礎となるのは“現場主導のコミュニケーション”なのです。
バイヤー・サプライヤー双方に求められる新しい視点
バイヤー(調達)に必要な“価値思考”
バイヤーは「安く買う」ことだけが使命とされがちですが、真に求められるのは「継続的に原価を下げ続ける現場改善サイクルを仕組み化する」ことです。
つまり、“コスト改善の共創パートナー”としてサプライヤーが成長できる土壌を作ることが、本当の意味での購買価値創出です。
そのためには、現場改善への十分な情報開示と成果分かち合いのルール作りが不可欠となります。
サプライヤーに求められる“プロアクティブな提案力”
サプライヤー側も単なる「見積もり屋」や「指示待ち」ではなく、継続的な工程改善・原価低減・標準化ノウハウを自発的に提案できる姿勢が必要です。
“コストを下げて終わり”ではなく、“次も一緒に考え抜くバディ”という視点に立てるサプライヤーは、長期的な信頼関係により安定的な受注を獲得し続けることができます。
おわりに:今こそ「原価企画型パートナーシップ」で新たな地平を開拓しよう
日本のものづくりは、長い停滞のなかで“減点主義”や“現状維持”に陥りがちでした。
しかし、中小製造業との共創による「長期的な原価企画」を推進することで、単なる“値下げ交渉”から卒業し、現場主導の本質的なコスト競争力を磨き続ける時代が到来しています。
業界の慣習や時代錯誤と言われる手法も、“現場現物現実”を軸にアップデートすれば、驚くほどのイノベーションが生まれます。
今、調達担当者、バイヤーを目指す方、サプライヤーの立場にいる方それぞれが「共に未来を作るパートナー」として、積極的に原価企画に関わること。
それが、成熟産業といわれる製造業でも新しい成長の地平線となるのです。
これからも現場の知恵を生かし、すべての製造業がより強く、しなやかに進化していけるよう、原価企画の実践を続けていきましょう。
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