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問題解決力を磨くクライシスマネジメントと代替技術発見演習

目次
はじめに:製造業におけるクライシスマネジメントの必要性
製造業では、常に思いもしないトラブルや危機的な状況に直面することがあります。
高度に自動化された現場であっても、予想外の設備故障、人手不足、資材調達の遅延、不良率の急上昇などの「クライシス(危機)」は避けられません。
こうした事態への迅速な対応力、すなわち「クライシスマネジメント(危機管理)」の有無が、現場のパフォーマンスと企業価値を大きく左右します。
実際、私が20年以上にわたりさまざまな工場現場に身を置いてきた経験からも、平時の仕組みづくりと同じくらい「有事の対応力」は重要であり、その根底には問題解決力=ラテラルシンキングが求められます。
昭和の価値観が色濃く残る製造業界においても、現場が自力で「最悪のシナリオ」に備え、未知のトラブルを突破するスキルは今後さらに必要とされるでしょう。
本記事では、製造業における具体的なクライシスマネジメントの実践的手法と、「代替技術発見」のための演習的アプローチを現場目線で解説します。
クライシスマネジメントとは何か
危機的状況の定義と特徴
クライシス、つまり「危機」とは、自社の正常運営が脅かされ、損失や信用失墜につながり得るあらゆる事態を指します。
製造現場では、主に次の4つのタイプに分類できます。
– 設備故障やライン停止など技術的トラブル
– 供給不足による生産遅延や材料枯渇
– 異常な品質不良やリコール案件の多発
– 災害・事故・人員離脱といった外的インパクト
これらの「危機」は、年中行事のように必ず発生します。
重要なのは、「いつ訪れるか分からない」ではなく、「必ず何らかの形でやってくる」という前提で日々を設計することです。
日本の製造業が苦手とする「突発事態」への構え
日本の工場は緻密な生産計画や手順書化には世界的な強みを見せますが、「想定外」に弱い側面があります。
昭和から続く現場文化には、「前例通り」「前任者のやり方踏襲」が根付いており、マニュアル外の事態には萎縮しがちです。
一方、世界的なサプライチェーン競争下で生き抜くためには、前例のない事態に「自ら考え、最善策を発見し、行動できる力」が不可欠です。
この力こそ、クライシスマネジメントの核となる「問題解決力」です。
問題解決力を鍛えるためのラテラルシンキング
ロジカルシンキングからの脱却
これまでの現場改善やトラブル対応では、決められた手順に沿って「ベストプラクティス」を追求するロジカルシンキングが重用されてきました。
しかし、予測不能な事態にはこのアプローチだけでは通用しません。
なぜなら型どおりの答えがそもそも存在しないからです。
そこで取り入れたいのが「ラテラルシンキング(水平思考)」です。
既存の枠組みを一度リセットし、過去の経験や関連しそうな知識から新たな解決策を発見する――
いわば「今ある資源・制約条件の中で、意外な方法で突破口を切り開く」発想法です。
現場で役立つラテラルシンキングの実例
現場で役立つ一例として、「三現主義」を発展させる考え方があります。
– 現場:トラブルが実際に起きている場所へ赴く
– 現物:不具合品や停止した機械を直接観察する
– 現実:当事者・関係者・作業記録など、生の情報を集める
この“三現”に加えて、
– “現有技術”を活かす
– “現行ルール”を一時的に外してみる
– “現状の人員”を再配置で柔軟運用する
など“今ある資源”の組み合わせで突破策を思案します。
たとえば、緊急時に部品欠品でライン停止が迫った際、似た特性の材料を他ラインや他工場在庫から転用したり、熟練者に急きょ多能工化を依頼して応急体制を作ったケースも、現場でよくある“ラテラル思考”の好事例です。
代替技術発見演習:現場主導で選択肢と突破力を生み出す
なぜ「別解」を考える訓練が必要か
突発トラブル時、現場はどうしても「これしかない」「他はムリ」という思考停止に陥りがちです。
ですが、少数精鋭・多能工化が進む今日の日本の製造現場では、こうした「別案発見力」「代替案創出力」がますます重要になっています。
そのためには“現場で答えを出す”積極的な思考訓練=「代替技術発見演習」が有効です。
演習例1:部品供給遅延への多面的対処法
たとえば部品納入の遅れが発生したケース。
– まずは他現場の代用品を抜き出す
– 自社加工や修理で部品再生できるか技術者と協議
– 物流部門と連携しルート変更や臨時輸送を手配
– 生産計画を“逆引き”で再編成し重要工程の進捗を死守
こうした対策案を“洗い出し→優先順位付けして意思決定”するプロセスこそ、クライシスマネジメントのコアです。
演習例2:品質異常発生時の現場判断「STOP or GO」
突如として良品率が激減した場合。
– 不具合の混入工程を短時間で絞り込む
– 作業者とのヒアリング、写真記録で異常の特定
– 原因が分からない場合には、一部ラインの強制ストップを現場権限で判断
– 検査要員を一時配置転換して“全数検査”体制へ切り替え
「止める」「流す」の判断材料と、速やかな現場意思決定力が優先されます。
演習例3:人員不足時の生産維持対策
急病や退職などで人員が急減した際。
– 多能工者を緊急シフトで要所に再配置
– 外部応援(グループ内・協力会社からの派遣)を即座に組み込む
– 工程統廃合や省人化レベルで生産維持をはかる
これも、常日頃から“現場の多能工マップ”や、“工程ごとの最小運用人数”を見える化し、クライシス時には慌てず意思決定できる訓練成果によります。
「使える演習」と「属人化回避」の工夫
現場主導で演習を習慣化するためのポイント
演習といっても、机上の空論になれば実効性はありません。
昭和的なトップダウンではなく、現場主導で“自分ごと”として取り組むための工夫が重要です。
– 現実に遭遇した過去トラブル事例を素材に使う
– 異なる職種(技術・生産・購買・品質)混在チームで演習を行う
– 意見出しに年次や立場の壁をつくらない
– 解決策の採点より「どれだけ多様な案が出せたか」にフォーカスする
属人的な「カリスマ現場リーダー」によるワンマン決裁ではなく、“仕組みとして現場全体の突破力”を養うのがポイントです。
「仕組み化」することで昭和のアナログ現場も変わる
クライシス対応力を属人化せず企業文化とするために、以下のような「可視化」と「反省・改善のサイクル」が不可欠です。
– 過去のトラブル発生事例や対応策を「クライシス事例ノート」として全員共有
– 定例の現場MTGやミニ勉強会でロジックツリーや代替案演習
– クライシス時の反省点・打ち手の“良かった点/次回の改善策”を記録・蓄積
– 一度出たアイデアや対応策は“棚卸しノウハウ”にして次世代へ
このように、「毎回ゼロから考える」ではなく、ナレッジと応用力の両方を高める運用がカギです。
まとめ:競争力の源泉は「現場の突破力」
グローバル化でますます突発事態が多様化・多発する現在。
そのたびに本社の指示や外部リソースだけに頼っていては、現場の即応力・回復力は養われません。
製造業現場で本当に求められるのは、「自力で突破する現場の問題解決力」と、それを継続的に鍛えていける“仕組み化”です。
クライシスマネジメントと代替技術発見演習――この両輪を日常業務に根付かせるほど、現場は強靭になり、サプライヤーもバイヤーも新しい時代の課題を突破できます。
現場で悩みながらも未来を切り拓きたいすべての方へ――
ぜひ一度、ご自身や自社工場で「実践的なクライシス演習」を始めてみてください。
現場こそが、製造業のイノベーションの源泉であることを改めて実感できるはずです。
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