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摩擦摩耗試験で潤滑油機材を評価する設計応用ガイド

目次
はじめに:摩擦摩耗試験の現場的意味
製造業の世界では、目に見えない摩擦や摩耗が機械のパフォーマンスや寿命を大きく左右します。
特に潤滑油や潤滑機材は、その役割が密接にもかかわらず、実際の現場では「とりあえず標準品で」という選定も多く、昭和時代から変わらない習慣が根深く残っています。
しかし、グローバル競争が激化し、設備の長寿命化やメンテナンスコストの低減が求められる現代では、単なるカタログスペックに頼らず、摩擦摩耗試験を通じた実践的な性能評価が重要になっています。
この記事では、摩擦摩耗試験を活用して潤滑油・機材を現場でどう選定し、その結果を設計や調達、バイヤー活動にどう活かすかを実践的にガイドします。
バイヤー志望の方やサプライヤーも、顧客の求める「真の価値」に近づくヒントが得られるでしょう。
摩擦摩耗試験とは:概要と主な試験方式
摩擦摩耗試験の意義
摩擦摩耗試験は、潤滑油やグリース、ベアリング材などが実際にどの程度摩擦を軽減し、摩耗を防ぐかを定量的に評価する試験です。
これは、JISやASTMなどの規格で規定された装置(ボールオンディスク、ピンオンディスク、四球法など)によって、一定荷重・スピード下で摩擦係数や摩耗体積、変色、表面損傷を測定します。
この試験により、現場で求められる「長持ち・壊れにくい」機械設計の裏付けデータが得られます。
代表的な試験の種類
1. 四球摩擦摩耗試験(Four Ball Test)
複数の潤滑油の比較や、極圧性能、摩耗防止性能の評価に広く使われます。
上から押される1球と下の3球の接触部で潤滑条件を再現、摩耗痕の径などで性能を判定します。
2. ピンオンディスク試験
対象の金属やコーティング材の摩擦係数、摩耗量を評価します。
回転するディスクと押し付けるピンとの間で試験を行うことで、摩擦力の変化と摩耗量を可視化します。
3. SRV試験機
往復摺動条件下の摩擦・摩耗を評価できます。
自動車部品、油・グリース評価など、実環境を模した応用性が高い試験です。
昭和のやり方では「後回し」にされがちですが、具体的なデータに基づいた選定こそが現在のグローバルスタンダードになっています。
潤滑油・潤滑機材の性能評価と選定基準
現場で重視すべき評価ポイント
カタログ値の動粘度や侵食点、蒸発量などは参考情報に過ぎません。
実際は試験による以下3点が重要です。
– 摩擦係数(滑りやすさ=エネルギーロス低減)
– 摩耗量(パーツの寿命=コスト低減)
– 焼き付き限界(異常過負荷時の耐久性)
たとえば高荷重条件で使うギヤ油なら、摩擦係数の低さよりも極圧性能や摩耗痕の状態を重視すべきです。
こうした試験データがない場合、現場での“当たり外れ”が頻発し、品質トラブルやメンテナンスコスト増加につながります。
採用時のチェックリスト
1. 現場の温度・荷重・速度条件と試験パターンの適合性
2. 長期運転後の摩耗・変質の再現(長時間試験)
3. サプライヤーごと同一規格の横並び比較
特にバイヤーや調達担当の場合、「過去実績」や「カタログ値」だけで潤滑油・機材を選ぶことがコスト増加や想定外停止に直結するため、エビデンスに基づく説明責任が求められます。
また、摩擦摩耗データは設計変更の際にも重要な根拠となるため、定期的なデータ記録と第三者試験の活用が不可欠です。
設計、調達、サプライヤーのための実践的運用法
設計段階での摩擦摩耗データ活用
設計現場では、現実的な耐久性やメンテナンス頻度を見積もるため、CADやCAE解析だけではなく、摩耗試験の「実測値」を反映することが有用です。
例えばスライド部や軸受部の素材・表面処理を選定する際、材料メーカーの摩耗試験データと自社の実機模擬試験データを並行活用することで、ライフサイクル全体でコストメリットが得られます。
このプロセスを通じて「材料費」だけではなく「メンテナンス頻度」「停止リスク」を算定し、経年劣化に強い設計が可能となります。
バイヤー視点での摩擦摩耗試験の意義
従来、日本のバイヤーはコスト低減やサプライチェーン安定化を重視してきましたが、海外取引やESG要件への対応が厳格化する今、調達品の「長寿命」「省エネ性能」「LCA(ライフサイクルアセスメント)」という点が重要になっています。
摩擦摩耗試験データは、これら新たな調達ポリシーの裏付け、および新規サプライヤー評価の際にも有効です。
カタログに書かれていない領域まで“見える化”することで、「使ってみないと分からない」から「選定段階でリスク回避」が可能となります。
サプライヤーとバイヤー、現場の認識ギャップを埋める
意外と多いのが、営業やサプライヤー側が「JIS規格をクリアしている」というだけで、顧客ニーズに深く踏み込まないケースです。
一方でバイヤー側も「とにかく安く」と表面的な要求に終始しがちです。
摩擦摩耗試験のデータを基に、たとえば「本機種の運転パターンで想定荷重下の損耗量データを提出してください」と依頼することで、現場→バイヤー→サプライヤーの三者が同じテーブルで「真に求められる性能」のすり合わせが可能です。
ひと昔前の“物言わぬ商談”から、データドリブンな意思決定への転換こそ、アナログ業界が脱昭和を果たす大きな一歩です。
業界動向:DX時代の摩擦摩耗試験
IoT・DXで変わる試験評価
最近は摩擦摩耗試験機もIoT化が進み、リアルタイムでのデータ取得やAIによる異常検知、ビッグデータ解析が可能となっています。
製造現場で収集した実運転データとラボ試験を連携させることで、従来の“点”での評価が“線”や“面”へと広がっています。
たとえばオンラインモニタリング技術と組み合わせることで、「摩耗の予兆段階」を事前に把握し、設備寿命を最大化できる環境が整いつつあります。
グローバル化と規格対応
海外工場やサプライヤーとの連携では、ASTMやISOなど国際規格に準拠した摩耗試験データが求められます。
「国内で通用するから大丈夫」という時代は終わり、グローバルな第三者試験機関との連携や、英文レポート対応力も選ばれるサプライヤーの条件となりつつあります。
最後に:現場から未来へつなぐ摩擦摩耗試験の役割
摩擦摩耗試験の真価は、“トラブルが起こってから”ではなく、“設計・調達・現場の全段階でリスクを予測し回避する”ためにあります。
デジタル技術が進展する今こそ、摩擦・摩耗というアナログな現象に科学的アプローチを融合し、QCD(品質・コスト・納期)を最適化することが求められています。
今後、製造業界が新たな地平線を切り拓くためには、現場・設計・調達・サプライヤーが一丸となり、摩擦摩耗試験を共通言語とする文化が不可欠です。
ぜひ、現場の小さな一歩からデータ主導のものづくり改革を始めてはいかがでしょうか。
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