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製造現場と飲食現場の間で起きる「認識ズレ」を防ぐための共通言語作り

目次
はじめに:製造現場と飲食現場の「認識ズレ」とは何か
製造業と飲食業——日本の産業を支えるこの二つの現場は、表面上は全く異なる業界にもかかわらず、実は密接な関係性を持っています。
調味料や食材、包装資材から調理機器、さらには物流まで、製造現場が供給し、飲食現場が受け取るサプライチェーンが複雑に絡み合っています。
しかし、両者の間ではしばしば「認識ズレ」が起こります。
この「認識ズレ」は発注ミスや納期遅れ、品質基準の食い違い、コミュニケーションのすれ違いを生み、現場の混乱やコスト増加、最悪の場合はビジネスチャンスの逸失につながります。
20年以上にわたり工場現場で調達購買の最前線を担い、飲食業との取引も多数経験してきた筆者は、「共通言語」の重要性を痛感しています。
この記事では、製造業と飲食業の取引現場で発生する「認識ズレ」を解決するための、実践的な共通言語作りの手法と、そのために押さえておきたい業界動向を解説します。
認識ズレが生じる背景に潜む「昭和的アナログ志向」
日本の製造業には、いまだ昭和時代から続く「現場主義」と「属人的オペレーション」の文化が色濃く残っています。
特に中堅・中小メーカーでは、熟練オペレーターの経験による「口伝」や「暗黙知」に頼る場面が多く、マニュアル化やシステム化が進んでいない現場も少なくありません。
一方、飲食現場でも「現場の判断力」や「板前の勘」など、職人文化が脈々と続いています。
そのため、例えば「味の濃さ」「とろみ加減」「食感」といった感覚的な表現が多用されやすく、サプライヤーである製造現場との意思疎通で認識ギャップが起こりやすいのです。
本質的に、日本のアナログ業界は「言葉の壁」を抱えています。
それは単なる日本語の問題ではなく、感覚・経験・ローカルルールといった「見えない前提」がすり合わせきれないことに起因しています。
典型的な「認識ズレ」事例とその本質
1. 規格・仕様の曖昧さ
「もう少しコクのあるソースにしてほしい」「手元に届く時に“ちょうどいい”解凍状態で」など、飲食現場が普段使う表現はきわめて感覚的です。
しかし、製造サイドでは、「コク」や「ちょうどいい」は数値化できないため、製法や工程管理に置き換えにくいというジレンマに直面します。
結果として、製品の試作段階や量産移行前の「仕様すり合わせ」で、何度もやりとりが発生し、時間的ロスや手戻りコストが発生します。
2. 品質基準のすれ違い
工場では「自主規格書」による明確な品質管理を心がけますが、飲食現場は現物・現場主義ゆえ、「きれいに形が揃ってなくても、おいしければいい」など現実的な柔軟性も重視します。
ロスやB品について「うまく使い切るから安くしてほしい」とオーダーする飲食現場も多く、このあたりの生産側と消費側の価値観の違いもズレを生みます。
3. 納期感覚のギャップ
製造業では「週次」「月次」での生産計画・発注・納品が一般的ですが、飲食現場は「明日の予約が増えたから今日中に追加納品可能?」など、突発的・リアルタイムな対応を求める場合も少なくありません。
伝統的な製造現場にとって、アジャイルな運用は難易度が高く、「無理なものは無理」となりやすいのが現状です。
「共通言語」構築の3つのアプローチ
「認識ズレ」を最小化するには、「共通言語」を現場で浸透させることが不可欠です。
昭和的なアナログ文化が残る現場でも、ちょっとした工夫やルール策定で情報共有の精度を上げることができます。
1. 感覚表現を「数値」と「条件」に落とし込む
「コク」「食感」「柔らかさ」「とろみ」といった官能的表現を、そのまま工場現場の工程管理やマニュアルにすると、属人的管理から抜け出せません。
例えば、以下のような工夫が有効です。
– 「コク」は、「官能検査レベル基準」での5段階評価+官能検査員のコメント共有
