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投稿日:2025年4月18日

ミリ波アンテナの設計手法と車載ミリ波レーダの高機能化のための高周波応用技術

はじめに―車載レーダを支えるミリ波アンテナの現在地

自動運転レベル2+が量産車へ搭載されはじめ、77GHz帯ミリ波レーダはもはや高級車だけの専売特許ではなくなりました。
死角検知、アダプティブクルーズコントロール、そして衝突回避ブレーキまで、ミリ波アンテナの性能が車両安全のボトルネックを握っています。
ところが製造現場や調達部門では「図面どおり基板を作れば動くはず」「アンテナは設計部のブラックボックス」という昭和的発想が根強いのも事実です。
本記事では、ミリ波アンテナの設計手法を現場目線で分解し、車載レーダの高機能化を実現する高周波応用技術を具体的に解説します。

ミリ波アンテナとは何か

ミリ波帯の特徴と利点

30GHz〜300GHzの電磁波を総称してミリ波と呼びます。
波長が1mm〜10mmと短く、アンテナ素子を小型にできるため、車載用途ではバンパー裏に容易に埋め込める点が大きな利点です。
また光に近い直進性をもつため、指向性を制御しやすく、距離分解能に優れます。

可視化されない課題―減衰と散乱

雨滴・塵埃によるMie散乱、樹脂バンパーの誘電損失、そしてはんだフィレット形状による反射など、設計の机上では拾いきれない減衰要因が潜んでいます。
特に77GHz帯は銅の表皮深さが約7μmしかなく、導体表面粗さの影響が顕在化します。
メッキ条件と基材選定は調達段階で握っておかないと、量産後の歩留まり低下につながります。

車載レーダが求めるアンテナ性能

解像度とビームフォーミング

高解像度を得るにはアンテナ開口面積を稼ぐことがセオリーですが、車載スペースには物理限界があります。
そこでアレイ化とビームフォーミングICが登場します。
水平±60°、垂直±10°をカバーするため、送信4素子×受信4素子のMIMO構成が一般的になりつつあります。

耐環境性と品質保証

車載規格AEC‑Q102では−40℃〜125℃の温度サイクルに加え、96時間の塩水噴霧試験が課されます。
高周波特性だけでなく、樹脂封止のひび割れ、メッキピンホールの腐食など機械的信頼性も審査対象です。
試験装置のファイナルゲートでNGを出さないには、部品点数を減らし共通化する設計思想が重要です。

ミリ波アンテナの代表的な設計手法

パッチアンテナ設計の勘所

多層プリント基板に銅箔パターンを配置する手法は量産コストに優れます。
77GHz帯では誘電率2.2〜3.0のPTFE系、あるいは低損失のRO4350Bなどが主流ですが、調達の現実は「年1万枚未満の小ロットでは材料単価が跳ね上がる」点です。
バイヤーは材料サプライヤーと長期契約で需給の波を吸収し、工場は真空ラミネータの温度プロファイルを標準化して再現性を担保します。

アレイアンテナとMIMOの最適化

素子間隔をλ/2以下(77GHzで≒2mm)に詰めると相互結合が急増します。
HFSSやCSTでのフル3D解析に加え、現場では簡易Sパラメータ治具を用いたシート抵抗ばらつきチェックが効果的です。
設計者と品質管理部門が同じKPIを共有しないと、シミュレーションと量産実測が乖離します。

導波路スロットアンテナの可能性

金属ブロックをCNC加工しスロットを設ける方式は低損失ですが、加工公差±10μmが要求されコスト高が難点でした。
近年はMIM(金属インジェクションモールディング)とマシニングのハイブリッドでコストを30%削減した事例があり、中距離レーダ向けに再評価されています。

高周波応用技術で加速する高機能化

SiGe/CMOS RFICとの協調設計

アンテナとRFICを同一基板上でコパッケージ化すると、配線長を短縮しノイズを抑制できます。
ただし、シリコン基板は損失が大きいため、LTCCやフリップチップ実装を組み合わせ、インピーダンス整合パッドで段差を制御する設計が鍵です。

AI駆動の自動チューニングとテスト自動化

高周波測定は手作業プロービングがボトルネックですが、最近はAIがSパラメータのトレンドを学習し、最適プレス量を自動決定する治具が登場しています。
これにより最終検査タクトを40%短縮、夜勤帯を無人化した国内工場もあります。
バイヤーはサプライヤー選定時に「自動テストラインの有無」を新たな評価軸に入れるべきでしょう。

購買・バイヤーが押さえるべきポイント

サプライヤ評価の新指標

1. 高周波設計者の在籍人数
2. 77GHz対応のリフロー炉と窒素雰囲気制御
3. 量産前のDOE(Design of Experiment)実績
上記3項目は歩留まり99%超を目指すうえで外せない評価指標です。

コストと性能を両立させる発注戦略

77GHz基板は発注ロットが小さいと材料歩止まりが悪化します。
そこでマルチプロジェクトウェハ発想を応用し、複数車種・複数顧客でパネルを共通化する「コンソーシアム発注」を提案します。
特許クリアランスやNDAの壁はありますが、購買主導で交渉すれば総コストを15%削減できた事例があります。

今後の展望とまとめ

2030年には短距離・中距離・長距離の三層レーダ構成が標準となり、車両1台あたりアンテナ素子数は現在比3倍になると予測されています。
ミリ波アンテナはもはや専用品ではなく、半導体同様にプラットフォーム化が進むでしょう。
設計・製造・購買の三部門が早期から協調し、ラテラルシンキングでコストと性能を同時最適化することが競争優位の鍵です。

製造現場で培ったノウハウと最新の高周波応用技術を武器に、次世代車載レーダの高機能化に挑戦していただきたいと思います。

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