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データを蓄積したものの活用方法が分からず形骸化してしまう問題

目次
データを蓄積したものの活用方法が分からず形骸化してしまう問題
はじめに ― データ蓄積の「罠」に陥る現場
近年の製造業では、IoTやセンサー機器の導入が進み、現場のあらゆる工程で大量のデータが日々蓄積されています。
しかし、多くの現場から聞こえてくる本音は「結局、集めただけでどう活用すべきかわからず、すぐに形骸化してしまう」というものです。
これは、私が工場長や生産管理部門、調達・購買部門を経験する中で、実際に感じてきた最も大きな課題の一つです。
本記事では、製造業現場におけるデータ活用の難しさや現状、昭和から続くアナログ文化の根強さを背景にしつつ、実際に現場で役立つ考え方、そして今後の新たな地平線を共に切り拓く手法を具体的に提案します。
データ活用が形骸化する理由を現場目線で分析
1. 目的なきデータ蓄積 ―「集めること」がゴールになってはいないか
データを集めること、それ自体が目標化してしまい、「なぜ集めるのか」「何のために活用するのか」が曖昧な現場は多いです。
例えば、歩留まり改善や設備稼働率向上のためにセンサー導入を行ったものの、「取りあえず全部ログを残しているだけ」で終わっていないでしょうか。
本来、データ蓄積は“あるべき理想の姿”や“解決したい現場課題”から逆算されるべきです。
ここを押さえないと、集めたままブラックボックス化し、誰も手を付けなくなってしまいます。
2. データの“見える化”はできても“活かし方”の設計が甘い
近年の工場では、ダッシュボードでリアルタイムに数字やグラフが「見える化」されることがゴールになってしまう場面も多いです。
しかし、表示された数字を前に「で、どうする?」と現場担当者が戸惑う場面は珍しくありません。
データを“活かせる”設計、すなわち「異常値が出たときどうアクションを起こすか」「どの数値をどの現場改善指標として使うか」のルール作りが、昭和以来の慣習と現代システムの間で宙ぶらりんになりがちです。
3. アナログ文化の強い現場とのギャップ
製造業には、紙と鉛筆、現場の“カンコツ”に強く依存する文化が今なお根強く残っています。
ベテランの現場担当者が「データより体感」「数字じゃわからないことも多い」と語る現場では、せっかく導入したシステムが“使われずにアンタッチャブル”という昭和的な悪循環も目立ちます。
このアナログ文化とデジタル化のギャップこそ、データ活用が形骸化する最大の要因ではないでしょうか。
現場で形骸化させない!データ活用の新地平へのアプローチ
1. データから「仮説」を立てる現場思考力の養成
データとは、単なる数字やグラフの集合ではありません。
重要なのは、そこから「なぜこの数値になったのか」「どこに本当の異常が隠れているのか」といった“問い”を立てる力です。
現場担当者自身がデータのアップデートを“自分事”とし、「仮説→データ検証→現場改善」というPDCAサイクルの中心に立てるような教育・仕組み作りが不可欠です。
例えば、不良品率が一定値を超えたとき、そのタイミングと機械・オペレーターの記録を突き合わせ「何が原因だったのか?」という仮説を全員が議論し、原因追及をする場を設けます。
このように、データ活用の習慣が現場マインドとして根付くことで、“数字のための数字”から“価値を生む数字”へと変わります。
2. 現場だけで終わらせない、経営層と現場が密接に連携したKPI設計
経営層、部門長、現場オペレーター、それぞれの視点で「本当に意味のあるデータ」を絞り込むことがポイントです。
よくありがちなのは「全部集めてみて、あとで重要なものを選ぼう」という思考ですが、これは管理工数を拡大させ、形骸化を加速させます。
経営層から現場へのトップダウンだけでなく、現場の「使いやすさ」や「分かりやすさ」を尊重しながら、目的を絞ったKPI(重要業績評価指標)の再度合意をおすすめします。
これによって、現場の“実感”と経営陣の“意思決定”がデータを媒介にして一体化しやすくなります。
