投稿日:2025年7月5日

切削高効率化のための切りくずバリ油剤選定とトラブル対策

はじめに:製造現場における切削効率化の重要性

製造業の現場において、切削加工の効率化は永遠の課題です。
コスト競争が激化する中で、より品質の高い製品を、より安定的に、より早く、より安全に生産することは、現場に携わる全ての人にとって最大の関心事となっています。
とりわけ、切削バリの削減や切りくずのスムーズな排出、適切な油剤の選定と管理は、稼働率向上やトラブル低減に直結する最重要テーマです。

この記事では、現場目線で培ったノウハウを基に、昭和から続く“アナログ的常識”に新たな視点を加えながら、切削高効率化へ向けて現実的かつ効果的なアプローチを解説します。

なぜ今「切りくず」「バリ」「油剤」に着目するのか

切削加工では、素材・工具の進化とともに自動化技術も普及が進んでいます。
しかし、実際の現場では、依然として「切りくず処理」「バリ取り」「油剤管理」のわずかなミスが品質不良やトラブルの温床とされています。

多くの現場で、「油剤の銘柄は昔から変えていない」「バリは手作業の脱バリ員任せ」「切りくず処理はオペレーターの経験が頼り」といった昭和的な運用が当たり前になっていませんか?
こうした“決まりきった風景”のままでは、生産性向上や省人化、トラブルの削減には限界があります。

ここを突破するためには、「切りくず」「バリ」「油剤」という3つのテーマに、最新の知見と現場の課題感の両面から深く切り込むことが欠かせません。

切りくず・バリ発生のメカニズムとその対策

切りくず発生の基本知識

金属や樹脂を加工する際には、必ず「切りくず」が発生します。
理想的な切りくず形状は「小さく・短く・流れやすい」ものですが、材料や工具、加工条件によっては、長く連続した切りくず(ナガクズ)や、細かく絡みやすい切りくずが大量に発生し、トラブルの元となります。

この切りくずが適切に処理されないと、
・工具折損やワーク傷の発生
・自動搬送装置への巻付き
・コンベア詰まり
・作業者の怪我
など、広範な問題が現場に生じてしまいます。

バリの発生とトラブル

さらに、切削後に残る「バリ」も、組立や後工程に深刻な悪影響を及ぼします。
バリの大きさや発生位置により、検査工程での不良判定、組立不良、相手部品との干渉や破損、さらにはエンドユーザーでのクレームなど、直接的なリスクになります。

切りくず・バリ対策の実践ポイント

1. 工具選定の見直し
 - 最新のコーティング工具や、バリ発生を意識した工具形状の選定
2. 加工条件の最適化
 - 切削速度や送り、切込み量の選定
 - テーブル回転など複数要素を同時に変えて確認
3. 加工方向・パスの工夫
 - 逆送りや順送り方向の選択
 - スキマ寸法や逃げ加工の活用
4. 新技術の導入の積極検討
 - バリレス加工機、エッジプレーニング、ウォータジェット加工など

現場では小さな工夫の積み重ねや、定期的に条件を見直すことが大きな成果につながります。

油剤の役割と選定ポイント

切削油剤の主な機能

切削油剤の役割は大きく「潤滑」「冷却」「切りくずの排出促進」「工具・設備の防錆」とされています。

特に近年注目すべきは、切りくず排出促進による加工効率の向上と、工具寿命やバリ発生への影響です。
適切な油剤を選択し、供給方法も管理できれば、その差は驚くほど生産性・品質の両面に現れます。

油剤選定の最新事情

昭和~平成の現場では、「とりあえずエマルジョン(乳化油剤)」が定番でしたが、現代では様々な進化系油剤が投入されています。
高圧切削用の合成油、微粒子フィルタリングに強いタイプ、環境負荷の低減を狙った無公害型なども登場し、「なぜこの油剤を選んでいるのか?」をデータで説明できる現場こそ強いです。

