投稿日:2025年12月2日

規格遵守と独自仕様の両立に悩む設計者の葛藤

はじめに:規格と独自仕様の狭間で揺れる製造業現場

製造業において「規格遵守」と「独自仕様」は、時に対立しながらも両立しなければならない大きなテーマです。
現場で経験を積んできた身から見ると、どちらか一方の要素に傾けばプロジェクトは進みやすくなりますが、最終的には顧客・市場・法令・現場技術という「多面的な要求」をすべて満たす必要があります。

特に、昭和の時代からのアナログ文化が色濃く残る業界では、「昔からこうしているから」「うちのやり方で十分」「規格なんか後回し」といった風土が根強く存在します。
しかし一方で、グローバル化やサプライチェーンの複雑化といった変化の波は、そんな現場に新たな葛藤と課題を投げかけています。

この記事では、「規格遵守」と「独自仕様」に悩む現場設計者のリアルを、現場目線で掘り下げます。
同じ悩みを持つ方、あるいは調達バイヤーやサプライヤー視点でのヒントが欲しい方も、ぜひ参考にしてください。

規格遵守とは何か――メリットと現場のジレンマ

「規格」とは何か?その意義と役割

製造業でいう規格とは、JIS(日本産業規格)、ISO、IEC、各業界団体の標準など、「設計、品質、生産方法などについての共通ルールや基準」です。
これらの規格は、「安全性」「互換性」「品質確保」「市場参入の条件」など多くの意義を持っています。

また、海外市場を見据えた場合、規格の遵守は「マーケットアクセス」の切符にもなります。
たとえば、CEマークやUL規格への適合は、欧米への輸出を目指す製造業には欠かせません。

規格遵守のメリット

1. 製品の信頼性向上
2. 取引先とのトラブル減少
3. 認証取得によるブランド力アップ
4. 世界標準化によるコスト削減・部品共通化
5. 他社との比較検討や市場拡大へのスムーズな移行

これらは調達バイヤーやサプライヤーにとっても大きなメリットです。

現場でのジレンマ――「規格の縛り」に苦しむ設計者

こうしたメリットの一方で、設計者・現場担当者は「規格による制約」に悩まされることが少なくありません。

– 「規格の範囲内では、顧客の期待する性能が実現できない」
– 「標準品を使うと、自社独自のノウハウや差別化ができない」
– 「規格への適合試験や各種文書作成に手間とコストがかかる」
– 「規格改定への追従が業務を圧迫する」

こうした悩みは特に、ニッチ市場や特殊顧客向けの製品開発、OEM・ODM案件などで頻発します。

独自仕様にこだわる理由――顧客志向と競争力の源泉

独自仕様の誕生背景

なぜ現場では「規格から外れる」独自仕様が求められるのでしょうか。
その理由は大まかに2つ、「顧客ニーズ」と「差別化・付加価値の追求」です。

– 一品一様のカスタマイズ要求(大型設備・BtoB機械などに多い)
– 特定業界・用途で圧倒的な差別化を図る必要性
– 既存ラインや歴史的経緯(先輩社員や顧客との約束)による独自の技術積み上げ

現場の設計者は、「お客様の言うことが最優先」という現場精神と、「商売としての独自ノウハウ蓄積」の間で、独自仕様を自然と志向する構造になってきたのです。

独自仕様のメリットと現場のプライド

– 顧客が本当に満足する「100%ジャストフィット」なものづくり
– 競合にマネできない細やかなノウハウ(技術・現場対応力)
– 顧客との人的ネットワークが強化される
– 営業的にも「価格より技術」で受注を優位に運べる

こうした誇りが、昭和的な製造業の粘り強さや「現場力」にもなっています。

規格遵守VS独自仕様――現場を悩ます3つのリアルな葛藤

1. コストと品質の「せめぎ合い」

規格に合わせれば部品や工程を共通化でき、結果的にコストダウンにつながります。
しかし独自仕様が増えると、どうしても「部品点数増」「小ロット対応」「個別管理」のコストがかかります。

そればかりか、現場での不慣れな作業や、属人的な品質管理によるミスも増えがちです。
「標準化せよ」と管理層が口うるさく言う理由もここにあるのです。

2. 調達・サプライヤーマネジメントでの難航

独自仕様のために調達する部品、しかも「うち仕様」にしか使われない部品は、バイヤーにとっての天敵です。
現場バイヤーからすれば、「量産品なら安く調達できるのに……」「他社と同じものならサプライヤ―も選びやすい」という本音は尽きません。

逆にサプライヤーも「御社専用だけでは割高になります」「標準品使用を」と交渉を持ちかけてきます。
これが全社横断のコストダウン活動やBOM(部品表)統合の鉄板課題ともなります。