3. バイヤー/サプライヤー視点で考える、データ資産の“武器化”
調達・購買やサプライヤーとの関係においてもデータ活用はなし崩しになりがちです。
「納期遵守率」「品質異常発生頻度」などサプライチェーン全体でのデータ共有が形だけで終わるケースも少なくありません。
これを武器に変えるために必要なのは、相手(バイヤー側/サプライヤー側)の立場・目的を深く理解することです。
例えば、サプライヤーであれば「どんなデータをバイヤーが重視しているのか」「数値が動いたとき、バイヤーはどんなアクションを期待しているか」まで想像することで、“ただ出して終わり”のデータを“信頼獲得・商談好転を生むツール”に変えられます。
バイヤーの立場でも「このデータは購買戦略上、どの局面で活かせるか」「今の仕入先選定基準に本当に合致しているか」など、社内外のコミュニケーション材料として活用できます。
4. 「昭和的カンコツ+デジタル」のラテラルシンキング
昭和的な“現場勘”や“コツ”が完全否定されるべきではありません。
むしろデジタルデータだけでは見抜けない工程の妙や、小さな違和感など、現場の五感が新たな課題の「発見装置」になり得ます。
ラテラルシンキング的発想(水平思考、すなわち型にとらわれず多角的に物事を見る力)を持って、「データ」と「現場勘」の両輪で課題を掘り下げることで、より本質的かつ画期的な改善案にたどり着けるのです。
例えば、ある日突然わずかに異なる音を発した機械を、ベテラン作業員が瞬時に検知し、そこからデータ異常の履歴を遡ることで、定量×定性の両面からアプローチできます。
データ活用の成功事例と今後の可能性
1. 大手自動車部品メーカーの成功例:現場発案によるデータ活用プロジェクト
某自動車部品メーカーでは、生産ラインのデータ異常検知に対し“止まらない現場”という文化が強く、数字の形骸化が進んでいました。
そこで現場サイド発案で、「異常が起きたとき誰が何をするか」「データ異常通知を受け取った現場管理者は翌日集めた会議で必ず議論し記録する」という新ルールを制定。
これにより、問題発生時のPDCAスピードが5倍向上し、年間不良率は20%も低減しました。
2. 素材メーカーの調達購買部門:データ共有を信頼関係構築のツールに
サプライヤーとのQC工程表やトレーサビリティデータの共有を「ただ見せるだけ」から、「不良品を発見した後の再発防止策報告データ」まで一緒に数値化・運用するルールに変更。
「何のためのデータか」という設計思想の転換によって、リコール・納期遅延の発生率が激減したという事例もあります。
3. AI・機械学習の新潮流と現場力の融合
AIや機械学習によるデータ解析が入ってきた現在も、そのポテンシャルを最大化できるか否かはやはり現場の「使いこなし力」にかかっています。
AIが吐き出す“異常値”を現場サイドが素早く察知・確認し、「なぜ起きたか」を考察することではじめて、AI=現場知=経営判断が一体となる次代が切り拓けるのです。
まとめ ― データを“活用資産”として進化させるために
「データ活用の形骸化」問題は、単なるIT化やDX推進とは異なり、組織カルチャーそのものに根差した問題です。
だからこそ以下の視点が大切です。
- 目的やKPIの再設計による“現場共創”
- 現場自らがデータから問いを立て、「仮説検証サイクル」を回す社風
- バイヤー・サプライヤー双方の視点で自社データ資産を「武器」へ進化
- 昭和的現場感覚とデジタル知をラテラルシンキングで融合
製造業の進化とは、最新テクノロジー導入のみならず、現場の知恵と経験がデータと化学反応を起こし、はじめて真価を発揮します。
データを「集めただけ」で終わらせず、現場の誰もが主体的に使い倒し、改善・改革を生み出す“新たな地平線”に踏み出してみてはいかがでしょうか。
製造業に携わるすべての皆さんの現場で、データが“生きた資産”として花開くことを心から願っています。
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