– 「とろみ」は、粘度計測値での範囲指定(例:50-60mPa・s)
– 「ちょうどいい解凍状態」は、表面温度×中心部温度、ドリップ量で具体的数値化
こうした「数値⇔感覚」対応表は、商品開発・切り替え時に必ず関係者で持ち寄り、Excelや紙ですぐ参照できる「共通資料」にしておくべきです。
2. 「伝票レス」コミュニケーションと現場見学
昭和的には電話・FAX主体で、「伝票がないと仕事が進まない」現場も多いのが実情です。
が、本音を言えば、伝票自体は表面的な「約束事」であり、本当は「現物確認」や「現場体験」にまさる情報伝達法はありません。
サプライヤー担当者は、取引開始時や仕様変更前に「お客様の現場」に必ず足を運び、実際の使われ方・温度・分量・動線など「5感で感じる情報」をチーム全体で共有します。
「納品した後の現場」で何が起こっているかを実地で体験することで、無意識のズレを大幅に低減できます。
3. ITを活かした「現場間ダイレクト連携」
近年、Web発注システムやIoT機器によるリアルタイム情報共有ツールが広まりつつあります。
「納期」「生産進捗」「現地在庫」などを、LINEワークスやSlack、独自アプリで即時共有できれば、突発的な増減産や在庫トラブルも事前予防が可能です。
ただ、「システム嫌い」「アナログ信仰」の現場も根強いので、まずは紙・Excelでの日報や現物写真、倉庫温度の定期レポート送付など、現場が手間なく続けられる「スモールスタート」から始め、徐々にデジタル化の敷居を下げるのが現実的です。
共通言語作りの現実的ステップと必要な視点
強い共通言語が根付く現場には、以下のような特徴があります。
– 上位管理職が主導し、「バリューチェーン改善」の一環として明記する
– 現場の青年技能者やパートさんにまで、具体的な成果・リスク事例を共有し、「参加意識」を持たせる
– お互いの「失敗談」や「困りごと」を率直に話し合える関係構築を第一義にする
特に重要なのは、「おたがい主語」の姿勢です。
サプライヤーは、「飲食現場で今日困っていること、こうしてほしい要望」に深く共感し、バイヤー(仕入責任者)は「工場の技術的制約・品質維持の難しさ」にも理解を示す。
一方的に「要求する」「断る」ではなく、「一緒に現場を強くしていきましょう」という共創視点がポイントです。
バイヤー・サプライヤー双方に役立つ「現代の目線」
バイヤー側(飲食の仕入担当者)は、「納品の効率化」や「歩留まり向上」だけを求めるのではなく、サプライヤーの現場事情や品質維持の難易度も知っておくべきです。
一方、サプライヤー側(製造・調達)は、「現場の気持ち」を想像し、「なぜ・いつ・どのように使われるか」まで掘り下げる力が求められます。
これからの「現場改善」には、こんな観点が求められます。
– DX(デジタルトランスフォーメーション):帳票レス、ペーパーレス化、リアルタイム可視化
– SDGsへの適応:「廃棄ゼロ」や「フードロス削減」など新しい価値観の反映
– 多文化・外国人スタッフとの共通ルール化
– コロナ禍以降の「対面しないコミュニケーション」の工夫
自分の現場だけで完結せず、「相手現場の現実」「業界構造の変化」をラテラルシンキングで多角的に考えることで、既存の発想から一段高い“新たな地平”が見えてくるはずです。
まとめ:新しい“言葉”で、強い現場をつくる
製造業と飲食業の「認識ズレ」は、互いの現場に根付く歴史的背景や文化の違いからくる“言語化しきれない壁”のおかげで、今なお全国津々浦々に残っています。
しかし、数値と言葉の合わせ技・現地現物の体験・紙からデジタルへの一歩——ちょっとした意識の変革で、今日から「共通言語」は現場に根付き始めます。
失敗やすれ違いも「現場ヒント」として活かし、全体最適と現場最強を両立する新たな価値創造の土壌を、ぜひあなたの現場にも広げてください。
誰よりも「現場」を知るあなたの一歩が、未来の製造業を変えていきます。
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