油剤メーカーとの連携や、加工サンプルによる“見える化評価”など、調達バイヤーと現場の橋渡しこそが、地味ながらも大きな武器となります。

油剤供給方法にも注目

近年普及が進む「MQL(ミスト)」などの少量潤滑技術は、切りくず排出性に優れる一方、管理や初期投資がネックになりがちです。
また、過剰な量を供給する「オーバーフロー式」は切りくず排出には有効ですが、油剤コストや廃液処理、生産ラインのクリーン保持が課題になります。

現場の工程やコスト制約に照らし、「どのポイントにどんな方式を採用するか」を再度検証してみましょう。

現場のトラブルとその解決策

よくあるトラブル事例

・突然の切削バリ増加で不良品率が上がった…
・切りくず詰まりで設備が頻繁に停止する…
・油剤の腐敗臭やスライムの発生で環境トラブルに…
・新しい油剤に切り替えたら工具寿命が逆に短くなった…

一見偶発的に思えるこうしたトラブルも、原因を突き詰めると
・設備や工具の磨耗
・加工条件の変動や設定ミス
・油剤管理(希釈、濃度、ろ過、交換など)
・外部環境(温度、湿度、粉塵など)
に依存することがほとんどです。

現場で実践する解決の流れ

1. 不具合の見える化と記録
 - どこで・いつ・どんな現象が出たかを具体的に写真や日誌で残す
2. 変化点・兆候の洗い出し
 - 設備交換や材料ロット変更、外部要因の有無
3. 原因の仮説→実験で検証
 - 少しずつ条件を動かし再現性をチェック
4. メーカー・商社との協働
 - バイヤー調達観点での情報入手、他社トラブル事例の収集
5. 対策の標準化と展開
 - 現場の暗黙知をデータ化、他工程へ横展開

昭和スタイルの“ベテラン担当者頼り”から、属人化を減らす仕組みが今このタイミングで求められています。

バイヤー視点・サプライヤー視点からのチェックポイント

バイヤー視点での「効率化製品」の選び方

1. 実データを基にした改善効果
 - 工具寿命、バリ減少、生産タクト改善の「数値化」で社内稟議もスムーズ
2. 価格だけでなくLCC(ライフサイクルコスト)で比較
 - 安価な油剤や工具でトラブルコストが増えては逆効果
3. アフターサービス・提案力も重視
 - 現場に入って全体最適を一緒に実現するパートナーの活用
4. SDGs/EHS(環境・安全衛生)対応の視点も加える

サプライヤーからはこう見える!

現場へ本当にフィットする提案・工具・油剤を届けたいとサプライヤーは考えています。
しかし、シビアなコスト競争や、“現状維持バイアス”が根強く、なかなか新製品が現場に入らないのが実態です。

「なぜ現場が動かないのか?」の真因を深掘りし、口だけでない現場データや改善事例をバイヤーと現場に共有すること。
また、教育や啓蒙活動への参加、実演会などで意識の土台を耕すことも、サプライヤー側の差別化につながります。

デジタル化と現場知恵の融合で新時代を切り拓く

切りくず・バリ・油剤の高効率化は、現場の地道な観察とPDCAによる改善が基本です。
そのうえで、設備データの自動取得やAI解析による異常検知、遠隔モニタリングによる油剤管理や歩留まり判断など、“デジタル”を活かした高度な運用が今後ますます拡大します。

しかし「デジタルで全てが解決」と思い込むと、大事な現場の勘や微細な変化の察知が失われがちです。
アナログ現場の声を集めて“デジタルにフィードバック”し続ける。
この往復運動こそが、脱・昭和を実現し、真の高効率化に到達する近道といえるでしょう。

おわりに:高効率化は一歩踏み出す勇気から

切削高効率化のための切りくず・バリ・油剤の見直しとトラブル対策は、決して派手さのない地道なテーマです。
しかし、この一歩一歩の積み重ねが、製造現場の生きた競争力となり、日本のものづくりを支える大きな柱となります。

「変えよう」とする意志をもったバイヤー、現場担当者、サプライヤーが、一つの現場課題をきっかけに強くつながり、変革を生み出していく。
そんな実践的な現場改善こそが、これからの製造業の生きる道です。

目の前の“当たり前”を問い直し、小さなトライを重ねることから、あなたの高効率化の歩みをぜひ進めてみてください。

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