3. 法令(コンプライアンス)と技術計算の狭間で苦悶

例えば電気系設計なら、安全規格や環境規制(RoHS、REACH等)への対応が厳しさを増しています。
独自仕様で顧客要求を満たしつつ、法令や認証試験でも合格ラインに載せるという作業は、設計者・品質保障・現場管理まで一丸となった取組みが不可欠です。

現場には「どうせ監査も来ないし規格は建前だけ」と茶化す声も残っていますが、実際に大手顧客や認証機関の抜き打ち監査でヒヤリとした…という経験を持つ現場管理職は多いものです。

昭和から続く「現場流儀」と令和の業界トレンド

昭和的アナログ業界に貼りついた習慣

製造業の世界、特にBtoB産業機械や制御装置の分野では、今なお「現場流儀(現場判断)」が根強く残ります。

– 年配設計者の「書き込み図面」「口頭伝承」
– ノウハウのファイリングが紙と記憶に依存
– なぜこうなっているのか分からない謎の部品や工程
– ベテランを頼る属人的な勘・コツ

こうした現場主義が「融通が利く強さ」にもなる一方、DX(デジタルトランスフォーメーション)が進む現代にあっては、大きなリスクとも裏腹です。

現場目線で見た業界動向――「標準化と柔軟性」は両立可能か

いま製造業界では、「IoT・AIによる標準化」「モジュール設計」「BOM一元化」「PLM・ERP統合」など、標準化を強力に推進する動きが加速しています。
一方、脱炭素社会やサステナビリティ志向により、「柔軟なカスタマイズ力」や「最適生産を実現する現場知のデジタル化」が求められる時代にもなっています。

要は、「一対一品対応と標準化を、同時にどこまで深化させられるか」が現場の競争力を左右する時代なのです。

ラテラルシンキングで突破口を探る――両立への現場提案

1. モジュール設計思想の導入

ひと昔前は「all custom」が当たり前でしたが、最近は「80%を標準化+20%で差別化(カスタム)」というモジュール方式への転換が加速しています。
共通部品を徹底活用し、独自仕様は仕様引き当てや現場カセットなどで変化対応する。
こうすれば、調達バイヤーやサプライヤーも一定のコスト感と柔軟性のバランスを取ることができます。

2. 「標準化委員会」や「設計横断会議」の効果

社内に設計標準化委員会や設計現場の横断会議を設置し、独自仕様案件も一度は「規格対応可否」の観点で精査する仕組みを作ると、部門間の無駄や思い込みを減らし「攻めの標準化」が促進されます。
設計と調達、生産管理、品質管理、営業が同席し、相互の事情を理解することが不可欠です。

3. 現場ノウハウの見える化とデジタル化

独自仕様の“理由”や“過去の経緯”を、動画や現場メモ、ナレッジデータベースとして可視化することで、次世代への技術伝承やリスクマネジメントが格段に強化されます。
これがDXと現場力の融合による新たな競争力につながります。

バイヤーやサプライヤーの立場で知っておくべき現場の本音

社内バイヤーや外部サプライヤーにとっても、「なぜ、現場は規格から外れたことをやりがたるのか」「なぜ、標準部品だけで設計できないのか」という現場の本音を知ることは、協働の第一歩です。

– 「他社との差別化」や「顧客との約束」を設計側は気にしている
– 「規格外=悪」ではなく、『目的がある』場合はそれも価値
– 調達や品質側も、独自仕様の設計意図まで把握する姿勢が信頼につながる

逆に設計者側も、バイヤーやサプライヤーの「調達候補やコスト最適化の苦悩」を理解し、“部門を越えた対話”が重要です。

まとめ:規格遵守と独自仕様は車の両輪――現場こそ両立のキーマン

「規格遵守」と「独自仕様」、どちらが正しいという単純な話ではありません。
この両者が共存できてはじめて、現場は本当の競争力を持ち、顧客や市場の多様な要求に応えていけるのです。

そして、その狭間で悩み、日々新たな解を試みる現場設計者・管理者こそが、これからの日本製造業の新しい地平線を切り拓く鍵となります。

設計・生産・品質・調達すべての部門で、“なぜ独自仕様が求められ、なぜ規格準拠が必要か”という立場の違いを認識しながら、「最適な折衷案」を現場から生み出す――
これが、令和の製造現場で活きるラテラルシンキングの実践例です。

工場の内外で悩むすべてのみなさんへ、
ものづくりの明日は、現場から変えられます。

最後に:製造業の未来へエールを

バイヤーやサプライヤー、現場設計者のみなさん。
葛藤こそ進化の原動力です。

規格と独自仕様、現場目線で新たな付加価値を切り開き、よりよいものづくりの未来をともに目指しましょう。

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